2012年7月6日金曜日

業況が変動しやすい製造業

世界に名が知れている日本企業ですぐ頭に浮かぶのは、トヨタ自動車、キャノン、新日鉄、ソニーなど製造業が多いでしょう。しかし、日本の産業構成は、第2次産業から第3次産業へと比重は大きく変動し、非製造業が日本産業の中心となっているのが現実です。もっとも、製造業のウエイトが小さくなったからといっても、その業況が与える日本経済へのインパクトは依然として大きいのは否定できないでしょう。
それは、リーマン・ショック後に外需を中心として製造業の業況が悪化したことによる企業業績の悪化や雇用不安から読み取ることができます。サービス業が安定しており、ショックアブソーバーの役割をきっちりと果たしているのならば、同ショック後も日本経済は安定的に成長していたはずです。やはり、マイナス成長を続けた背景には、設備投資などを通じた加速度的な需要拡大や縮小を通ずることで製造業が与える国内経済へのプレゼンスは依然として大きいといえます。
これを裏付けるものとして、今日は日本銀行提供の企業短期経済観測(日銀短観)を取り上げてみることにします。右図は2005年からの大企業・中小企業、製造業・非製造業別の業況D.I.の推移を示したものです。因みに、日銀の業況D.I.とは、「収益を中心とした全般的な業況」に関する判断を示すもので、「1.良い」、「2.さほど良くない」、「3.悪い」という3つの選択肢の中から1つを実際の企業に回答してもらい、それぞれの回答社数の構成比を求めた上で、「1.良い」の社数構成比から「3.悪い」の社数構成比を引いて算出します(注)。図からは、大企業・中小企業ともに製造業の業況の変動が、非製造業よりも大きいことが分かります。製造業が非製造業に先行するかどうかは、グラフからは分かりにくいところですが、直感的には製造業が、非製造業に先行するものと考えられます。
企業の業況を表す指標として財務省発表の『法人企業統計』を挙げてみます。右図は、全産業、製造業、非製造業別の売上高対営業利益率を推移を示したものです。ここでも製造業の業況の変動幅が、非製造業のものよりも大きいことが分かります。特に、このデータに関しては、非製造業の安定ぶりがはっきりと現れており、日銀短観以上に業況の差がはっきりとしている点で驚きです。製造業の営業利益が2009年前半にマイナスにまで落ち込んいる一方で、非製造業は大幅な減益にとどまっており、製造業の営業利益に引っ張られる形で、全産業の営業利益が減少していることが読み取ることができます。また、製造業が非製造業にやや先行しているような気がします。
 今日の引用は『週刊エコノミスト』2012年7月3日号の掲載記事です。記事の題目は『製造業の復活のカギは「ファンド化』です。記事の冒頭には、日本の製造業が追い込まれていること、営業利益率が低下傾向にあることを指摘しています。以下引用文。
 『翻って現在。企業は恒常的に貯蓄過剰となっている。過去と状況は違えども膨大なマネーを抱えている点は同じだ。ここで重要なカギを握るのが「金融機能の強化」である。具体的には、日本の製造業が自らのコアビジネスとして蓄積してきた領域・分野に近い海外企業を、保有する膨大なマネーをテコにM&Aで買収したり、投資したりする機能の強化である。 未公開株式を取得し、株式公開や第三者に売却することで、利益を獲得するプライベートエクイティ(PE)ファンドをイメージすればいい。製造業の企業自体がいわば「モノづくりPEファンド」になるのである。 その際、買収・投資先(海外企業)の価値を高めるうえで威力を発揮するのは、日本の製造業がこれまでに培ってきた経験・知識である。競争の激しいグローバル経済で、日本の製造業の強みは、工程管理や設計・開発などでの「すり合わせ」「つくり込み」だと指摘する者も多い。その強みは海外でも一目置かれている。 そこで、比較優位のあるこの強みの一部を活用し、「コンサルティング機能の強化」を図ることで、買収・投資先(海外企業)の価値を高めていくのである。具体的には、専門知識や経験は不足しているが、人件費やその他の経費が安く、市場の成長が期待できる新興国の同業者に的を絞って投資する。そして、製造・生産の機能について経営幹部や工場長、職長などを派遣したり、協力業者や原材料供給業者を選定するといったコンサルを行いつつ、企業価値を高めるのだ。場合によっては、価値を高めた後、高値で売却してもいい
 上述の方法を含め、日本の製造業の復活へ向けた手段は色々あると思います。日銀短観や企業法人統計が示すように、リーマン・ショック後の景気変動を主導したのは、製造業の業況悪化であり、製造業の復活なくして日本経済の本格回復はないとも捉えることができます。復活のためには、何でも利用するべきであるというのが、日本の製造業の置かれている状況でしょう。
(注)日本銀行ホームページ参照。

0 件のコメント:

コメントを投稿