2012年7月15日日曜日

国内ではじり貧、邦銀は海外市場で活路を

このブログでは、海外で活躍している邦銀についていくつか書いています。2012年6月14日付『貿易金融でシェア倍増、復活のみられる日本の金融グルーブ』のブログでは、欧州債務危機を背景に、欧州の金融機関が、貿易金融の分野においてアジア、オセアニア地域でシェアを落とす一方で、邦銀のプレゼンスが高まっていることを書きました。また、2012年6月24日付『モリブデン確保に向け、三菱UFJが融資』のブログでは、製造業が調達に窮しているレアメタルの分野で、三菱UFJなどがチリの公社へ融資する見返りに、モリブデンを安定供給するという条件を取り付けるなど、商社の独壇場ともいえる分野へ銀行が進出することに非常に驚きを感じました。そして、極めつけは、2012年5月2日付『イスラム金融と天然ガス』のブログです。このブログでは、イスラム金融に基づき三菱UFJと三井住友がブルネイにLNGを輸送用の船舶の購入資金を融資、エネルギー危機に苦しむ日本経済にLNGの安定供給先の確保をする上で重要な役割を果たしていることを記述しました。上記3つのブログは、いずれも邦銀の海外で活躍を示したものです。
 そして、ここへきて欧米の大手金融機関が一斉に格付けが大幅に引き下げられ、欧米の金融機関の体力が弱っていることが鮮明となってきました。三菱UFJがモルガン・スタンレーの普通株を保有し、連結対象となっていることでやや冷水を浴びせられている感はあります。しかし、ここで、市場から資金を調達するのではなく、預金に基づく潤沢かつ安定した資金を最大限有効活用することで、邦銀にとって海外市場でのビジネスチャンスが広がっているという状況が見えてきました。
 もっとも、この背景には、邦銀は、国内での貸出需要の減退、貸出金利の低下に加え、国債利回りの低落など、運用面での難問を抱えていることがあります。確かに、大手の邦銀は、国債利回りの低下により期近の決算では国債保有により多額の評価益を計上し、比較的好調な業績となりました。しかし、国債利回りの低下による利益計上は、既に限界が見えてきており、次ぎはないと考えてもいいでしょう。上図は、国内銀行貸出約定平均金利(新規、長期)と国債利回りの推移を示しています。ともに低下し続けており、直接みえてこない運用コストを考慮した場合、実際の利ざやはほとんどないともいえます。国内では儲けることができない邦銀は、収益を求めて海外市場へと再びトライするしかないのです。
 2012年7月10日付日本経済新聞朝刊に銀行収益の圧迫についての記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『企業の調達コスト最低、貸出金利1%割れ、カネ余りでも投資に慎重』です。以下引用文。
 『企業の資金調達コストの低下が止まらない。5月の国内銀行の貸出金利の平均は0.989%となり、1993年の統計開始以来初めて1%を割り込んだ。信用力のある企業が発行する社債の金利も相次ぎ1%を下回った。低金利でも、先行き不透明感から企業は借金して投資をすることには慎重なためだ。空前の「カネ余り」なのに、実体経済にはお金が行き渡りにくい状態が続いている。 国内銀行の6月の貸出残高は約400兆円。預金残高はこれを約200兆円上回った。預金の伸びが貸出の伸びを上回った結果、この差額は10年間で2倍に拡大した。 預金を元手に融資するのが銀行の本業だが、法人向け融資は5月時点で総額262兆円と、ピーク時の95年当時の7割未満にとどまっている。企業の資金需要が乏しいため銀行の手元に預金が積み上がる「カネ余り」となり、貸出金利がさらに下がる構図だ』
 「カネ余り」など贅沢な話です。欧州の金融機関は市場から資金を主に調達、倒産したデクシア(ベルギー)は3割程度しか預金で資金を調達していませんでした。BNPパリバ(仏)、ソシエテ・ジェネラル(仏)、バークレイズ(英)、クレディ・アグリコル(仏)なども4割か、それを下回る水準でしか預金の裏付けがないという実情があります。ここは、チャンスです。市場での資金の融通がタイトになっている中で、欧州の金融機関は身動きがとれなくなっているはずです。上記で示したように、国内市場には閉塞感があります。邦銀の世界市場でのビジネス展開は、ある意味、先行して進出している製造業の支援にもつながります。邦銀にとってせっかく訪れたチャンスです。逃さない手はないでしょう。

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