2012年3月20日火曜日

気になる米金融機関の業況

ストレステストというば、最近では原子力発電所の再稼働に向けたストレステストの結果が気になるところです。国民の信頼が得られていない状況で、原子力安全委員や電力会社が関わっているストレステストの結果に意味があるかどうか甚だ疑問です。もっとも、ストレステストで、よく知られるのが金融機関に対するものです。金融機関に対するストレステストとは、市場変動に伴って、自己資本比率がどの程度毀損するかをシミュレーションするもので、かなり前から実施されており、金融機関の安全性を確認する上での定着した手法です。
 金融機関に対するストレスとは、具体的には「経済成長率がマイナス5%」「通貨相場が10%上昇」「国債価格が30%下落」など検査対象の金融機関にとって不利な仮定を設定し、自己資本比率などがどの程度低下するかを測るものです。今般、FRBが主要米金融機関に対するストレステストの結果を発表しました。日本と同様、米国の金融機関も統廃合が進み、10年前に存在していた金融機関が、その名をとどめたまま生き残っているケースは少ないようです。しかし、シティー、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックスなどなじみ深い銀行名も残っています。上図は、主要な米金融機関に対して行ったストレステストの結果を示したものです。レポートによれば、Tier1比率を対象としていますが、Tier-1比率とは何かという疑問があります。三菱フィナンシャルUFJのホームページに、Tier-1比率の用語解説がありましたので、そのまま引用します。
『(Tier1比率とは)自己資本比率規制における自己資本は、資本金、剰余金等により構成される基本的項目(Tier1)、及び、含み益、劣後負債等により構成される補完的項目(Tier2)から、控除項目を差し引いたものを指します。Tier1比率とは、この基本的項目(Tier1)を分子として自己資本比率を計算したものであり、補完的項目(Tier2)等を含む自己資本比率に比べ、財務内容の健全性をより表した指標と言えます。
 ストレステストの結果で注目できるのは、以下の3つの金融機関です。
  • American Express Company
  • The Bank of New York Mellon Corporation
  • State Street Corporation
 上記は、いずれも特徴のある業務に特化した金融機関であるといえます。アメリカン・エクスプレスは言わずも知れたカード会社です。Mellon Bankはかつてスーパーリージョンなる銀行として名をはせた銀行であり、買収に次ぐ、買収を重ねて金融センターの大手金融機関へとのし上がったという経緯があります。そして、ステート・ストリートは、世界最大のカストディ業務(注)、つまり有価証券の管理業務に特化、安定した手数料収入を得ている金融機関です。上記3つの金融機関は、2013年第4四半期でやや低下しているものの、ストレステストの結果で、いずれも10%以上の自己資本比率を維持しています。2012年3月16日付け『CDSの恐怖』のブログの中で綴ったように、米国の金融機関による保証債務の問題がクローズアップされています。米国の金融機関は、依然として厳しい状況にあり、破綻など最悪のケースが発生すれば、カウンターパーティーリスク(取引相手のデフォルトリスク)を通じて日本の金融機関の業績に影響を与えるとされています。金融の自由化、国際化は色々な資本移動を自由にした結果、効率化をうんだというプラスの面があります。一方で、他国の金融危機が自国へと直結することで、世界経済が同時に不安定化するというデメリットをリーマンショックで痛感したばかりです。金融自由化ではなく、今後は金融機関への規制強化が求められるでしょう。
(注)日本の金融機関では、信託銀行が有価証券の管理業務を行っている。ステート・ストリートは、業務の特化を進めており、貸出なども広く行っている日本信託銀行よりも業務分野は狭いかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿