日本、米国、欧州など先進諸国のイールドカーブは、大幅な金融緩和をしていることから、単純な動きをしています。つまり、短期金利がゼロを少しばかり上回る水準でほぼ固定されている中で、その時々のデフォルトリスクの程度やインフレ懸念の程度により長期金利が上げ下げを繰り返しているのです。南欧諸国のデフォルトリスクが高まれば、米国やドイツの国債が買われ、長期金利が低下する一方で、インフレ懸念が発生すれば長期金利が上昇するというパターンを繰り返しているのが、リーマンショック以降の日・米・欧のイールドカーブといえます。
右図は、それを示したイメージ図です。①を市場の期待心理が安定している時のイールドカーブとします。ここで、南欧諸国のデフォルトリスクが高まれば、米国やドイツなどの国債が買われ、両国のイールドカーブは③の状態になります。一方、過度な金融緩和により商品相場が上昇し、市場にインフレ懸念が発生すれば、イールドカーブは②の状態になります。短期金利がゼロ金利に極めて近い水準で固定されているのですから、イールドカーブは、①→③(もしくは③→①)又は①→②(もしくは②→①)と狭いレンジで変化しているといえます。事実、昨年の12月から今年の1月にかけて、欧州債務危機が深刻化した結果、米国の国債が買われ、米国のイールドカーブは、③の状態になりました。その後、今年の3月に入ってからは、原油価格の上昇を背景にインフレ懸念が発生し、米国のイールドカープは②の状態になりました。2014年まで米国は超低金利政策を維持します。しばらくは上記のようなイールドカーブが繰り返されることが予想されます。
面白いのがオーストラリアのイールドカーブです。オーストラリアの政策金利は、先進国の先行指標であるといわれます。しかし、リーマンショック以降は、そのような状態になっていないようです。資源価格や豪ドルの上げ下げに応じて、短期金利が変動し、その影響を受け、長期金利が変動することで、同国ではより複雑な動きをするイールドカーブが形成しています。
右図は、ここ半年くらいのオーストラリアのイールドカーブの変動をイメージしたものです。まず、同国のイールドカーブがもともと①の状態にあったとします。ここで、景気失速懸念を背景に、政策金利が引き下げられたとします。その結果、長期金利が下がらない中で、短期金利だけが低下することになり、イールドカーブはややステープな②の状態になります。ここで、長期金利が低下しない理由としては、同国の潜在成長率が他国と比べてそもそも高いこと、経常収支の赤字国で、もともとインフレ傾向にあり、実質金利は十分低いことなどの要因が挙げられます。もっとも、資源高を背景に、インフレが発生した場合、長期金利が上昇する一方で、長期金利高に起因する自国通貨高を回避するため、政策金利の引き下げが行われることになります。オーストラリアの政策金利はピークから2度引き下げられています。この結果、イールドカーブはよりスティープな③の状態になっているのです。
このイールドカーブが事実なのかデータで裏付ける必要があります。まず、短期金利です。豪ドル建てのMMFの利回りは、昨年末の4%強の水準から期近では3.8%程度まで低下しています。次に長期金利です。私はたまたま某証券会社が提供する欧州復興開発銀行の豪ドル建ての割引債のデータをメモっていました。残存期間は16年で、2011年12月7日時点の利回りは5.83%、額面100豪ドルに対して価格は39.47豪ドルでした。同じ債券が、2012年3月26日時点では利回りが6.21%に上昇し、価格は37.88豪ドルまで下落しています。この間、欧州復興開発銀行の格付けはトリプルAで変化なく、残存期間は短くなっているにもかかわらず利回りは逆に上昇しているのです。つまり、短期金利が低下する一方で、一時的かもしれませんが、逆に長期金利が上昇するという事態が発生しているのです。
オーストラリアの金利の動きを追っていると勉強になります。インフレや自国通貨の変動に応じた機動的な政策金利の上げ下げは、かつては欧米諸国や日本にもあったことです。しかし、金融危機を背景に、ほとんどの先進諸国が金融部門で動脈硬化(注)を起こしています。危機が解決し、金融市場が正常に機能し始めれば、もとの姿へと戻るでしょう。やはり、日本の金利水準は特殊ですね。20年以上も事実上ゼロ金利政策が維持されている国などほかにないです。
(注)金融は経済の血管とも血液とも例えられます。そうした例えから動脈硬化という言葉を使用しました。
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