2012年3月23日金曜日

流動性ジレンマと金(ゴールド)

国際経済を考えるに当たって、常に問題となるのが「流動性ジレンマ」です。第2次世界大戦後、世界経済が復興を遂げるには流動性の確保が必要となったはずです。しかし、英国経済の疲弊に伴って、英ポンドの信認も低下、国際通貨としての地位は、米ドルへと移行せざるを得なかったのでしょう。その中で、著名な経済学者であるケインズが、IMF(国際通貨基金)の設立に向けて米国主導のものではなく、金などの30種類の基礎材をもとに算出される国際通貨、バンコールを発行する国際金融システムづくりに奔走したのは有名な話です。
当時、米国経済は、不足していた製品を供給できる工業国であったものの、物資を必要としたヨーロッパの国々から輸出代金を受け取ろうにも、ヨーロッパにある主要国は流動性不足の状態であったことが推測されます。結果として、輸出ができない状態となりますが、そこに米国により大規模な援助(流動性の供給)、復興援助計画マーシャル・プランが実施され、欧州経済の復興の礎となったといえます。「流動性のジレンマ」とは、国際経済の中で基軸通貨となる国が、国際的にも競争力を有していると、貿易黒字となり流動性供給が不十分となる。逆に、基軸通貨の国の経済力の低下に伴って競争力低下し始めると、貿易赤字を通じて国際経済への流動性供給は十分に供給される反面、基軸通貨国の信認の低下へと結びつき、結果として流動性は不安定化することを示しています。
米国は、金1オンス=35米ドルに固定し、米ドルに対して各国は固定相場を維持する体制を作り上げました。これをブレトン・ウッズ協定に基づく戦後体制で、この固定相場のもと、日本やドイツが奇跡の復興を遂げました。しかし、米国の国際競争力が低下し、同国からの金の流出が止まらなくなり、1971年のニクソン・ショックにより金・ドルの交換が停止されました。その後は、変動相場制へと移行、米ドルが大幅に減価していく時代が到来しました。現在は、1ドル=80円強の水準ですが、ニクソンショック前は1ドル=360円だったのですから、下落率は実に80%近くになります。そして、リーマンショック以降は、巨額の財政赤字を抱えた米国経済はさらに信認を低下させる一方、ユーロの創設、中国の台頭などにより新たな国際通貨のづくりが求められるというのが、昨今の通貨問題です。一時、ユーロを外貨準備高に加えるなどの動きがあったものの、ユーロ債務危機を端を発し、ユーロの信認は低下、ユーロの大幅な減価へとつながっています。こうした中で、中国人民元のプレゼンスは増しているものの、中国経済は常に輸出超過であり、国際経済に安定して流動性を供給するには、力不足であるだけでなく、管理され、得体の知れない通貨に世界経済が過度に依存することは危険です。つまり、現在、国際経済は、安定した通貨が不在の状態にあるといえ、それを背景には流動性の問題が声高く叫ばれているのです。
このような状況下で、クローズアップされているのが、金(ゴールド)です。最近では、金本位制への復活を提唱する意見もあり、安定した通貨となりうるのではないかいう点で、金が脚光を浴びています。しかし、私は、金は国際通貨にはなり得ないと考えています。ドルが減価したからといっても米国は、いまだに他国の追随を許さない経済規模を有しています。日本の3倍近くの経済規模です。人口も引き続き増加しており、数年中には中国よりも人口構成で若くなるのではないかと予想されています。人口が停滞し、活気を失っている日本やヨーロッパなどと違い、米国経済は依然として躍進を続けているのです。そして、米ドルの減価が著しいものの、国際経済には米ドルという豊富な流動性に満たされており、昨今の新興国の経済発展をもたらしました一因でもあります。
米ドルに米国経済という問題が常につきまとっているように、金にも特有の問題があります。一つは、金の産出量、埋蔵量の偏りです。現在、1オンス1,600〜1,700ドル程度で推移していますが、国際通貨として信認されたのならば、各国はこぞって金の保有を進めます。結果として、ドルの暴落、そして金の暴騰をもたらすこととなります。この時、富める国も、貧しき国も同様に金を保有しているのならば問題はないです。また、日本国内でもそうです。金を持っている世帯などごく一部です。そして、金の暴騰は、既に大量の金を保有している国や金を持っている世帯など一部の国、人々に富をもたらす一方で、持たざる国や人々は自分の持っている少額の資産がみるみるうちに減価していくことを意味しているのです。公平性の観点かから金の国際通貨への採用は望ましくないと思います。
もう一つの問題は、ドルと金を比べた場合、金の方が価格変動リスクが大きいということです。1ドル=360円で80%の減価したのに対して、1オンス=35ドルであったものが、現在では1,600ドルにまで高騰、40倍を超える水準にまでなっています。右図は、2004年からの金価格と円ドル相場の推移を示しています。ここ10年くらいをみても、2007年6月の1米ドル=123円のピークに30%強の減価にとどまってるのに対して、金は2004年5月の1オンス=384ドルの底から4倍以上にもなっています。米ドルが金と同様の変動幅で動いた場合、つまり4倍の逆数である75%の減価となった場合、1米ドル=30円の水準にまでなっています。無機質な金と違って、実際の米ドルがここまで変動しないのは、米国には生活をしている人々がおり、彼らが生活を営むにあたって米ドルは不可欠な存在だからです。確かに通貨の機能のうち、価値保蔵の機能はやや毀損していますが、価値尺度、交換手段という機能は正常に立派に作動しているのです。そもそも「お金」とは、物を購入する手段として発展したのであって、価値保蔵の機能は補完的なものです。ドルの減価は、ドルを十分持っていて、保有している外貨の価値が毀損しているからこそ発生している、持っているものからみた視点だと考えています。世界の富に偏在があるのならば、それに課税する米ドルの減価はむしろ歓迎すべきことかもしれません。

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