2012年3月30日金曜日

リスク回避な家計と合成の誤謬

 金融商品には色々なものがあります。代表的なのが銀行預金です。銀行預金は余りにも身近すぎて、金融商品の一つであるという認識で保有している人が少ない気がします。しかし、銀行預金は立派な金融商品であり、そして家計の金融資産の6割近くを占めるのが銀行預金です。日本銀行調査統計局『資金循環統計』はそのことを端的に示しています。この他、比較的安定しており、将来に対する備えという性格が強い保険・年金準備金が3割弱で、現金・預金と年金・年金準備金を合わせて、家計の金融資産の85%もの割合がリスクの小さい金融商品へと投じられていることになります。債券、投資信託、債券の割合は合計で11%であり、わが国の家計は、リスク・アバーター(risk averter、危険回避者)であるといえます。ここでリスクが小さいと表現したのは、銀行預金でも、一昨年初めてペイオフが実施されたからです。1,000万円以上の預金保有者は、預金保険機構により保護の対象であり、少なからずリスクがあるのです。
 一方で、価格変動などのリスクがある商品として代表的なのが投資信託、株式などです。投資を少しでも考えたことのある人ならば、これらの商品がまず思い浮かび上がるでしょう。一方で、日本の場合、国債など債券を持っている人の割合は、少ないような気がします。私の周りにいないだけで、本当はかなりの方々が保有しているかもしれません。上のデータからは、株式が6%、投資信託3%に対して債券が2%となっており、リスク商品を保有している人は少なからず債券を保有している可能性があります。これは意外でした。しかし、現金・預金の一部、例えば5%に当たる40兆円の資金が株式などに投じられれば、株式が活況を呈すると思います。やはり、金融資産の保有者の大半が、比較的年齢が高い層に集中しており、リスクをとってまで運用をとる必要がないことから、このような状態になっていると考えられます。
 右図は、家計が保有する金融資産の項目別の前年比伸び率を示しています。現金・預金の伸び率は、ここ10年では高くて2011年の2.1%増で、マイナスであった年も2回ほどあります。名目所得に減少傾向がある中、家計は消費支出を抑えることで、ここ数年の現金・預金の伸びを維持してきたといえます。もっとも、リスク回避を望む家計として最適と思われる、この消費・貯蓄のバランスは、決して貯蓄を一意的に増加させるわけではありません。家計が過剰に貯蓄することで、消費性向が低下、それが所得の減少へと結びつき、最終的に貯蓄の減少(又は伸び率の低下)を招くという結果をもたらします。つまり「合成の誤謬」です。お金は使って初めて価値を持ちます。日本の家計は、少しは刹那的になって消費活動に邁進するのもいいのではないかと思っています。また、上図は、もう一つの重要なことを教えてくれます。家計の金融資産が大きく増加し、逆に大きく減少した年は、金融資産全体の伸びが大きく変動していることです。つまり、株式、投資信託などのリスクが比較的高い金融資産の価格が上昇すれば、家計が保有する金融資産は確実に増加することを意味しています。もう少しリスクテイクをしてもいいのではないでしょうか。
 米国では、リーマンショック以降、一時期失業率が10%を超えるまで経済は悪化しました。期近では失業率は8.3%にまで低下、NY連銀は2013年の上半期には失業率は6%台まで低下するレポートを発表しています。米国の人々は、我々日本人と比べて楽観的なところがあるような気がします。昨年、話題となった学生ローンに苦しむ若年層の雇用問題、低所得者の問題、医療問題など米国の家計を取り巻く環境は決して楽ではありません。しかし、株価は着実に上昇しており、市場関係者にやや楽観的な見方が広がっているようです。日本もこのような流れになれば、経済は確実に回復するのです。
 また、家計が頑張った結果、増加した預金も決して適切に運用されているわけではありません。預けられた預金を運用する銀行サイドも、貸出需要がない中で、国債市場でしか投資する対象がなく、1%前後で10年物国債の利回りが推移する空前の超低金利を状況を生み出しています。結果として、家計の第2の金融資産である保険・年金準備金の運用環境を悪化させています。ここにも「合成の誤謬」があるといえるでしょう。

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