2012年10月31日水曜日

減速するロシア経済と存在感を増すシェールオイル

 先日、NHKのドキュメンタリーでシェールオイルについての報道がありました。少し前までは、米国でシェールガスの生産に成功し、膨大な埋蔵量と産出量からシェールガス革命と言われていました。次は、本命とされるシェールオイルの開発にも成功、順調に生産規模を拡大させているそうです。

 アメリカ国家石油査問委員会では、2011年9月に驚くべき報告書を発表しました。同番組によれば、北米大陸における豊富な石油・天然ガス資源の可能性を示唆、『革新的なテクノロジーが膨大な石油と天然ガスを解放した。おそらく多くの人々を驚かせるのはアメリカの石油資源が、これまで考えられた以上に膨大だということだ』としています。そして、レポートでは、2035年には、これまでの原油にシェールオイルを加えた生産量は、カナダを含む北米大陸で日量2200万バレルに達するとの推測を示しました。この量は、現在の原油生産1位のロシアと2位のサウジアラビアの合計を上回る驚異的な数字であり、エネルギー生産の根本的な流れを変える可能性があります。そして、石油・天然ガス産業は米国経済の活性化、数百万人の雇用の創出にな不可欠な存在であるとともに、政府に膨大な利益をもたらす、とまで言っています。

 しかし、この量が新たに加われば、下落してもおかしくないのですが、原油価格は高止まりしています。米国では、90年代1ガロン1ドルであったガソリン価格は、4ドル台まで上昇しており、庶民の財布を直撃しており、一部では石油会社が暴利を貪っているという指摘もあります。実際は、原油価格の高止まりは、シェールオイルの掘削コストに原因があるようです。サウジアラビアでの原油の掘削コストは開発費も含めて、1バレル当たり5ドル程度ですが、シェールオイルの掘削コストは、1バレル当たり70〜80ドルに達します。ここで、原油価格が60〜70ドルまで下がれば、シェールオイルの生産が減速し、原油価格が下げ止まり、逆に上昇すれば、生産が活発化することが背景にあります。結果として、シェールオイルの開発コストが原油価格の底値をつくり出しているのです。
 原油価格1バレル当たり150ドル超かと思われた時期が、リーマン・ショック直前までありました。その原油高の影響もあって絶好調だったのがロシア経済です。しかし、シェールオイルの存在から、原油がかつての水準になる可能性はほぼなくなり、むしろ天然ガス価格の底割れがロシア経済を直撃しているようです。天然資源依存では、高い成長を維持することが困難になっており、民間投資を呼び込むなどの内需活性化策が求められています。原油価格とロシア経済に関する記事が、2012年10月25日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ロシア陰る成長、GDP7〜9月2.8%増に鈍化、内需低調』です。以下引用文。
 『【モスクワ=石川陽平】ロシア経済の成長鈍化が鮮明になってきた。7〜9月の国内総生産(GDP)の伸び率は前年同期比に比べ2.8%にとどまり、4〜6月の同4.0%から低下した。けん引役の投資や個人消費など内需に陰りが出て、石油など資源輸出に頼る成長モデルも限界に達しつつある。同じBRICs諸国の中国やインドに続くロシアの景気減速は、世界経済の新たな懸念要因になりそうだ。(中略)
 ロシアではGDPの約2割、輸出の6割超を石油と天然ガスが占め、内需への影響が大きい。これまでは1バレル110ドル前後に高騰した原油価格が景気浮揚を支えたが、油価が上がる余地は小さく、今後の押し上げ要因にもなりにくい。クドリン前副首相兼財務相は9月下旬「(ロシア経済は)停滞の瀬戸際にある」と指摘した』
 天然ガスの生産では、米国がロシアを上回るという事態になりました。結果、米国へと輸出されていたカタールの天然ガスが余り、ヨーロッパ市場へと流れ込みました。これまで、天然ガスをロシアに過度に依存していたヨーロッパ諸国は、ロシア依存から脱却できました。これに、ヨーロッパ諸国の景気低迷が加わり、それがロシア経済を直撃した格好となっています。ロシアは、中国、日本などアジア諸国に目を向け、新たなる資源外交を展開しようとしていますが、むしろ日本などは米国からシェールガス輸入開始に向けた準備を進めており、商社などが積極的に活動しています。
 資源依存からの脱皮こそが、ロシア経済が順調に成長するカギです。今後のロシアの出方に注目されます。もっとも、シェールガス、シェールオイルの生産には、フラッキングという技術が使われます。このフラッキングには、化学物質を含んだ大量の水を使用します。この化学物資により地下水を汚染されるという危険が指摘されています。石油会社も、化学物質に何が含まれているか、企業秘密から明らかにしていません。資源大国を目指す米国の原油生産の順調な拡大にはやや問題があるようです。かつての超大国と、かつての唯一の超大国であるロシアと米国が、ともにエネルギー生産に左右される経済体質になっているのが驚きを感じます。

2012年10月30日火曜日

国債保有リスクが増大する国内銀行

 先日、東京で開催された国際通貨基金(IMF)、世界銀行の年次総会では、邦銀の国債保有のリスクが高まっていることが言及されました。確かに、景気が冷え込んでいる上、内部留保が充実し、外部資金に依存しない企業が増え、企業による銀行に対する借り入れ需要が減少しています。この時点で、邦銀が余剰資金を安全とされる国債へと投じるのはやむを得ないことだと思います。しかし、今回のシャープの経営危機を支えているのは、銀行の資金であり、シャープは本社ビルまで担保に入れるという異例の事態となりました。パナソニックもいざというときに融資を引き出せる国内最大規模の6,000億円という融資枠契約を大手銀行と先日結んだばかりです。また、ソフトバンクによる米スプリント・ネクステルの買収では1.5兆円にものぼる買収資金を国内大手行を中心とした協調融資により賄うなど、銀行の存在感は増している気がします。

 欧米の金融機関が、資金を回収に向け縮小傾向にある中で、経営に安定感があり、格付けも相対的に高い邦銀は、貿易金融など国際金融の場でプレゼンスを高めており、今後の活躍が期待されています。しかし、これは「諸刃の剣」であることも認識する必要があります。海外からの資金需要が増大し、かつ国内景気が回復、民間企業からの資金需要も増加した場合、今まで国債市場へと投じていた資金を回収し、融資と振り向けなければなりません。この時、金融機関が一度に大量の国債を売却すれば、長期金利が急上昇し、評価損により自己資本が毀損する恐れがあります。


 日本銀行発行の『金融システムレポート』に、長期金利に対する市場関係者の見方が掲載されていました。0.7%台にまで低下した10年債の利回りが1%前後まで上昇するきっかけは、42%が「海外金利の急上昇」、19%が「景気回復・株価の急伸」としていました。米国の金融緩和は、2014年くらいまでは続くことが予想されている上、2014年4月に消費税率の引き上げが決まっています。つまり、2014年には海外金利が上昇しやすくなること、消費税率の引き上げまでは、先食いの消費需要が高まり国内景気が回復することが考えられ、2つの要因が重なることとなります。その結果、国債利回りが急上昇する可能性があります。日本銀行発表の国債の主体別保有残高は、預金取扱金融機関、つまり銀行・信金などが38.4%も占めています。保険・年金基金は、長期で資金を調達している上、長期で運用しているため、影響が限定されます。一方、銀行などは短期で資金を調達していることから、調達と運用で期間のミスマッチが生じており、長期金利の急上昇の影響が大きいといえます。

 金利上昇が与える影響に関する記事が、2012年10月20日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『金利が1%上昇したら、銀行・信金、損失8.3兆円。日銀資産』です。金利が1%だけ上昇した場合、貸出金利の上昇による収益改善と国債の評価損が相殺され、影響が限定的となるものの、2%以上上昇した場合は自己資本比率が低下することが予想されています。以下記事引用。
 『日銀は19日、金融システムの現状を分析した「金融システムレポート」を発表した。国内金利が一律1%上昇すると、3月末時点で大手銀行は3.7兆円、地域銀行は3兆円、信用金庫は1.6兆円の評価損が生じるとの試算を示した。国債の保有残高が増えたため、3業態合計の評価損は8.3兆円と、1年前に比べて約1兆円増えた。
 大手銀の評価損は3ヵ月前と比べても0.3兆円増えた。貸出先が乏しい地銀や信金は償還までの期間が長い国債への投資を増やしており、金利変動に伴うリスクの増大につながっている』
 バブル崩壊の痛手から立ち直った国内の金融機関ですが、過度な低金利政策を続け過ぎた弊害が、現実のものとなろうとしています。景気回復は、国債利回りの上昇をもたらす上、財政規律を失ったともいえる、わが国政府の国債に対する支出を増大させることを意味します。この結果、金利上昇と財政悪化を繰り返すという悪循環に陥る可能性は十分にあります。そして、国内銀行は、国債利回りの上昇による評価損の発生が不可避となるのです。この事態を回避するには、消費税率引き上げによる需要回復に応じて、政府支出の適宜削減し、民間の需要増と政府の需要減をシンクロさせることが求められます。景気回復は小さいものになりますが、国内銀行による国債の保有残高を考慮すれば、ソフトランディングさせなければ大変なことになるでしょう。

2012年10月29日月曜日

サイゼリヤ、注文端末にiPod Touch導入

 私は、住んでいるところからやや離れたところにありますが、外食大手のサイゼリヤの店舗によく足を運びます。注文するメニューはいつも同じで、ミックスグリルのスープーセットと、サラダを別メニューで一品追加します。他のメニューもチャレンジすればいいのですが、サイゼリヤが提供するミックスグリルは、コストパフォーマンスと味において、他の外食チェーン店を圧倒しており、私にメニューを変える勇気を失わせほどのものです。
 このサイゼリヤが、注文端末にiPod Touchを導入することが、先日、日経新聞に掲載されていましたので確かめたくなり、夕食に行ってきました。メニューを注文する際に、担当者の手元をじろっとみるなどして、やや不振な行動となりました。結果、見ても判断がつかなかったため、直接聞いてみることにしました。担当者の回答は、導入はまだとのことでした。それで、ややがっかりしたものの、いつもミックスグリル(写真、iPod Tochにて撮影)を注文しました。そして、満足な食事をとった後、家に帰り、やや疑問に思いましたので、日経新聞の記事の内容をチェックしました。すると11月から導入する旨、記載がありました。早まったと感じましたが、11月になったら早々に、店舗視察に行くことにします。2012年10月9日付日本経済新聞Web刊に、このサイゼリヤに関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『注文端末をiPodタッチに、サイゼリヤ、経費削減』です。以下引用文。
 『サイゼリヤは米アップルの携帯プレーヤー「iPod(アイポッド)タッチ」を使った料理の注文端末を11月から導入する。来年2月をメドに国内1千店弱に4台ずつ配備する。大手外食チェーンでは珍しい取り組み。端末の保守費用などの経費を年間2億〜3億円削減できるという。
 アイポッドに注文端末として利用できるアプリを組み込み、埼玉県三郷市内の店舗で9月に実験的に導入。指先でタッチしたりスクロールしたりするなどスマートフォン(高機能携帯電話)と操作方法が同じで、入力ミスが減ったうえ、注文の変更や座席の移動などにも対応しやすいという』
 サイゼリヤは、理工系の学生を中心に採用することが、ニュース番組『ビジネスサテライト』で以前紹介されていました。数学や統計などを使えば、外食チェーンの現場の合理化がさらに進むと考えた結果の経営方針でしょう。このサイゼリヤだからこそ、iPod Touchの導入も、現場サイドからのアイデアである可能性は十分にあります。実際に働いてみないと詳しいことが分からないでしょう。身近な存在であるものの、遠く離れた場所で合理化が進められているのが、外食チェーンであるといえます。
 サイゼリヤには、何か他にも同社ならではのアイデアがあるのではないかと考え、店舗内を注意して眺めてみましたが、残念ながら、外食チェーン店に勤めた経験がない私にとって、何が凄いのかは分かりませんでした。関心を持たないと気がつかないのが人間です。そこで、伝票をじっくりとみました。すると、バーコードが左下の部分に印刷されていることに気付きました。それで、お金を支払う際に、レジ係がどのように、この伝票を取り扱うのかをチェックしました。すると、この伝票を、レジ左下にあるバーコードリーダーに読ませ、瞬時に支払額がレジに表示されることを知りました。他のチェーン店でも同じなのかも知れませんが、改めて驚いた次第です。サイゼリヤの売上高は、リーマン・ショック後も伸び続けています。しかし、ここへきて、2期連続の営業減益となっています。経費を削減し、利益率のアップが同社の課題です。現行の注文端末は蓋が壊れやすく、かつ保守費用もかさむそうです。外食チェーンによるiPod Touchの導入に注目したいところです。

2012年10月28日日曜日

減少傾向を示し始めた中国人観光客

 テレビを観ていると、中国人の観光客の日本での買いものをする姿が映し出され、その豪快さに驚きを感じることがちょくちょくあります。その対象は、ブランド品、家電製品、はたまた骨董品までと幅広く、札束が飛び交っています。しかし、日本政府が尖閣諸島の国有化した9月以降は、中国人の団体客のキャンセルが相次ぎ、地方の観光地や東京のショッピング街などで悲鳴が上がっています。今、ショッピングを目的として来日していた中国人は、韓国に押し寄せているそうです。

 地方では、売上減少に厳しさが増している中、比較的友好関係が続いているASEAN諸国を中心に日本観光のPRを進めています。NHKのニュース報道でも、インドネシアからの観光客を誘致し、富士山ふもとをサイクリングするといったツアーを企画するなど、手をこまねいているだけではないようです。ASEAN諸国は所得水準も高くなっている上、魅力的なのは、その人口規模です。ASEAN加盟10カ国の人口は、中国の約13億人には遠く及ばないものの、域内人口約5億7千万人に達しており、北米自由貿易協定(NAFTA)約4億4千万人、欧州連合(EU)約5億人を大きく上回っています。今後の所得水準の伸び次第では、日本の観光産業にとってきっとプラスになります。現在は、一部の富裕層に限られる日本への観光ですが、これら人々に日本での観光を楽しんでもらえば、次へのステップに結びつくことになるでしょう。


 訪日する中国人の激減は、航空業界にも影響を与えています。全日空、日本航空ともにキャンセルが相次いでおり、航空機の小型化や減便を決定、両社ともに「動向を注視していく」とのことです。先日、日本人が暴行にあう事件があったことから、日本からの渡航者も大きく減少すること予想されています。日本企業の間でも出張自粛の動きが拡大しており、日中間での経済交流が、このままでは沈滞する懸念が出てきています。IMF・世銀の総会でも、日本と中国との対立が世界経済に影響を与える恐れがある旨表明しており、速やかなる解決が求められています。中国人訪日の記事が、2012年10月20日朝日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『中国人訪日、厳しい旅路。観光・小売りに影響』です。以下引用文。

 『中国からの訪日客数が9月、東日本大震災前の2010年9月と比べて10.1%減となった。8月まで過去 最高のペースで増えていたが、尖閣問題で団体客のキャンセルが相次いで一転した。10月に入ってからも厳しい状況が続き、観光や小売業界に影響が広がる。
 日本政府観光局は19日、9月に中国(香港のぞく)から観光や仕事で訪日した人が12万3500人(推計値)だったと発表した。震災後に落ち込んだ11年9月より9.8%増えたが、震災前の10年9月と比べればマイナス。震災前と比較をした場合、減るのは5ヵ月ぶりだ。尖閣諸島をめぐる日中関係の悪化で、訪日を取りやめる中国人が多かった』
 中国側の論者に、日中間の経済交流が冷え込めば、打撃を受けるのは日本であるという考えを持つ方々がいます。しかし、貿易は拡大してからこそ、意義があるのであって、縮小均衡へと向かった場合、世界経済にとってプラスになることは一切ありません。中国本土でスマホの生産を担っている台湾メーカーも、日本から多くの部品を調達し、完成品へと組み上げています。これら部品が調達ができなくなれば、スマホの生産も滞ることを意味しているのです。加えて、中国の景気に直接影響を与える直接投資では、円高を武器に、日本企業は依然として高いプレゼンスを維持しています。2012年9月の金融業を除く中国への直接投資額は、84億ドルと前年同月比と比べて6.8%減少、4ヵ月連続で減少しています。日本からの投資がさらに減少すれば、鈍化傾向を示す中国経済がさらに悪化する可能性が高まっていくだけです。日中間の経済交流は、前進あっても後退させる余地は全くないのが実情でしょう。

2012年10月27日土曜日

評価が分かれるソフトバンクによる大型買収

 私は、愚かにもiPhoneを4台持っています。ラインナップは、iPhone3GS、iPhone4、iPhone4S、そしてiPhone5です。全てをまんべんなく使っているわけでなく、仕事場へはiPhone3GS、iPhone5を、プライベートはiPhone4Sを持っていき、iPhone4に至っては完全に埃をかぶっています。そして、全てがソフトバンクとの契約であり、KDDIとの契約はありません。iPhoneをメインに売り出していたソフトバンクは、今まではiPhoneの基本料金を、他のスマホと比べて低く抑えており、モバイルルーターを使っている限りは、月額の基本料金は2年間で機種代程度ですみました。しかし、LTEが使えるようになるからという理由で、iPhone5からは基本料金をアップし、KDDIと変わらなくなりました。つまり、ソフトバンクで、iPhoneを契約する意味合いは少なくなったと考えています。
 状況は常に変動しています。LTEのエリア内でiPhone5を使っても、LTEでの接続は全くできず、3Gばかりでの接続でした。しかし、10月26日の帰宅時には、何故かLTEでの接続がスムーズにいきました。ソフトバンクの企業努力があったのか、それともたまたまなのかは不明です。しばらくはNTTドコモのモバイルルーターは使わず、ソフトバンクの回線を使ったデータ通信を試してみるつもりです。幸い、今年の12月末までにテザリングの契約を結べば、テザリングの料金を2年間無料にするキャンペーンを、ソフトバンクが開始しました。これで、iPhone5を軸にしたモバイルライフが、当面の間、実現できるので、ややほっとしているところです。期近の契約数では、ややKDDIが好調で、ソフトバンクは微増にとどまったようです。この背景には、ソフトバンクが、低く抑えていたiPhoneでの基本料金を、iPhone5からやや引き上げたことが響いたとの指摘があります。これを受けてか、両社の株価は、KDDIの株価が比較的堅調に推移している一方で、ソフトバンクの株価は大型買収発表後の下落幅を戻し切っていないと印象を受けます。
 ソフトバンクに関してプラスに印象を与える記事が『週刊エコノミスト』2012年10月30日号に掲載されていましたので紹介します。私は、日本企業による積極的な海外への投資は、長期的にみてプラスだと考えていますので、ソフトバンクの大型買収を評価しています。しかし、ソフトバンクのユーザーとしては、国内での設備投資が優先し、回線状況を少しでも改善して欲しいという気持ちがあり、私の中では評価が交錯しています。記事の題目は『ソフトバンクがスプリント買収へ、買収額は1兆5700億円』です。以下記事引用。
 『スプリントの買収に関する10月12日の新聞各紙の観測報道を受けて、ソフトバンクの株価は大幅に下落し、時価総額は15日終値までの2営業日で6734億円(21.3%)減少した。一因は、買収に伴う財務体質の悪化や増資による株式の希薄化懸念と見られる。
 しかし、10月15日の買収発表で、ソフトバンクの資金調達は借り入れを中心に行い増資する考えはないこと、スプリントへの資金援助は今回の増資引き受け以外に当面考えいないことが明らかになった。
 買収額201億ドルは、121億ドルを既存の株式の取得、80億ドルをスプリントが発行する新株の引き受けで賄う。また、取得株式の高騰も懸念されていたが、1株当たりの平均価格は6.5ドル弱で、買収報道前の株価水準への平均プレミアムは2割強にとどまった。
 一方、スプリントは、増資で得た現金を借入金の返済に回せば、400億円近い金利負担を軽減できる見込みのため、同社の財務は大幅に改善するだろう。
 これらの結果、株式の希薄化懸念が後退するなどして、10月16日以降のソフトバンクの株価は上昇に転じている。ただし、この動きは、財務面の懸念後退を表しているに過ぎない。中長期的には、買収によるシナジー効果を評価する動きが浮上するだろう』
 ソフトバンクの株価はやや持ち直したいるものの、この間の日経平均株価もかなり上昇し、10月25日に終値ベースで9,000円台まで上昇してました。従って、同社の株価は依然として予断を許さない状況であり、買収先のスプリントの業績に注視する必要があるといえます。こうした中で、米携帯電話市場で、ベライゾンが圧勝するという記事が、2012年10月26日付日経新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。ベライゾンは、iPhoneの導入では、AT&Tに後塵に拝しました。しかし、LTEのカバー率でAT&Tを先行しており、ベライゾンが2012年7〜9月期の契約の純増数で圧勝しました。今後、収益面で、ベライゾンがリードを進めていけば、ソフトバンクの買収がマイナスであったといった結果になりかねません。記事の題目は『ベライゾン、米携帯で圧勝。契約純増数、AT&Tの10倍』です。以下引用文。
 『【ニューヨーク=小川達也】米通信大手3社の7〜9月期決算は、携帯電話事業の伸びで明暗が分かれた。契約純増数(プリペイド契約などを除く)はベライゾン・コミュニケーションズがAT&Tの約10倍の差をつけて圧勝。ソフトバンクが買収を決めたスプリント・ネクステルは純減だった。スプリントは赤字幅も拡大しており、上位2社との差は一段と広がっている。(中略)
 成長のカギを握る高速通信サービス「LTE」の展開でもベライゾンはリードを保つ。10年12月からサービスを提供するベライゾンのカバー人口は9月末で2億5000万人。11年9月に始めたAT&Tは1億3500万人だった。スプリントは今年7月からサービスを開始したばかり』
 契約数の増加は、収益面でもプラスに寄与しています。6月末にベライゾンは1契約あたりの月間収入(ARPU)の底上げを狙った新料金プランを導入、このプランが好調であったため、携帯サービスの収入が拡大、全体の売上増に結びついたそうです。対照的にスプリントの業績は、売上高こそ増加していますが、赤字決算となっています。スプリントの動向が、ソフトバンクの将来を左右しかねないのです。ここで、ソフトバンクを国内2位の携帯会社にまでに押し上げた、経営トップの孫正義氏のマジックが必要となるかもしれません。

2012年10月26日金曜日

ニューズウィークの完全電子化に象徴される紙媒体の衰退

 1986年1月23日のTBSブリタニカからニューズウィークの日本語版が創刊されてから、私は同誌の愛読者でした。創刊時から約5年間は、全号を購入していましたが、最近では1ヵ月に1冊を購入するかどうかまで、購入頻度が減少していました。同誌の魅力は、国際情勢を分かりやすく、簡潔に説明し、写真も多いことから楽しみながら、記事を読むというスタイルを提供してくれたことです。

 このニューズウィークが、発行部数の減少から今年の12月31日をもって紙媒体での発行をやめ、電子版へと完全移行することが決まったようです。わが国の書籍、月刊誌、週刊誌の市場規模は、2002年に約2兆3千億円だったものが、2011年には約1兆8千億円まで縮小しました。特に週刊誌の減少幅は大きく、2002年の6割程度まで落ち込んでいます。ニューズウィークに関する記事が、2012年10月20日付読売新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ニューズウィーク完全電子化。紙媒体、年内で終了』です。この電子化には10年前に300万部超あった発行部数が、今年は約150万部へと半減したということが背景にあります。以下引用文。

 『【ニューヨーク=柳沢亨之】米週刊誌ニューズウィークのティナ・ブラウン編集長は18日、来年1月から紙媒体での発行をやめ、電子版に完全移行するとの声明を発表した。
 声明によると、同誌の紙媒体は12月31日付で終了。来年からの電子版は「ニューズウィーク・グローバル』の名称で、閲覧は有料とする。声明は、紙媒体が「大変な困難」に直面しているとした。人員削減も行う計画だ』

 これは予想された事態です。長時間読書した場合の目に対する負担を少なくできれば、私も電子版に全て移行したいとは思っています。特に電子版のメリットは、スマートフォンやタブレットの端末内にデータを保存でき、場所がかさばらないこと、検索などの機能を使い、過去の記事を探しやすいなどがあります。加えて、アカウントの登録さえすれば、クラウド上で購入書籍を保存できるサービスも提供しているケースが多く、私もアマゾンとeBookJapanのユーザー登録をしています。残念ながら、アマゾンは洋書を、eBookJapanは漫画を中心に提供しているため、私の読書ライフはまだまだ紙媒体を中心としたものとなっています。

 しかし、電子書籍に対する出版社での合意形成も順調であること、疲れにくいディスプレイの開発も着実に進んでいることから、電子書籍の市場は確実に成長すると考えられます。もっとも、順調に電子書籍の市場規模が拡大したとしても、出版物全体の市場規模は縮小するかもしれません。それは、消費者もしくはユーザーの興味の中心が、本、雑誌、新聞など出版物という形態のものではなく、インターネットによる画像配信やホームページの閲覧などへとシフトしているからです。電子書籍による市場規模の拡大は小さいかもしれませんが、出版業界には紙媒体がなくなることでのコスト削減は進むというメリットがあります。ところで、日本語版のニューズウィークは引き続き出版するそうです。

2012年10月25日木曜日

東北を除く地域で景気判断が下方修正

 日本の景況感がしっくりしないようです。年間1,000万台の販売を目指していたトヨタ自動車も中国での販売不振から、目標に到達しないことが判明しました。自動車以外の産業、特に製造業は中国に対する輸出依存度が高く、ここにきての中国への輸出の鈍化は、景気回復感に乏しい日本経済にとってマイナス要因となっています。訪日する中国人の減少もあり、日中関係の悪化は、製造業だけにとどまらず、観光・小売りなど国内産業にも打撃を与える可能性が出てきています。経済中心につながりが強くなってきていた両国ですが、尖閣諸島の国有化を契機に一挙に冷え込んでしまいました。東アジアの2大国の対立は、世界経済への影響も否定できず、IMF・世銀の総会でも懸念が表明されました。日本、中国とも互いに冷静になり、一日でも早い関係修復を進めるべきであり、それが遅れた場合、日本ばかりでなく、中国経済にとってもマイナスになることは必至でしょう。
 こうした中で、日本銀行は22日に地域経済報告を発表、東北を除く地域で下方修正されたことが明らかになりました。地理的に中国に近い、中国地方と九州地方で、輸出がネックとなり、回復のテンポを弱めていることが判明、中国リスクがあらわれた結果となっています。この発表に関する記事が、2012年10月23日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『東北以外下方修正。日銀、地域別の景気判断』です。以下引用文。
 『日銀は22日発表した10月の地域経済報告(さくらリポート)で、東北を除く8地域の景気判断を前回7月の報告から引き下げた。個人消費は全9地域で悪化した。景気の現状は、欧州債務問題による海外経済の減速やエコカー補助金の終了を受け、「横ばい圏内」や「弱め」との指摘が相次いだ。沖縄県・尖閣諸島問題に伴う日中関係悪化も顕在化している。
 判断を引き下げが8地域に上ったのは、リーマン・ショックの影響により全地域で引き下げた09年1月以来、3年9ヵ月ぶり。国内景気は堅調な内需を背景に全9地域の判断を上げた前回7月から一変した。東北は東日本大震災からの復興需要に支えられ景気判断を据え置いた。
 日銀の白川方明総裁は22日午前の支店長会議で「今後とも間断なく金融緩和を進めていく」と表明。「今後の金融資本市場の展開に十分注意していく必要がある」と述べた』
 個人消費に関しては、エコカー補助金の効果が切れたこと、中国人観光客の来日キャンセルが相次いだこと、残暑による秋物衣料の販売不振が響いたそうです。もっとも、消費が慢性的に弱いのは、雇用問題が根幹にあると考え、地域別のデータが得られる有効求人倍率(パート、新卒を除く)の推移をグラフを作成してみました。リーマン・ショックが起こった2008年9月以降、全地域で有効求人倍率が大幅に低下、2009年中頃を底に回復傾向を示しています。しかし、2012年8月で有効求人倍率が1以上なのは、東海地方に限られており、北海道、九州地方にいたっては0.7倍を依然として下回っています。この雇用状況が劇的に改善がない限りは、景気の本格的な回復はないと考えており、政府による若者の雇用促進など積極的な雇用対策が求められるとろこです。そして、有効求人倍率をみる限りでは、特に倍率が低い、北海道、近畿地方、九州地方にウェイトを置いた施策が必要であると思われます。

2012年10月24日水曜日

流通2強が営業減益、台頭するコンビニ

 普段から買い物をするといえば、コンビニがほとんどで、滅多なことでスーパー、ましては百貨店へは行かないのが、私の生活パターンです。価格がやや高めに設定されているとはいえ、その便利さもさることながら、スーパーなどにもいえますが、多くのポイントがゲットできる点で、私はコンビニを積極的に利用しています。特に、ポイントは、10倍、20倍ポイントの商品を提供しているケースもあり、やや踊らされている感は否めませんが、コンビニのポイント戦略にどっぷり浸かっているのが私のライフスタイルです。

 以前は、百貨店に足を運び、プラダのバッグを購入したことがありました。また、デパ地下で販売されている総菜の品質の良さから、会社からの帰りがけに、ちょくちょくと百貨店へと足を運ばせていた時期もありました。近所のスーパーも、午後7時〜8時くらいには、総菜の価格が30〜50%の値引きとなります。そのため、それを狙ったかのように、平日でも一旦、家に帰ってから、スーパーへわざわざ出かけるということをしていました。しかし、今では、仕事に追われる中、ポイントの魅力もありますが、狭い店舗に求める商品が必ずあるということで、コンビニの比率が高まっています。上図は、経済産業省発表のスーパー(大型)、百貨店、コンビニの売上高の推移を示したものです。百貨店の衰退とスーパーの伸び悩む一方で、コンビニは、売上高の着実に伸ばしています。コンビニの一人勝ちの様相を呈しています。

 そうした中で、セブン・イレブン、ローソン、ファミリーマートが好調な決算だったようです。一方で、流通2強であるイオンとセブン&アイ・ホールディングスの2013年2月期の中間決算発表がされました。両社ともに売上高は増加しているものの、営業利益はともに減益となっています。特にセブン&アイ・ホールディングスの傘下には、業績好調なコンビニ、セブン・イレブンがあることから、総合スーパー事業の厳しさが伺えるところです。セブン&アイでは、今後、リストラを進めることを発表しており、余剰人員をコンビニ事業へと振り向けることを押し進めます。イオンとセブン&アイに関する記事が2012年10月13日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『流通2強、営業減益。8月中間決算、スーパー事業不振で』です。以下引用文。
 『イオンとセブン&アイ・ホールディングスの「流通2強」の12年8月中間連結決算が12日、出そろった。両社とも営業利益が減少したが、主因は総合スーパー事業の不振。特にセブンは好調なコンビニエンスストア事業でカバーできず、13年2月期連結決算の営業利益見通しを従来予想から70億円減の3080億円に下方修正。イトーヨーカ堂のコスト削減など総合スーパーの改革を急ぐ。【立山達也】
 売上高はイオンが前年同期比8.3%増の2兆7192億円で、中間期では11年に続いてセブン(4兆4506億円)を上回った。一方、営業利益はイオンが前年同期比7.5%減の706億円、セブンが2.0%減の1471億円。両社とも総合スーパー事業が低調だった。イオンは特に家電や衣料品の落ち込みが大きく、同事業の営業利益は48.7%減の77億円。セブンも衣料品などの不調で56.0%減の92億円だった』
 こうして記事を読んでみると、売上高は増加している一方で、粗利の大きい衣料品等での販売不振が利益率の低下に結びついているようです。確かに、衣料品ではユニクロなどが急成長しています。同社の売上高は2012年8月期決算では9,286億円にものぼり、総合スーパーであるイオン、セブン&アイの同部門の売上高減少へと直結していることが考えられます。しかし、ユニクロが提供する商品の品質は高く、加えてデザイン的にも優れていることから、挽回は難しいといえます。総合スーパーは、コンビニというカテゴリーキラーと衣料品専門店、そして家電量販店などとの熾烈な競争を展開しています。やや勝ち目がないことも否定できませんが、デフレ経済が進行している中で、どの業種も消耗戦を強いられているのが実際のとろこでしょう。

2012年10月23日火曜日

「外食」から「内食」への流れあり、冷食PB強化の動き

 外食産業最大手のゼンショーホールディングスが、2012年10月3日に東証2部上場の食品スーパー、マルヤに対してTOB(株式公開買い付け)を実施することを発表しました。取得額は最大35億円を見込み、これには外食産業が縮小するなか、内食・家食などの外食以外の分野で顧客を取り込むという考えがあるようです。

 ゼンショーといえば、企業買収を立て続けて行い業界最大手にまで、のし上がった企業です。傘下にある外食チェーン店には色々なカテゴリーのものが含まれており、大抵の人々が一度はお世話になったのではないかと思います。その外食産業における多角化にも限界がみえてきており、こうした食品スーパーの買収につながったと推測されます。ついでですので、ゼンショー傘下の外食チェーン店は右図の通りです。最初は知らなかったのですが、「なか卯」と「すき家」が同一の企業の傘下にあることです。それは、「なか卯」が、市街中心部に立地し、サラリーマンなどをターゲットとする一方で、「すき家」が郊外に立地し、ファミリー向けのサービスを展開、店舗に入ると全く違う印象を受けたからです。特に大きな違いは、岡山県だけに言えるのかも知れませんが、「なか卯」が自動販売機を使った前払いのシステムをとっているのに対して、「すき家」は後払いのレジ方式をとっており、これには驚きを感じました。両者を上手く使い分けているゼンショーの姿勢がよく理解できます。


 そして、「外食」→「内食」「家食」の流れの中で、冷凍食品のPBが注目されているようです。景気回復がしっくりしない中で、家計による生活防衛の結果の減少でしょう。そして、給与水準が低下し、共稼ぎの家計が増える中で、冷凍食品に熱い眼差しが向けられていると考えています。2012年10月6日付日本経済新聞朝刊に、大手小売りの冷凍PBに関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『冷食PB、イオン4割増。「内食」向け拡充、需要取り込む』です。以下引用文。

 『大手小売店がプライベートブランド(PB=自主企画)の冷凍食品の販売を強化する。イオンはご飯とおかずを組み合わせるなどした夕食向けの商品を今年度中に4割増やす。セブン&アイ・ホールディングスは今年度のPB冷食の売上高を前年度に比べ5割伸ばす。各社は高まる消費者の内食志向にいち早く対応。手ごろな価格を打ち出しながら利幅も確保できるPBの商品展開を急ぎ、収益を拡大する』
 加えて、食品メーカーとしてもPB製品に対する対応を急いでいます。この記事が上記記事の続きに掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『PB、メーカーにも利点。販促負担軽く稼働も安定』です。以下引用文。
 『小売り各社が冷凍食品のプライベートブランド(PB=自主企画)商品を強化するのは、低迷していた冷食の需要が回復していることも背景にある。2011年の冷凍食品の国内市場は10年比約4%増の8657億円。08年に発覚した中国製冷凍ギョーザ中毒事件の影響で縮小していた市場は10年に下げ止まり、11年に回復に転じた。
 従来はメーカーの自主ブランド商品が市場の大半を占めていたが、最近は大手小売りがPBを強化。現状では「1割程度」(大手メーカー)とみられるPB比率は今後、高まりそうだ。
 小売業のPBの多くは、国内の中堅や大手の冷食メーカーが製造を受託している。メーカーにとって利幅は小さいが、特売などの販促コストがかからず、工場を安定的に稼働させられるなどのメリットがあり、PB受託に協力するメーカーが増えている』
 PBの冷凍食品のニーズは、消費者、小売業、メーカーの3者にとってメリットがあります。もっとも、余りにジャンクな冷食が増えなければと思っています。日本は着実に米国の後を追っています。所得が減少した後、一人で稼いだ家計が、夫婦共稼ぎとなり、家庭での料理が崩壊しました。その結果、高カロリーで、バランスに欠けたジャンクフードが食卓の中心となったのです。この結果、多くの米国人が健康悪化に苦しめられています。日本のメーカーはきめの細かい顧客のニーズに、常に対応してきました。今後、冷凍食品の需要の増加が予想される中で、栄養バランスがとれ、かつビタミン豊富な冷食の開発が、冷凍食品メーカーには求められているのです。

2012年10月22日月曜日

明るさを増す米住宅市場と米金融大手の業績

 米国の住宅着工は、2008年9月のリーマン・ショック前から減速傾向を示していました。この状況をみてか、米金融大手のゴールドマン・サックスが、何らかな金融商品を空売りした結果、サブプライムローンが原因となり、米投資銀行ベア・スターズが経営危機に陥り、最終的にはJPモルガン・チェースに買収されました。その後、リーマン・ブラザーズの経営も悪化、負債総額としては史上最大規模の約64兆円の倒産へと至り、これを期に世界経済は不安定化する事態となりました。リーマン・ショックでゴールドマン・サックスはかなり利益を出しており、今でも世界で最も印象の悪い金融機関の一つであるといえます。加えて、ゴールドマン・サックスは、ギリシャ債務危機の原因となったギリシャ政府による公的債務の隠蔽にも深く関わっているとされており、欧州債務危機の発端までも演出した金融機関として世界で名を知られています。
 もっとも、ゴールドマン・サックスも無傷ではおれず、200ドルを超えていた株価も、期近では100ドルをやや上回る水準にまで下落しています。ダウ工業株30種平均が、市場最高値に近づいている中での同社の株価低迷であり、金融機関の業績低迷が伺えるところです。右図は、2007年1月の水準を100とした場合のゴールドマン・サックスの株価とダウ平均の推移を比較したものです。どの時期を100としてグラフを作成するかにより、印象がやや異なりますが、リーマンシック前年当たりに同社の株価がピークに達してたことから、2007年1月を基準としました。ダウ平均が、リーマン・ショック後の下落を取り戻した段階で、ゴールドマン・サックスの株価は6割程度にとどまっていることが分かります。

 こうした中で、米金融機関の業績を左右すると思われる住宅着工件数が米商務省から発表されました。右図は、2007年9月までのデータしか追えませんでしたが、民間新設着工の推移を表したものです。残念ながら2006年当たりから減少傾向を示していた米国の住宅市場の大きな流れをつかめていません。年間の新設着工は、2005年の206万戸をピークに大きく減少、回復の兆しをみえてきたとはいえ、依然として年率で87万戸程度にとどまっており、米住宅バブルの後遺症が如何に大きかったかがよく理解できます。米住宅市場に関する記事が、2012年10月19日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『米住宅市場に明るさ。9月着工4年ぶり高水準/価格底入れ』です。以下引用文。

 『【ニューヨーク=西村博之】米住宅市場に明るさが増している。9月の住宅着工件数は前月より15%増え、4年2カ月ぶりの高水準となった。低金利を背景に価格が底入れした中古住宅への引き合いが増え、欲しい物件を入手しづらくなった買い手が新築物件に向かっている。住宅市場の復調が消費を中心に米景気を下支えするとの期待が高まる一方、銀行の収益にも追い風となっている。(中略)
 FRB統計によると米家計が保有する住宅の純資産残高は年初から半年間で8600億ドル(13%)増えた。この結果、今年前半には住宅ローンの借り手130万人が、ローン残高が資産価値を上回る「債務超過」の状態を解消したという。多くの家計がお金を使いやすくなったのは間違いない。問題は「住宅」の追い風が勢いを保てるか。
 銀行の差し押さえ物件などがいずれ市場に出回る「影の在庫」は住宅の供給全体の6ヵ月分ともされる。これが、上昇の兆しが見える中古住宅の価格を圧迫するとの懸念が強い。
 経済全体に目を転じれば新築住宅の主な買い手となる若年層の失業率は高止まりしたままだ。安定した職がないと、ただでさえ基準を厳しくしている銀行から融資を受けるのは難しい。住宅市場の先行きには、不透明な要素も多い』
 住宅市場の回復を受けてか、米金融機関大手の業績に明るさがみえてきています。特に、米住宅市場の底打ち感から、住宅ローンの新規契約や借り換えが進んだことで、JPモルガン、ウェルス・ファーゴの業績回復が著しいといえます。一方、バンク・オブ・アメリカは、09年に米大手証券会社メリルリンチを買収した際に損失の情報開示が不十分であったことから、株主に対して24億ドルもの和解金を支払った影響が響き、前年同期比で95%の減益となっています。日本との関連では、モルガン・スタンレーの赤字決算です。連結対象となっている三菱UFJフィナンシャル・グループへの影響が懸念されるところです。上表の決算内容をみていると、米金融機関大手の収益状況は、好業績と業績不振という二極化現象が進んでいることが考えられます。

2012年10月21日日曜日

DRAMの価格下落と進む世界市場での寡占化

 DRAMの世界シェアで、韓国勢が勢いを増しています。そのあおりを受けて、台湾のDRAMメーカーのリストラが加速しています。これは、パソコン用のDRAMからスマートフォンへのシフトが遅れたことに原因にあるようです。DRAMでは、サムスン電子、ハイニックス半導体が6割以上のシェアを握っており、世界市場も寡占化の方向へと向かっています。ここは、エルピーダを買収した米マイクロン・テクノロジーに期待したいとろこです。

 ところで、家電量販店の店頭で販売されているパソコン用のDRAMは何度も見たことがありますし、実際に手に取って、自分のパソコンに装着したこともあります。10年以上も前、1GBのパソコン用のメモリーは結構高く、その時の価格は数万円だったと記憶しています。最近では、パソコン用のDRAM価格は暴落しており、パソコンに装着するメモリーは4GBが当たり前になっています。今、家で使用しているノートパソコンはいずれも4GBのメモリーを搭載しており、ハングアップなどもなく稼働しています。以前は、メモリー不足などでパソコンの処理速度が低下することが頻繁にありましたが、今ではそのようなことは、少なくとも家のパソコンでは全くなく、快適なパソコンライフを送っています。次に購入するパソコンのメモリーは、是非とも8GB以上を搭載し、64ビット化しているOSの能力をフルに生かしたいと思っています。

 一方で、スマートフォン用のメモリーがどのような形態しているのか全く不明です。私は、スマートフォンを4台所有していますが、何れも現役で稼働しています。どれかが故障して動かなくなったら、1台を壊してみて、その中身をチェックしたいと考えています。もっとも、スマートフォンはパソコンとは異なり、一番古いiPhone3GSですら、最新OSに対応しているとともに、起動時間の遅さ以外は、スムーズに動いており、製品としての完成度の高さに驚くとともに、当分は壊れそうにないという印象を持っています。因に、歴代iPhoneに搭載されているメモリー(ストレージ用のメモリーではなく、パソコンのメモリーに該当するもの)は、iPhone3GSは256MB、iPhone4、iPhone4Sは512MB、iPhone5は1GBとなっています。iPhoneのメモリーは、アンドロイドの携帯と比べて少ないことに特徴があります。これは、アンドロイドのアプリがJAVAを使って作成される一方で、iPhoneのアプリがC言語を使って作成されていることに差があると、勝手ながら考えています。

 スマートフォンやタブレット端末が、パソコン市場を席巻していることは一般に知られていることです。企業ユーザーがパソコンを買い控える一方で、個人ユーザーはスマートフォン、タブレット端末市場へと流れており、パソコン市場が伸び悩んでいるのが実情です。そして、企業ユーザーもタブレット端末に興味を持ち始めており、医療や教育現場でiPadが使われているシーンを、度々テレビで観ます。こうした中で、台湾のDRAMメーカーが苦境に陥っているようです。台湾DRAMメーカーの記事が2012年10月15日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『台湾DRAM、リストラ加速。価格下落続き、スマホシフト遅れ』です。以下引用文。

 『【台北=山下和成】台湾の大手DRAMメーカーが従業員削減などリストラを加速している。供給過剰でDRAMの価格低迷が長引き、赤字体質を改善できない。これまでのパソコン向けからスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)などモバイル向けへの製品シフトも遅れている。韓国勢との格差は広がるばかりだ。
 2000年代半ばまで台湾経済のけん引役だったDRAMメーカーだったが、価格の大幅な下落やパソコン向けの需要減退で赤字が慢性化。従業員の大幅カットや業態転換の動きが出ている。台湾のIT(情報技術)産業は米アップルの「iPhone(アイフォーン)5」などスマホ需要に沸くが、パソコン向けが柱のDRAMはこの流れから取り残されている』
 この記事を読んでいる限り、16GB、32GB、64GBといったストレージではない、スマホのメモリーはDRAMでもないようです。サムスン電子は、DRAMで圧倒的なシェアを維持している上、スマホ用のメモリー、そしてストレージの代わりとなるフラッシュメモリーの分野で絶大な力を持っていることが伺えます。そして、iPhone5が発売されてから、米アップル社との訴訟合戦の結果、日本製の比率が高まっているとはいえ、肝心のCPUの製造は、やはりサムスン電子だそうです。ロットの大きさから、供給メーカーが限られるというのが、スマホの半導体需要であるといえます。期待されるのは、フラッシュメモリーを製造している東芝、エルピーダを買収した米マイクロン・テクノロジーくらいです。エルピーダの敗因は提携先を台湾メーカーに求めたからだと考えてもよさそうです。

2012年10月20日土曜日

IBMにみる米IT企業の業績

 IBMといえば、IT企業のさきがけであるとともに、米国を代表する企業です。もっとも、90年代には、パーソナルコンピューターの流れへの対応の遅れから、急速に業績が悪化、ナビスコから引き抜かれたルイス・ガースナーCEOの元で大規模なリストラが行われました。その結果、ハードウェアを主体とする業態から、ソフトウェア、サービス主体の企業へと大きく転換、今のIBMがあるといえます。

 今では、当たり前の存在となっているパソコンでは、当初はマイクロソフトと組み、ハードウェアを提供する一方で、OSはマイクロソフトのMS-DOSを使うことで、パソコン市場で主導権を握ったかにみえました。しかし、マイクロソフトとの関係では、共同で開発を進めていたMS-DOSの後継であるOS/2が普及せず、マイクロソフトがウィンドウズの発売を開始したことで、IBMとマイクロソフトが対立する事態が発生しました。その後は、ウィンドウズがパソコンの市場を席巻し、ほとんどのパソコンに搭載されているOSがウィンドウズという状況となり、現在に至っています。最近では、パソコン用のOSとしては、IBMはLinuxなどに力を入れているようです。私もIBMが関わっていたLinuxの一種であるFedra coreをパソコンにインストールし、ホームページの管理に使っています。上図は、IBMの株価の推移を示しています。日本企業の株価がリーマン・ショック後に半分以下にまで下落しているのに対して、ドル安を背景にした好業績が出しているIBMの株価は08年9月の水準を大きく上回っています。

 ここのところのユーロ安や欧州景気後退の影響もあって、やや息切れ感のある米IT企業の業績です。iPhoneを製造販売する米アップル社は例外として、半導体製造で世界最大手のインテルも3年ぶりの減収を記録しており、IT企業の業績が総じて停滞していることが伺えます。もっとも、10月26日はマイクロソフトのウィンドウズ8が発売開始となります。企業ユーザーが投資を抑制していたこともあり、伸び悩んでいたパソコン市場も、新OSを軸に元気を取り戻す可能性があります。こうした中で、IBMの2012年7〜9月期の決算が発表されました。この決算に関する記事が、2012年10月17日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『米IT、業績息切れ。IBM減収減益、企業が投資抑制』です。以下引用文。
 『【ニューヨーク=小川達也】米IT(情報技術)業界で有力企業の業績息切れが目立ってきた。米IBMが16日発表した2012年7〜9月期決算は、売上高が前年同期比5%減の247億4700万ドル(約1兆9500億円)だった。純利益は0.4%減の38億2400万ドル。四半期ベースでの減収減益は09年1〜3月期以来3年半ぶり。ドル高に加え、景気減速などを背景にした企業のIT投資抑制の広がりが響いた。(中略)
 主力のITサービス部門のうち、システム構築の売上高は4%減、コンサルティングも6%減だった。ソフトウェア部門は1%の減収。ハード部門が13%の減収となり、全体の足を引っ張った。利益率はサービス部門では改善したが、ソフト部門は横ばい、ハード部門は悪化した』
 IBMの地域別の売上高は、米国が4%減、欧州・中東・アフリカ(EMEA)が9%減となり、景気後退と企業のIT投資抑制の影響が大きかったといえます。右図は、2012年4〜6月期ですが、地域別の売上高のシェアを示しています。世界の成長セクターであるアジア地域の売上高は、IBMの4分の1に相当過ぎません。一方で、アメリカが40%強、EMEAが30%強となっており、売上高の中心は、米国、欧州であることが分かります。今後は、IT化が急速に進んでいる中国やインドなど新興国でIBMが活躍する場が確実に増えてきます。ドル安を武器にした今までの戦略には限界がみえてきており、成長維持のためには、新たなサービス事業の育成や粗利益率の高い製品の提供などが求められるところです。しかし、驚きなのは、IBMの純利益(net income)は着実に年々増加しており、日本企業が羨む業績であることは変わりません。適宜、集中と選択を行うというスタイルは、日本企業には、確固としたビジネスモデルがないことから業績の差につながっています。90年代のIBMの劇的な事業転換には、依然として日本企業は学ぶ点が多くあるといえるでしょう。

2012年10月19日金曜日

7.4%成長、減速が鮮明となってきた中国経済

 注目されていた中国の2012年第3四半期の実質経済成長率が18日発表されました。2010年第2四半期をピークに中国の成長率に減速傾向に歯止めがかからず、前期の7.8%からさらに減速し、7.4%となりました。現在、中国経済を取り巻く外部環境は厳しくなっており、特に最大の輸出先であるヨーロッパ諸国の景気後退の影響をもろに受けるという結果となっています。
 こうした中で、国家統計局の担当者の話では、2012年第4四半期からは再び8%台へと回復する旨、NHKのニュース番組で紹介していました。しかし、現地で取材を続けている記者は、以下で挙げる2つの理由から、以前のような高い成長率は、今の中国経済には期待できないと、今後の見通しを話していました。一つは、リーマン・ショック後、大掛かりな景気対策を行い、景気の回復は成し遂げたものの、物価や住宅価格の急上昇という副作用に苦しめらた経験から、住宅価格が再び上昇の兆しをみせている中で、新たな金融緩和は難しいということです。もう一つは、中国政府が構造改革を進めるために、意図的に成長率を低下されていることが伺えることです。国家統計局の盛来運報道官は「経済が下降気味の機会をとらえ、構造調整を進めないと難局を乗り切れない」「経済改革を加速しなければ経済の持続的な発展はない」とコメントしています。構造調整とは格差是正のことであり、国内で広がる所得格差への国民の不満が高まっていることが背景にあるといえます。
 さらに、ここへきて、中国国民の反日感情の高まりから、日系自動車メーカーが販売台数を大きく減少させています。これは、消費を冷え込ませるばかりでなく、日系企業で働く人々の生活にも影響を及ぼしかねないことが懸念されています。さらに、中国リスクを恐れた日本企業による中国への直接投資を冷え込ませる要因となっており、マイナス面が大きくなっています。この中国の成長率に関する記事が2012年10月18日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『中国7.4%成長に減速、7〜9月期。内外の需要鈍化』です。以下引用文。
 『【北京=大越匡洋】中国国家統計局は18日、2012年7〜9月期の国内総生産(GDP)が物価変動の影響を除いた実質で前年同期に比べ7.4%増えたと発表した。成長率は2四半期連続で8%を下回り、中国政府が余裕を持って設定した今年の成長目標(7.5%)の水準を割り込んだ。内外の需要鈍化が長引き、中国政府はインフラの認可加速など景気の下支えに動いている。(中略)
 中国政府は景気を下支えするため高速道路などインフラ投資を中心に認可を加速している。ただ追加の財政支出を伴う「景気対策」の位置付けではなく、バブル発生を懸念して不動産取引規制も緩めていない。国内でも住宅購入に関連する建材や家具など幅広い業種で需要が鈍り、卸売物価の下落が長引いている』
 欧州債務危機は解決の見込みが立たず、米国経済の「財政の崖」に陥ろうとしています。日本経済も満身創痍の状態にあり、中国経済は、速やかに輸出依存から脱却し、内需に依存した経済成長へと方向転換する必要があるいえます。そして、格差是正を着実に進めるとともに、不動産バブルを回避した上で、国内需要が堅調に推移すれば、再び成長軌道へと戻せると考えています。2010年で中国の世界のGDPに占める割合は、9.1%まで高まっています。当局による為替介入の影響もあって、購買力平価からみた割合はさらに大きくなることが推測されます。むしろ、中国経済は、その経済規模から世界の他の国々にとって重要な輸出市場へと転じる可能性があると思っています。そして、これを原動力に世界各国の成長率が高まり、需要が活発化すれば、中国は再び世界の工場としての地位へと復活することがでることでしょう。今は、負の連鎖が起こり、世界の貿易が縮小均衡へと向かっています。この負の連鎖を断ち切るため、中国は内需を活発化されること、為替相場への介入をせず、中国人民元を高めに誘導することが求められる施策といえます。

2012年10月18日木曜日

出始めた赤字国債発行法案の未成立の影響

 11月末までに、赤字国債法案が国会を通過しなければ、利付き国債の発行が途切れる可能性が出てきました。最大野党である自民党は、野田首相に対して赤字国債発行法案の成立に協力するには、衆議院を年内にも解散することを確約する必要があることを要求しているようです。自民党側の狙いは、衆議院の定数是正、赤字国債発行法案に簡単に応じた場合、「近いうちに」(解散するとの約束)が必ず忘れ去られることを懸念しており、解散の具体的な時期の確約に追い込むことです。
 国際通貨基金(IMF)と世界銀行が東京で開いた年次総会の主要日程が終了、世界経済の失速を回避する決意がなされたものの、具体的な対応に進展がみられなかったようです。欧州には信用不安の速やかなる収束、米国には急激な財政の引き締め、いわゆる「財政の崖」の回避、そして、日本には赤字国債発行法案の成立を急ぐことが求められています。もっとも、わが国における、国債発行に関する緊張感は、1993〜2001年にクリントン大統領のときを思い起こさせます。同大統領就任時、大統領が民主党、議会の多数派は共和党という時期がありました。そして、クリントン大統領とギングリッジ氏率いる野党共和党が対立、共和党側は歳出法案(予算法案)と債務上限引き上げ法案(国債発行法案)を阻止することで、連邦政府は新規の国債が発行できないという事態に陥りました。結果、国立公園、国立美術館、博物館、科学館など政府機関の一部が閉鎖に追い込まれ、バスポートの発給が停止し、20万人に影響が及ぶなどしました。
 米国における民主党と共和党の対立は、国民生活の混乱をもたらし、結果として強硬手段に出た野党共和党の敗北に終わりました。わが国でも、この赤字国債発行法案の可決の遅れが、岡山県の国立大学や高専など身近なとろこで影響が出始めました。同法案に関する記事が2012年10月13日付山陽新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『岡山、広島、香川の国立大・高専、運転資金ピンチ。公債法案成立が難航』です。以下引用文。
 『岡山大など国立大学法人や、高専51校を運営する独立行政法人国立高等専門学校機構(東京、高専機構)は、国の「運営費交付金」を人件費や研究費などに充てている。本年度は、一般会計歳入の約4割を占める赤字国債38兆3千億円の発行に必要な特例法案が通常国会で不成立となったため、財源不足に陥った国は9月から、国立大学法人と独立行政法人向けの交付金を抑制している。(中略)
 岡山大は本年度予算約750億円の3割弱に当たる約204億円を交付金が占める。9月に予定していた22億8千万円が4億8千万円と約2割に激減、10月からは0円になった。
 岡山大財務部は「当面は自己資金でしのぐが、年明けからは資金繰りができなくなる」と言い、法定限度額となる47億円の銀行借り入れを検討する。広島、香川大も台所事情は同じで1月から運転資金が枯渇するという』
 身近への影響は是が非でも回避したいところですが、この国会における緊張感は大切であると考えています。毎年毎年、国債依存度50%もの予算案が安易に国会を通過するのは異常です。国の予算というものは、切羽詰まった状況下で、しっかりとした議論をした上で、削減するものは削減し、可決へともっていくことが大切であることを改めて認識しました。国会内で、このような緊張感がない結果、野方図な財政政策が毎年のように実施され、国債依存度50%、先進国の中でも例をみない政府債務残高を積み上げてしまったといえるでしょう。この緊張感は、議会多数派から選ばれる今の議会内閣制ではなかなか生じません。ならば、直接選挙により首相を選ぶという改革も必要ではないかと感じました。

2012年10月17日水曜日

好調に推移する良品計画の業績

 西友のプライベートブランドとして当初40品目でスタートした無印良品は、2010年には設立から30年経ち、今ではPBの先駆けとして一般の消費者にもなじみ深い存在となっています。現在では7,000品目もの商品を提供するブランドとしての地位も確立しており、海外へも米国を初め、ヨーロッパ11カ国、アジア9カ国・地域へと進出し、グローバル企業として認知されつつあります。


 私は、良品計画に全く縁がないわけではありません。何故かというと、ツタヤのTポイントを貯めている関係で、一番多く利用するコンビニがファミリーマートであり、ファミマには良品計画で提供する商品が陳列されているからです。今年の夏も、タオル生地のハンカチを持っていくのを忘れ、何度かファミマで購入しました。このほかには、良品計画のポストイットは質の良さから以前から愛用させていただいています。最近まで知らなかったのですが、良品計画自身が店舗を出しているものの、規模は小さく文具品や食品などだけを販売しているのかと思っていました。すると、売り場面積がやや広めの店舗を岡山駅の駅ビルの中に出店、良品計画がベッドまでも売りっていることを初めて知りました。当初、生活雑貨9品目、食品31品目で始まったビジネスは新たなカテゴリーを築いたといえます。

 この良品計画に関する記事が2012年10月5日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『良品計画、経常益最高に。今期194億円、好採算の衣料伸びる』です。以下引用文。
 『総合雑貨店「無印良品」を展開する良品計画は4日、2013年2月期の連結経常利益が前期比21%増の194億円となりそうだと発表した。当初計画を13億円上回り、08年2月期以来、5期ぶりに経常最高益を更新する。麻素材を使ったシャツなどの売り行きが良く、好採算の「衣服雑貨」部門の売り上げが好調に伸びる。販売費の抑制も押し上げる。
 売上高に当たる営業収益は計画を4億円上回り、7%増の1912億円となる見通し。3〜8月期に国内外で22店を出店したほか、既存店売上高も前年同期比2%増と堅調だった。上期の既存店売上高がプラスとなるのは6年ぶり』
 良品計画の収益に寄与したのは、麻やオーガニックコットン(有機栽培綿)などの素材にこだわった高価格帯の衣料品だそうです。衣料品といえば、私は「ユニクロ」だったのですが、岡山駅にせっかく出店したのですから、今度利用してみようと思っています。今日のブログを書くまで全く気付かなかったのですが、無印良品こそがプライベートブランドの先駆けだったのですね。プライベートブランドは、消費者、販売者、そしてメーカーにとってもプラスです。特にメーカーにとっては、生産が安定していること、販売促進費などの費用がかさまないことなどから注目されているカテゴリーです。PBの良品計画の今後の業績とともに、カテゴリーキラーとして登場したのですから、現在のPBだけにとどまらず、新たなカテゴリーを積極的に開拓することが望まれます。

2012年10月16日火曜日

荒れ狂う世界各地でのデモ、際立つ中国の異常さ

 今年の9月は世界各国でデモが発生、荒れ狂っているようです。ECBからの支援を受けるため、緊縮策を堅持し、財政削減を進めるギリシャ、スペインでもデモが発生、多数の逮捕者を出すまでに至っています。もっとも、店舗や工場が襲撃されるといった激しいものではなく、火炎瓶を投げるといった過激な行動は、一部に限られており、全般的には穏健な人々によるゼネラルストライキといった性格のものです。これに対して、尖閣諸島の国有化に端を発する中国での反日デモの性質は異なるものです。一番疑問に思うのは、ニュースや新聞などでみるのは、反日デモによって壊された日系企業の工場や店舗などの映像・写真ばかりであり、デモに参加し、暴力行為に至った結果、逮捕者が出るといった類いの情報が入ってこないことです。法治国家である中国は、暴徒化したデモ参加者に対して徹底的に取り締まることは当然のことです。それができないのならば、中国の法律とは一体何であるか疑問を抱かざるを得ないです。法律が政府主導で、いい加減、かつ適当に運用されているのならば、進出している外国企業の全ては、危険に晒されていることを意味しており、いつ暴徒に襲われ、工場や店舗が焼き討ちにあっても、それは中国に進出しているのだから仕方がないという結論になります。
 特に、中国は既に世界第2位の経済力を持っており、世界経済の一員として組み込まれているとともに、IMFやWTOなどにも参加しています。今回の反日デモでも、日系企業の被害の程度からみれば、当然のごとく数千、数万人規模の逮捕者が出ていても不思議がないのに、その姿が映像や写真に映し出されていないのは、その映像・写真の流出が規制されているのか、それとも大規模な逮捕者自体が存在しないのかのどちらかです。Googleが撤退を強いられたや、過去の例からいって前者の可能性も否定はできませんが、どうしても後者の可能性が高いと考えています。明確な暴力行為に対して、処罰をしないならば、法治国家ではありません。そして、法律が適当に運用される国が、国際経済に進出することは許されないのです。それは、ルールで守られた世界経済の秩序の崩壊を意味するからです。
 幸い日本では秩序が保たれているようで、中国系の店舗に対する報復などの暴力行為はないようです。つまり、日本は法治国家であり、暴力行為に対しては、法律に基づく厳正なる処罰がかされるからです。その点は、日本の司法制度は、中国よりも優れているといっても過言ではないでしょう。もっとも、今回は、日本政府もやや矛盾する対応をしています。竹島の問題では、国際司法裁判所に訴えるなどの方向で動いたのに、尖閣諸島の問題では、それを無視して、いきなり国有化という選択をとりました。国の領土であるという自身と根拠があるならば、まずは国際司法裁判所へ訴えるという手段とるべきであったと思います。
 中国リスクが大きくなっている中で、8月の自動車生産実績が発表されました。日系の自動車メーカーは、9月を待たずして減産に入っているようです。デモの影響を受けた9月は、8月よりもかなり落ち込むことから、中国での生産維持にはかなりのリスクがあるといえます。2012年9月27日付朝日新聞朝刊に中国での自動車生産の減産に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『日本車、中国で減産拡大。尖閣問題で販売打撃』です。以下引用文。
 『日系の自動車メーカーに中国での生産を減らす動きが広がってきた。尖閣諸島の国有化で中国に反日感情が高まり、日本車の販売に陰りが見え始めているためだ。主力市場の中国での減産が長引けば、業績の悪化につながることは必至だ。
 中国では、建国記念日の日にあたる10月1日の国慶節をはさんで、今月30日から8日間の大型連休に入る。連休前から工場の操業を止めて、休業日を増やす動きが広がっている。(中略)
 国内の乗用車大手8社が26日発表した8月の生産実績によると、北米や新興国での好調な販売を背景に各社の海外生産は総じて好調だったが、中国での生産台数は工場を持つ6社合計で前年同月比8.4%減の23万7246台。6社中4社が前年実績を下回った。
 中国での8月の販売台数もトヨタなど4社が前年を割り込んでおり、「日中対立の影響が出始めた」との見方も出てきた。中国での販売は、景気減速の影響で減速傾向にあっただけに、日本車を敬遠する動きが長引けば、日系メーカーへの打撃は大きい』

 これを契機に中国依存を低めるという選択肢は十分に考えられます。日本と良好な関係にあるASEAN諸国は、中国とFTAを結んでいます。中国への輸出は、ASEAN諸国を通じて行えばいいのです。タイ、インドネシアなどは十分な市場規模を有しており、日本企業にとって魅力的な市場です。それとともに、中国の不透明な法律運用の下で企業やそこで働いている人々を危険に晒すよりも、ASEAN諸国を生産拠点にすることは、日系企業にとってプラスでしょう。いざとなれば、タイやインドネシアのメーカーであると称して、中国へと輸出することは可能でしょう。また、政治力のある米国では、労働コストが徐々に低下しており、生産拠点として魅力が増しているそうです。中国は、米国からの輸出をストップをかけることはできません。日本の自動車メーカーは、米国ブランドで自動車を中国へと輸出すればいいのです。明確な暴力行為を取り締まることができない法律の未整備等のリスクを考慮した場合、生産拠点としての中国の魅力はなくなりつつあります。

2012年10月15日月曜日

トヨタ自動車の業績に暗雲、中国リスクとリコール問題

 トヨタ自動車の業績に回復がみられません。確かに、今年に入ってからは販売台数は回復傾向にあるものの、売上高、営業損益ともに2008年3月期をピークに大きく減少、特に売上高の減少傾向は続いており、同社を取り巻く環境が依然として厳しいことが伺えます。そうした中で、顕在化しているのが、他の日系自動車メーカーにも当てはまるのですが、中国リスクです。一方で、販売している台数が他社を大きく上回っていることから、トヨタ自動車だけに当てはまるのが大規模リコールの発生です。

 2012年9月の中国での新車販売台数が発表されました。161万7,400台と前年同月比で1.8%減となり、旧正月がずれた影響で2012年1月がマイナスとなったことを除くと2011年11月以来の減少となったそうです。原因として、景気後退で買い控えの動きが広がっていること、日本車の販売が急減したことなどが指摘されています。1,000万台の世界販売を目指すトヨタ自動車にとって中国市場は魅力的な存在ですが、反日デモと日本製品の不買運動の影響があり、約4万4,100台と前年同月比48.9%減の大幅な減少となりました。他の日系自動車メーカーも、ホンダ40.5%減、日産自動車35.3%減となり、軒並み大幅な減少を記録しており、日中間の領土問題が長期化する恐れもあることから、暗雲が立ち込めています。トヨタ自動車の中国での販売台数は、2011年は90万台弱です。トヨタ自動車の目標を妨げる最大のリスクとなっています。


 そして、もう一つの問題は大規模リコールが連発していることです。2012年10月10日にトヨタ自動車が発表したリコールは、パワーウィンドーの不具合によるもので、以前発生したフロアーマットやアクセルペダルの不具合によるリコールとは費用は少なくて済むとのことです。もっとも、今回のリコールは、世界で14車種・約743万台を対象とするものであり、1回のリコール台数は同社としては過去最大となっています。製品は快適に使えてこそ満足度が上がるものです。そして、使用期間中に満足に使ってからこそ、次も同じメーカーの製品が、消費者によって選ばれるのです。従って、度重なる大規模リコールは、長期的には、同社の販売台数の伸び悩みに影響を与える可能性が十分にあるといえます。

 大規模リコールの背景には、グローバル競争下の中で、自動車メーカーは、コストを下げるために世界規模で部品の共通化を進めていることがあります。部品の共通化による大規模リコールの発生、そしてジャストインタイムによる部品在庫の極端にまでの圧縮により、自動車メーカーの業績及び生産体制の不安定化が露呈しています。右図は、トヨタ自動車ホームページ掲載の売上高と営業損益の推移を示しています。やや陰りがあるものの、米国企業が着実に業績を回復されている一方で、日本企業の代表格であるトヨタ自動車は、依然として業績低迷に喘いでいます。東日本大震災時、タイの大洪水で自動車メーカーの生産がストップしたことは、記憶にも新しいです。それ以外にも一つの部品工場の生産がストップしたことで、トヨタ自動車全体の生産が滞るといったことが過去にも起こっています。同社は、1,000万台の世界販売を目指す前に、ビジネスモデルの再構築が求められているのです。

2012年10月14日日曜日

ソフトバンクによる米通信電話大手スプリントの買収計画

 9月12日に発表されて以来、待ちに待ったiPhone5がやっと届きました。早々に使ってみると、私が住んでいる岡山県ではLTEでの通信は、市街地中心部に限られ、少し離れた市街地近郊になるとすぐに3G回線による接続になります。ソフトバンクの提供するLTEサービスは、接続ポイントの拡充が求められおり、継続的な設備投資が必要な状態にあります。因に、私が契約したソフトバンクショップの店内でもLTEでの接続ができない始末で、同社の接続網にやや疑問を持つ結果となりました。
 1ヵ月間は、私が契約しているNTTドコモのモバイルルーターは使わず、iPhone5をソフトバンクの回線でとことん使ってみるつもりでいます。もっとも、先日買収が発表されたイー・アクセスの回線を利用したサービスが開始された場合、接続状況が改善することが予想されます。ソフトバンク側の正式発表はないものの、来春当たりから利用ができるそうですので、それまでは頑張ってソフトバンクの回線を利用することも考えています。
 もっとも、驚いたのは3Gの回線でのインターネットの接続速度であり、体感速度は明らかに上がっています。これはiPhone5の機体性能とiOS6へのアップデートによるものですが、後者の方が寄与度が大きい気がします。何故なら、私が愛用しているiPhone3GSやiPod TouchのSafariのアクセス速度も明らかに改善しているからです。一方で、やや消費メモリーが大きくなり、他のアプリでハングアップするケースもありますが、Safariのスピードアップは非常に気持ちがいいものです。

 こうした中で、ソフトバンクによる米携帯電話大手買収の検討に関するニュースが入ってきました。私は、同社は通信品質の改善のため、日本国内の設備投資に傾注するべきであり、この時期に大型買収をするべきではないと考えています。しかし、米スプリントのホームページをチェックすると、米スプリントもiPhoneを提供していることが判明、この買収が成立した場合、アップルのiPhoneを提供する企業連合ともなり、iPhone戦略を有利に展開できることが理解できました。ソフトバンクによる買収に関する記事が2012年10月13日付朝日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ソフトバンク、米会社買収検討。大手3行、1.5兆円融資へ』です。以下引用文。

 『米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの買収を通じて米国進出を検討しているソフトバンクは、買収資金をどう手当てしようとしているのか。借金を元手に買収を進めれば、経営は不安定さを増すが、そうしたリスクを承知のうえで事業規模の拡大を優先し、銀行団から巨額資金の調達をめざす考えだ。
 みずほコーポレート銀行などメガバンク3行は、買収交渉がまとまれば1兆5千億円規模を協調融資する方向で調整に入った。ソフトバンクの主力取引銀行のみずほが参加銀行まとめる。今後、ドイツ銀行も加わる可能性がある。近くソフトバンクに融資の意思を提示する見通しだ。
 今回の買収案件は巨額のため、短期の融資を実行した後、返済期限の長い融資に切り替える。2006年、ソフトバンクが英ボーダフォン日本法人を約1兆千億円で買収した際は、まず融資した後、買収先の携帯電話事業の収益を担保に証券を出して投資家から直接お金を集める手法に切り替えており、今回も似た手法を使う可能性がある』

 円高を定着する中で、円の強さを背景に日本企業による海外企業の買収が進んでいます。この時期の買収は、ソフトバンクのユーザーにとってはやや疑問がある対応とは思われますが、日本国内に閉塞感がある中で、人口が増加し続けている米国への進出は大胆であり、賞賛に値するものです。また、この動きの中で、スプリント・ネクステルが、米携帯電話第5位のメトロPCSコミュニケーションズを買収を検討しているとの情報が入ってきました。同社はドイツテレコム傘下のTモバイルUSAが合併を検討している先であり、これから壮絶な争奪戦が行われることが予想されます。この買収が動向次第では、ソフトバンクによるスプリント・ネクステル買収にも影響を与えていることは必至です。しかし、ある新聞記事によれば、ソフトバンクの野望は、スプリント、Tモバイル、メトロ3社全ての買収だそうです。この買収合戦が成功したあかつきには、1位のAT&T、2位のベライゾンなども視野に入り、世界屈指の携帯電話会社になる可能性があります。ソフトバンクの株価は、10月12日に前日比486円、16.87%も下落していますが、気概を感じさせるくれる経営であり、円高をフルに生かした経営こそが、今の日本企業には求められているのです。

2012年10月13日土曜日

IMFが警鐘、邦銀の国債大量保有による増大するリスク

 私は、元々、国内銀行による過剰な国債保有は否定的な見解でいます。第1の理由は明確であり、金融機関などにより国債が集中投資された結果、国債の利回りが極端に低下することで、国の財政規律を失わせることです。利払い費が減少することで財政秩序がなくなっており、政府による財政赤字の垂れ流しに歯止めが掛からなくなっています。
 第2の理由は、国債利回りが低い水準にとどまっている中で、何らかの外的なショックが発生、市場参加者のスタンスの変化によりなどにより国債利回りが急上昇すれば、国債保有者は多額の損失を出す可能性があることです。そして、利回りが低ければ低いほど、その損失は比例的増大するのです。これは、いわゆる「流動性の罠」といわれる現象に関連するもので、国債利回りが一定水準にまで低下すれば、通常ならば国債の価格変動リスクを嫌い、投資家は流動性の高い資産を選好し、一定水準以下には国債利回りは低下しないことになります。もっとも、わが国の場合、中央銀行である日本銀行が国債を積極的に購入することにより、さらなる低下をもたらし、現在の10年物の国債利回りは0.7%台で推移しています。

 こうした国債の利回りの低下は、国債の大口保有者である銀行などのリスク許容度を低下されるばかりでなく、年金基金などの運用利回りを低下させることで、昨今起こっている年金詐欺事件を誘発する原因ともなっています。そして、今でも、金融の知識が乏しい一般の人々が、投資詐欺事件に巻き込まれるケースが多発しています。これらの人々は、本来は安定した運用先である国債等で運用することが望まれますが、余りに低い国債の利回りはやはり危険を伴うこととなります。円高をどうしも阻止したという政府・中央銀行の思惑もありますが、国内外で様々な歪みを生じさせる原因ともなっており、過度な利回りの低下をもたらすであろう要因を一つ一つ排除する時期が訪れている気がします。
 この流れの中で、国際通貨基金(IMF)が10日に発表した「国際金融安定性報告書」で、邦銀による国債保有残高の増大に対して懸念が示されました。これに関する記事が2012年10月11日付読売新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『邦銀の国債大量保有、懸念。IMF報告、地銀再編など要求』です。以下引用文。
 『国際通貨基金(IMF)は10日発表した世界の金融システムに関する報告書で、日本の銀行が日本国債を大量保有していることに懸念を示した。国債の金利が上昇(国債価格が下落)すれば、銀行の損失が膨らみ、経済危機を招きかねない。欧州危機では、財政悪化と金融システム不安が連鎖的に拡大した経緯があり、日本でも対策が求められそうだ。
 報告書は、日本の銀行の保有資産に占める日本国債の割合が2011年は24%で、17年には30%まで高まると予測する。
 長引く景気低迷の影響で企業側に資金需要が乏しく、銀行による貸し出しは伸び悩んでいる。リスクが高い資産を持つと不利になる厳しい資本規制もあって、銀行は手持ちの資金を、安全資金とされる日本国債に振り向けざるを得ないのが実情だ。
 日本の国と地方の債務(借金)残高は、13年末には対国内総生産(GDP)比で245%に達する見通しで、借金依存度は先進国の中でも最も深刻だ。それでも、金利が安定的に低いのは、大量発行される国債の多くを日本国内の投資家が引き受けているためだ。
 ただ、「国内頼み」の状態がいつまで維持できるかは分からない。日本銀行によると、6月末の海外投資家による日本国債保有比率は8.7%で、1年前より1ポイント上昇し、過去最高を更新した。日本の財政状況を不安視する海外投資家が国債を売却し、金利が急上昇するという可能性が少しずつ高まっている』
 上図は、スペインなど南欧諸国で、現在進行形で起こっている事態です。幸い、日本では国内に潤沢な資金があり、日本国債のほとんどが国内投資家により保有されており、負の循環には陥ってません。しかし、いつ外的ショックが発生するとも限りません。例えば、格付け機関による日本国債の格付けの引き下げが実施された場合です。度重なる格下げを嫌気した海外投資家が保有する日本国債のほとんどを一挙に売却するなどのケースなどが考えられます。特に、海外投資家が保有する国債は、短期の国債が中心であり、利回り上昇による価格下落幅は小さいのです。この小ささから、むしろ売却が容易であることが推測され、逃げ足の速い資金ともいえます。備えあれば憂いなしです。政府、日銀、日本の金融機関の間で、真剣な協議を進めた上で、国内銀行による日本国債の過度な保有を是正する対策が早急に求められているのです。

2012年10月12日金曜日

再び不祥事発生、長野の厚生年金基金で多額の損失

 AIJの問題が冷めきらないなかで、再び厚生年金基金の運用に関連して不祥事が発生しました。具体的な基金名は、長野県内の370社の社員の加入する長野県建設業厚生年金基金で、AIJ投資顧問の巨額詐欺事件で預けていた65億円の大半を失ったばかりです。既に加入者に応分の負担が強いられることになり、基金は大幅な積み立て不足を陥っています。この基金が、さらに約60億円もの資金を、東京にあるソシエテジェネラル信託銀行、スタッツインベストメントマネジメント、ユナイテッド投信投資顧問に運用委託、企業の未公開株に投資するファンド運営会社に資金を預け入れした結果、約25億円しか戻ってこないという事態に陥っています。
 金融庁・証券取引等監視委員会は、信託銀行など3社が投資先の企業の経営状況を調べるなど最低限の確認を怠たったとして、近く行政処分や処分勧告を行うとしています。一方、ファンドの運営会社は業者として登録する必要はなく、行政処分を行うことができないため、金融庁が警告を出すにとどまるようです。2012年10月6日のNHKのニュース報道では、未公開株に投資し、虚偽の運用報告を作成したファンド運営会社はともかく、運用のプロである信託銀行などの責任は大きいものとしています。専門家の意見としては、基金にも責任があるが、プロが本当の専門家責任を果たした上で出た損なかのか、やむを得ない損なのかを十分に検証する必要があるとコメントしています。
 どうして、このような損失騒ぎが多発するのでしょうか。わが国の投資環境は、円高が趨勢的に進んでいる中で、外国への投資にもリスクがあるとともに、国内の株式は、先進国の中でももっともパフォーマンスが低くなっています。その上、確定給付という年金制度により、どうしも運用利回りの向上を図る必要が有り、基金の管理者には大きなプレッシャーが常にあります。それにつけ込んだのが、AIJ投資顧問であり、また今回の不祥事であると考えています。加えて、国債の運用利回りが0.8%台と低い水準にとどまっていることに問題があります。国内の金融機関が余った資金を集中的に国債へと投資した結果の利回りの低下です。国の財政規律を損なうばかりでなく、こうした基金の安定運用先をなくすという結果をもたらしているのです。
 2012年10月4日付日本経済新聞朝刊に『成長力、金融テコに』という記事が掲載されていました。日本で発生した金融危機が、米国、欧州を襲いかかり、世界経済は金融危機を発端とした景気後退に陥っています。この記事は、日本経済新聞社が主催したシンポジウムに関する記事で、わが国を代表する金融機関のトップが講演しているという内容です。代表する金融機関とは、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループ、大和証券グループ本社、野村ホールディングスです。
 ところで、上記の5つの金融グループの株価は、大幅な増資をした結果、散々たる結果となっています。経済を引っ張るどころか、投資家に多額の損失をもたらしていることは、常に頭に入れておく必要があります。わが国の金融機関は、欧米の金融機関の業績を悪化させている中で、経営状態は安定しています。この安定さを武器に、欧米の金融機関が独占していた国際金融の分野へと打って出ています。しかし、わが国の金融機関は常に忘れてはならないという事実があります。それは、金融危機を起こし、その後の失われた20年をもたらした元凶をつくったこと、国債などに集中投資し、国の財政規律を喪失させるばかりでなく、あらゆる年金基金や財団などの運用先を失くしていることなどです。金融がリードする経済はあり得ないことは、アイルランド、アイスランドの例でもよく分かります。金融セクターが肥大すれば、国が不安定化するばかりでなく、格差社会を生み出す原因ともなります。金融セクターは主役であってはならないのです。常に脇役に徹し、主役である製造業などが安定して事業が行えるよう、円滑な金融サービスを提供することが責務なのです。

2012年10月11日木曜日

IMF出資比率の変更と存在感を増す新興国

  2012年10月9日に、国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会が、東京国際フォーラムで始まりました。東京での開催は、実に48年ぶりのことで、世界経済に減速懸念がある中、話し合われる内容が注目されています。もっとも、この開催に水を指す行動をしたのが、中国の大手銀行です。IMFと世界銀行の年次総会に、中国工商銀行、中国銀行、中国建設銀行、中国農業銀行がそろって不参加となることが伝わってきました。欧州債務危機の解決の糸口が見えなく、世界経済の今後の見通しが不透明になっている、この重要な時期に、キーとなる国際会議に出席をしないという振る舞いは、経済大国中国は如何なるものかという印象を受けました。
 IMFの世界経済の見通しに関する記事が2012年10月9日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『世界経済見通し、下方修正。新興国が息切れ。IMF・世銀総会開幕』です。以下引用文。
 『総会日程の最初に、IMFは四半期ごとに見直している世界経済見通しの10月改訂版を発表した。12年の世界の成長率は3.3%と、7月時点の予想を0.2ポイント下回った。修正は小幅だったが、10年(5.1%)や11年(3.8%)と比べると12年は減速する。13年は3.6%への回復を見込むが、7月予想より0.3ポイント下方修正した。

 IMFのブランシャール経済顧問は9日の記者会見で「世界経済は回復を続けているが回復力は弱まっている」と述べ、先行きに懸念を表明した。減速の要因としては「財政再建が需要を減らしているほか、欧州を中心に金融システムが不安定だ」と指摘した。
 IMFが世界経済の見方を厳しくしているのは、けん引役だった新興国の高成長が息切れしているためだ。12年の中国の成長率は7.8%と、7月よりも0.2ポイント下げた。中国政府が雇用を確保するために必要としてきた8%を割り込むとみており、同国経済に懸念を強めている』
 ドイツが南欧諸国支援で消極的な立場をとっている中で、ユーロ圏の問題をユーロ圏の国々で処理するには、利害の対立があることから困難な様相を呈しています。そこで考えられるのが、IMFによるギリシャ、スペインなどへの支援強化を浮かび上がってきます。もっとも、支援強化には、資金が必要であり、ほぼ倍増の増資を行うIMFの第14次クウォータの一般見直しが速やかに実施されることが望まれます。しかし、現時点で17.67%を出資比率を有する米国の同意なくして新たな増資、出資比率の見直しができないのが実情です。この出資比率の変更に関する記事が、2012年10月9日付読売新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。以下引用文。
 『中国やインド、ブラジルなどは発言権のアップを求めて、2010年12月には、中国の出資比率をドイツを上回る3位にまで上げるなどの第14次改革がまとまった。
 各国の出資総額も約57兆円に倍増させるほか、運営の中心となる理事会を構成する理事24人のうち、欧州先進国が持つ2ポストを新興国に移すことも含む。
 第14次案については、「米財務省は、11月の大統領選が終われば手続きを進めるとIMF側に伝えている」(関係者)というが、次の改革の先行きは全く見通せない。
 13年1月までに出資比率を見直す計算方法を決め、14年1月に見直しを終えるのが目標だ。米財務省高官は5日、「我々は改革を支持し続ける」と語ったが、実際には「米国は台頭する中国への警戒感を強めている」(国際金融筋)とされる。
 今回の総会で、次の改革への道筋をつけられるかどうかは、約17%の議決権を持ち、唯一単独で拒否権を握る米国がカギを握る』
 米国の動向がカギを握っているのは、出資比率の変更には、出資比率に応じて与えられる総議決権(議決権シェア)の85%という大多数に承認されなければならないからです。同様に、加盟国の出資額は、当該国の同意無しに変更することはできないそうです。IMFは、今でこそ設立当初の機能は失っているものの、現在でも金融危機に陥った国々への資金面での支援において存在感は依然として大きいといえます。この出資比率の変更が実施された場合、確実にIMF内での中国の存在感は増していきますが、拒否権を持つまでの比率を維持する限りは、米国の同意なくしてIMFは自由には動けないはずです。IMFの支援枠の拡大が期待される第14次の改革案が速やかに実施されることが望まれるところです。