先日、NHKのドキュメンタリーでシェールオイルについての報道がありました。少し前までは、米国でシェールガスの生産に成功し、膨大な埋蔵量と産出量からシェールガス革命と言われていました。次は、本命とされるシェールオイルの開発にも成功、順調に生産規模を拡大させているそうです。
アメリカ国家石油査問委員会では、2011年9月に驚くべき報告書を発表しました。同番組によれば、北米大陸における豊富な石油・天然ガス資源の可能性を示唆、『革新的なテクノロジーが膨大な石油と天然ガスを解放した。おそらく多くの人々を驚かせるのはアメリカの石油資源が、これまで考えられた以上に膨大だということだ』としています。そして、レポートでは、2035年には、これまでの原油にシェールオイルを加えた生産量は、カナダを含む北米大陸で日量2200万バレルに達するとの推測を示しました。この量は、現在の原油生産1位のロシアと2位のサウジアラビアの合計を上回る驚異的な数字であり、エネルギー生産の根本的な流れを変える可能性があります。そして、石油・天然ガス産業は米国経済の活性化、数百万人の雇用の創出にな不可欠な存在であるとともに、政府に膨大な利益をもたらす、とまで言っています。
しかし、この量が新たに加われば、下落してもおかしくないのですが、原油価格は高止まりしています。米国では、90年代1ガロン1ドルであったガソリン価格は、4ドル台まで上昇しており、庶民の財布を直撃しており、一部では石油会社が暴利を貪っているという指摘もあります。実際は、原油価格の高止まりは、シェールオイルの掘削コストに原因があるようです。サウジアラビアでの原油の掘削コストは開発費も含めて、1バレル当たり5ドル程度ですが、シェールオイルの掘削コストは、1バレル当たり70〜80ドルに達します。ここで、原油価格が60〜70ドルまで下がれば、シェールオイルの生産が減速し、原油価格が下げ止まり、逆に上昇すれば、生産が活発化することが背景にあります。結果として、シェールオイルの開発コストが原油価格の底値をつくり出しているのです。
原油価格1バレル当たり150ドル超かと思われた時期が、リーマン・ショック直前までありました。その原油高の影響もあって絶好調だったのがロシア経済です。しかし、シェールオイルの存在から、原油がかつての水準になる可能性はほぼなくなり、むしろ天然ガス価格の底割れがロシア経済を直撃しているようです。天然資源依存では、高い成長を維持することが困難になっており、民間投資を呼び込むなどの内需活性化策が求められています。原油価格とロシア経済に関する記事が、2012年10月25日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ロシア陰る成長、GDP7〜9月2.8%増に鈍化、内需低調』です。以下引用文。
『【モスクワ=石川陽平】ロシア経済の成長鈍化が鮮明になってきた。7〜9月の国内総生産(GDP)の伸び率は前年同期比に比べ2.8%にとどまり、4〜6月の同4.0%から低下した。けん引役の投資や個人消費など内需に陰りが出て、石油など資源輸出に頼る成長モデルも限界に達しつつある。同じBRICs諸国の中国やインドに続くロシアの景気減速は、世界経済の新たな懸念要因になりそうだ。(中略)ロシアではGDPの約2割、輸出の6割超を石油と天然ガスが占め、内需への影響が大きい。これまでは1バレル110ドル前後に高騰した原油価格が景気浮揚を支えたが、油価が上がる余地は小さく、今後の押し上げ要因にもなりにくい。クドリン前副首相兼財務相は9月下旬「(ロシア経済は)停滞の瀬戸際にある」と指摘した』
天然ガスの生産では、米国がロシアを上回るという事態になりました。結果、米国へと輸出されていたカタールの天然ガスが余り、ヨーロッパ市場へと流れ込みました。これまで、天然ガスをロシアに過度に依存していたヨーロッパ諸国は、ロシア依存から脱却できました。これに、ヨーロッパ諸国の景気低迷が加わり、それがロシア経済を直撃した格好となっています。ロシアは、中国、日本などアジア諸国に目を向け、新たなる資源外交を展開しようとしていますが、むしろ日本などは米国からシェールガス輸入開始に向けた準備を進めており、商社などが積極的に活動しています。
資源依存からの脱皮こそが、ロシア経済が順調に成長するカギです。今後のロシアの出方に注目されます。もっとも、シェールガス、シェールオイルの生産には、フラッキングという技術が使われます。このフラッキングには、化学物質を含んだ大量の水を使用します。この化学物資により地下水を汚染されるという危険が指摘されています。石油会社も、化学物質に何が含まれているか、企業秘密から明らかにしていません。資源大国を目指す米国の原油生産の順調な拡大にはやや問題があるようです。かつての超大国と、かつての唯一の超大国であるロシアと米国が、ともにエネルギー生産に左右される経済体質になっているのが驚きを感じます。