2012年8月31日金曜日

ブラジルの関税とトヨタ自動車の現地生産

 昨年あたりですか、米国が自動車販売世界一の地位を中国に譲りました。自動車は、金額が大きい耐久消費財であり、かつ産業の裾野も広く、貿易収支で黒字を出している国の共通点に、国内に強力な自動車メーカーが存在することがあります。例えば、日本、ドイツ、韓国などの国がそれに該当します。一方、ブラジルの貿易収支は黒字ですが、自動車販売で世界第4位の地位にあるものの、国内には有力なブラジルの自動車メーカーは存在しません。鉄鉱石など鉱物資源、大豆などの農産物を輸出するかたわら、工業製品の多くを輸入に頼っているという現実があります。
 しかし、ブラジルが持続的に成長し、次のステップに向かうには、工業製品の自国での生産は不可欠であり、同国政府は、国内産業の育成を目的に保護主義的な政策を打ち出しています。この直撃を受けたのが、輸入車であり、これに関する記事が2012年8月16日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ブラジル、輸入車失速。販売台数25%減、税の上乗せ響く』です。以下引用文。
 『【サンパウロ=宮本英威】ブラジルで輸入車の販売が落ち込んでいる。1〜7月の販売台数は8万1710台と、前年同期比を25%下回った。輸入車を対象にした工業品税の上乗せに加え、通貨レアルが対ドルで下落し、価格競争力が下がったためだ。政府は国内に工場を建設する自動車メーカーを保護する姿勢を鮮明にしており、保護主義的な政策の影響が出ている面もある。(中略)
 ブラジルの自動車市場ではここ数年、中韓メーカーが自国で生産した低価格の車を輸出し、シェアを高めてきた。政府は輸入車の増加は国内での雇用確保につながりにくいとして、神経をとがらせる。このため、昨年12月には工業品税を一律で30%上乗せし、今年の輸入車販売が減少する大きな要因となった。
 通貨レアルは現在、対ドルで1ドル=2.0レアル台前半で取引され、1年前に比べておよそ2割安い水準にある。輸入車が割高となり、販売が落ち込む一因となっている』
 ブラジルの保護主義的な動きに対して、トヨタ自動車は現地生産を開始しました。トヨタ自動車は、欧州や米国のメーカーと比べて、同国への進出は遅れた感がありましたが、量産工場の稼働に伴い反撃に出てきたといえます。また、2015年後半にはエンジンの現地生産化により、部品の現地調達率は85%まで高まるとしています。現地調達率が高まることは、工業品にかかる税金を回避できることを意味しており、ブラジルでのシェア拡大に対するトヨタ自動車の意気込みを感じます。そして、このブラジルでのシェア拡大においは、小型の世界戦略車「エティオス」を投入するようです。「エティオス」は、ライバルとなるVWなどの小型車と比べ燃費、走行性能の面に優れています。また、インド向けの「エティオス」と比べて、走行時に騒音を最大限抑え込む仕様となっており、ブラジル人のニーズにそった性能となっています。世界生産1,000万台に向けて、トヨタ自動車はVWと激しい競争を展開しています。中国と同様に、出遅れていたブラジルを制覇することは、トヨタ自動車が世界一になる上で重要なポイントとなります。ここは、トヨタ自動車の底力が期待されます。

2012年8月30日木曜日

米大統領選と米議会の対立により懸念される政府支出の大幅カット

 米大統領選の11月を前にして、オバマ大統領側とロムニー共和党大統領選候補側の中傷合戦が繰り広げられています。両者の支持率は、ほぼ拮抗していることから、どちらの側にも当選の可能性はあります。投票の結果、どちらかの候補者が当選するにものの、今問題となっているのは、米国議会における与野党の対立です。大統領選の結果をにらみ民主党、共和党がともに歩み寄らないという状況になっており、来年からは政府支出の大幅なカットにより、米経済の失速に対する懸念が出ています。
 2012年8月23日のNHKの報道番組『ワールドWave トゥナイト』は、米国の政府予算の実態とその影響に関する報道をしました。報道によると、米議会予算局(CBO、Congressional Budget Office)は、財政運営を巡る与野党の予算運営の対立が解消されない場合、今年の年末で所得税などの減税措置が打ち切られ、さらに来年初めからは予算の強制的な削減を控えているいるため、来年はマイナス成長に転落し、不況に陥る予測をまとめました。
 8月22日に米議会予算局の公表では、減税の打ち切りと連邦予算の強制削減の全てが実施された場合、連邦政府の財政赤字は、2012年度の1兆1,280億ドルから2013年度には6,410億ドルへと大幅な減少となります。そして、この影響で、2013年10〜12月期のGDPの成長率は前年同期比でマイナス0.5%となり、同時期の失業率も現在の8%前半から9.1%まで悪化するとみられています。この事態を回避するため、民主党・共和党ともそれぞれ法案を提出しているものの、11月の米大統領選を控えて歩み寄りがみられないそうです。こうした急激な財政の引き締めで、景気が崖から転落するように悪化することを「財政の崖」とも呼ばれ、欧州リスクとともに、今後の世界経済にとっての最大のリスクとされています。
 右図は、『週刊エコノミスト』2012年5月21日増刊号『米国経済白書』(2012)掲載のデータから作成したものです。2001年(会計年度)からの連邦政府の財政赤字額と債務残高のGDP比率を表しています。リーマン・ショック直後の2009年に連邦政府の財政赤字は1兆5,550億ドル、名目GDP比率で11.1%にも達しています。2012年も1兆ドルを上回っていることから、4年連続1兆ドルを上回ることとなります。この結果、連邦政府が抱える債務残高は、急速に悪化、対GDP比率では、2011年には100%に近づいており、2012年には100%を上回ることが確実視されています。この状況を受けて、先行き懸念から米の国債が米格付け会社ムーディーズによりAaaの最上位からAa1へと格下げとなりました。財政赤字の削減は急務といえますが、景気への配慮は常に必要だといえます。
 それでは、政府支出削減の景気への影響を考えるため、実質GDPの成長に対する項目別の寄与度を調べてみます。2009年に実質GDPの成長率がマイナス3.5%の大幅なマイナスととなったものの、むしろこの程度の水準にとどまったともとらえることができます。同年の政府支出の寄与度はプラスの3.4%にものぼり、米経済の底割れを回避する要因となったともいえます。失業率が高止まりする中で、個人消費支出の早急な回復はありません。また、純輸出も欧州債務危機から経済全体を引っ張るほどにはなりません。景気に敏感な設備投資は、2011年にはプラスでしたが、今後の見通し次第ではマイナスへと転じる恐れがあります。そうした中で、財政支出の削減が実施された場合、米国経済は失速する恐れがあり、米議会関係者に早急な対応が求められるところです。

2012年8月29日水曜日

エジプト、IMFに48億ドルの融資要請

 エジプトは、中東の大国であり、今後の中東和平のカギを握る国の一つであるといえます。そのエジプトが、経済再建に向けて、IMFに融資を要請したようです。先ほど行われた大統領選の結果、エジプトの第5代大統領となったモルシ氏は、モスリム同胞団が母体となって設立されたイスラム教系「自由と公正党」の党首(注)であったことから、イスラエルへの対応が気になりました。同国の政策如何で中東和平へのステップが頓挫する可能性もあり、今後の動向に注視されます。
 2012年8月23日付読売新聞朝刊に、エジプトによるIMFに対する支援要請の記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『エジプト、財政赤字など深刻化。IMFに48億ドル融資要請』です。以下引用文。
 『【カイロ=貞広貴志】エジプトのモルシ大統領は22日、カイロで国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事と初会談した。ロイター通信によると大統領は、喫緊の課題であるエジプト経済の再建に向け、総額48億ドル(約3800億円)の融資を要請した。
 エジプト経済は昨年2月の政変以降、海外からの投資や観光収入が落ち込み、財政赤字の拡大や外貨準備高減といった問題が深刻化している。今年6月までエジプト暫定統治した軍政は、32億ドル規模の融資についてIMFと交渉してきたが、モルシ政権は今回、50%の積み増しを求めた』
 ここでエジプトの経済について興味を持ちましたので、ジェトロホームページに掲載のデータから、同国の名目GDPと失業率のグラフを作成してみました。右図がそれです。残念なのですが、2010年までのデータしかないものの、順調に名目GDPが増加していることがわかります。一方、失業率は、2008年に8.7%まで改善したものの、リーマンショックの影響と思われますが、2009年には9.4%まで悪化しています。2010年には、再び9.0%へと低下したことから、同ショックからは立ち直った姿が見えてきます。しかし、2010年から2011年にかけて発生した「アラブの春」により国内の治安が悪化、主な収入源である観光収入が減少、2011年以降は失業率の悪化が予想されます。もっとも、私が感じたのは、膨大な人口を抱えるエジプトにしては、失業率は意外と低いということです。
そして、右図は、エジプトの外貨準備高、貿易収支、経常収支の推移を示しています。貿易収支が赤字であることは予想されたのですが、経常収支の赤字幅がさほど大きくないことに驚きました。これも期近のデータがないので残念です。しかし、注目すべきは、2009年から2010年にかけて外貨準備高が328億ドルから235億ドルへ急減、減少幅93億ドルは、2010年の経常収支の赤字27億ドルを大きく上回っています。これまでは、同国の外貨準備高が海外からの投資により順調に増加したことが伺える一方で、政治が不安定化する中で、外資が国外へと逃避した結果、外貨準備高の急減につながったことが考えられます。IMFに対する融資要請は、この穴を埋めるためのものであり、エジプト経済が決して盤石ではないこと物語っています。
 同国経済が立ち行かなくなった場合、中東情勢が不安定化する可能性もあります。この中で、IMFによる融資が実行されたのならば、IMFに多額の資金を拠出している各国の思惑もありますが、エジプトを国際経済につなぎ止めることができるという意味でプラスであると思います。
(注)大統領当選に伴いモスリム同胞団及び「自由と公正党」から脱退したとのこと。

2012年8月28日火曜日

70億人を超える人口と食料の需給環境

 人口爆発とそれに伴う食料危機が叫ばれてから久しい。確かに、一部の貧困地域に食料品が行き渡らず、飢餓で多くの人々が苦しんでいる姿が映像が日々放映されており、その度に心が痛みます。一方で、再生可能エネルギーとしてバイオエタノールが注目され、生産が順調に進んでいるようです。私個人の意見としては、世界の全ての人々が安定して食料品を確保できるという環境になるまでは、トウモロコシなどを使ったバイオエタノールの生産はいかなるものかという印象を受けます。ここにも、高い価格提示できる需要者だけ穀物を手にすることができる、悪い意味での市場原理が働いているのだと痛感されてくれます。
 エタノールの存在により今年の食料事情が、例年とは違った動きになるのではないかいう見方が広がっています。この点について言及した記事が『週刊エコノミスト』2012年8月14・21日合併号に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『穀物高騰。史上最悪級の干ばつ襲来で食糧インフレが世界を覆う』です。以下引用文。

 『だが今年の不作と88年の不作の間には大きな違いがある。まず、中国はトウモロコシの輸出国(年間400万トン)であった。ところが12年、中国は600万トンを米国から輸入する見込みだ。次に大豆についても中国は輸入していなかった。加えて、88年当時、米国には、エタノール政策は存在しなかった。
 トウモロコシを原料とするバイオ燃料がエタノールである。11〜12年度(11年9月1日〜12年8月31日)の米国のエタノール向け需要は50億5000万ブッシェル(約1億2800万トン)。全生産高123億5800万ブッシェル(約3億1400万トン)の40.9%に達している。
 08年のリーマン・ショック直前にみられた穀物高騰時、飼料価格の上昇によって、牛肉や豚肉、鶏肉などの肉類に加え、卵や牛乳も値上がりした。この2次的な値上がりは草の根市民の台所を直撃し、米国のマスメディアは連日「食料危機」を取り上げた。その"犯人"にされたのがエタノールである。
 この時、牛肉の主要生産州であるテキサス州のリック・ペリー知事が時のブッシュ政権にエタノール政策の変更、すなわち法でエタノールの使用義務量を定めている再生可能燃料基準(RFS)の廃止を訴えたが、政府は耳を貸さなかった。このため米国ではトウモロコシが不作に終われば、トウモロコシは一方的、かつ不必要に値上がりするという構造的な欠陥を内包することになった。RFSによって、不作時でもエタノールの使用義務量は変わらないためだ』
 やはり、時のブッシュ政権は罪深いですね。エネルギーに固執した政策運営は、戦争を起こすばかりでなく、世界の人々を飢餓の危機に追いやろうとしているのです。加えて、中国での食料消費の構造変化が伺えます。近年、高まる所得水準を背景に、中国で豚肉の消費が大幅に増加、トウモロコシを飼料として肥育していることから、米国からのトウモロコシ輸入につながったと推測されます。中国以外の新興国も比較的順調な経済成長を続けている中、多くの人々の所得水準が高まっています。所得水準は食肉需要を確実に増加させる上、人口そのものも増加を続けていることから、飼料用の穀物需要は大きな増加が見込まれています。
 食肉の生産には、牛肉1kgには穀物7kg、豚肉1kgには穀物4kg、鶏肉1kgには穀物2kgがそれぞれ必要とさます。右図は、農林水産省の『2021年における世界の食料需給の見通し』に掲載されているデータから作成したグラフです。2009年から2021年にかけて、食料用の穀物消費が19.1%増加、飼料用の穀物が29.2%増加することが予想されています。食料用、飼料用ともに増加するものの、後者の増加ペースが大きいことが分かります。一方で、在庫率は、2009年の21%から16%へと低下、一歩誤れば世界的な食料危機を迎える可能性もあります。特に、2012年度は、米国ばかりでなく、ロシア、ウクライナ、インド、ブラジルでの不作の報が伝えられています。2009年の在庫率が一挙に低下し、今年度だけで2021年の16%を下回る可能性は十分にあると考えています。
 こうした中で、食料自給率が先進国最低の40%といわれる日本において、食料確保に向け、商社が積極的に動いているようです。長期的な問題はさておき、今年の消費分の穀物の確保は優先される課題です。穀物の輸入に関しての記事が2012年8月18日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『穀物輸入、価格変動を回避。伊藤忠、アフリカに調達網』です。以下引用文。
 『伊藤忠商事はアフリカで食用大豆の生産を現地農家などに委託、2014年にも日本に輸入する。数年で国内輸入量の1割強にあたる年間10万トンにまで調達量を増やす。丸紅などは南米で大豆、トウモロコシの調達を2〜3倍にする。日本の穀物調達は北米に偏ってきたが、今年のように干ばつによる相場高騰や調達難のリスクにさらされないよう、独自の調達網を構築する狙いだ。(中略)
 商社各社の調達先の中心はこれまで米国だった。生産効率の高さと安定した品質が需要家の食品メーカーなどに評価されていた。ただ今夏の深刻な干ばつではトウモロコシや大豆の収穫量が大幅に減少する見通しで、米国での取引価格は大幅に上昇している。
 商社各社は緊急措置として、東欧などからの調達も強化しているが、新興国を中心とした人口増加などで穀物相場の上昇傾向が続くと予想。安定的な調達先の確保を目指し現地での生産に踏み込む形でアフリカなどでの取り組みを強化する』
 今回の穀物価格の高騰は、食品価格をもたらすことが予想されます。インドにおけるスズキの工場での暴動も物価高騰に給与の引き上げが追いついていないことが背景にあります。前回の高騰時には、エジプトでもパンを求めて、暴動が起きるなど、途上国の人々の生活を圧迫する要因となりました。右図は、2021年における世界の地域別の穀物の生産と消費、そして輸出入の見通しを示しています。図からは、ほとんどの農産物にいえるのですが、自国での消費がほとんどで、輸出に回せるのは一部であることが分かります。原因ははっきりしませんが、気候変動が激しくなっている中で、穀物生産は不安定化しています。食料安保を考えた場合、自給率の回復は、エネルギー確保と同等に優先すべき政策課題であるといえます。

2012年8月27日月曜日

プラチナ価格急騰、誤解していた価格変動

 私は、金貯蓄をしている関係で、金やプラチナの価格について非常に敏感に反応します。これは、それらの価格が下落すれば、スポット買いも辞さないという対応です。しかし、金に対する基本知識がないものにとっては、スポット買いは危険であり、金貯蓄はそもそもは、毎日積み上げるという方法、つまりドル・コスト平均法によりものが最も合理的な投資方法であると思います。実は、過去にスポット買いをした経験があり、その時は、金を高値で購入してしまい、その後の大幅な金価格の下落により、結果として平均購入単価を押し上げてしまったという経験があります。
 そして、金貯蓄に関連して、どうしてもプラチナの価格の推移を見てしまいます。すると、最近、プラチナ相場に上昇基調にあり、金価格との差が縮小していることに気がつきました。プラチナといえば、工業需要が、宝飾品需要よりも大きいことから、景気の回復基調を反映して、プラチナ価格が上昇していると思っていました。右図は、プラチナの用途別需要を示しています。2008年では自動車触媒が45.8%を占めている一方で、宝飾品は25.7%にとどまっています。因に、2009年には、景気失速を背景に、特に自動車触媒の需要が31.5%まで低下する一方で、宝飾品は42.9%と上昇しています。
 そして、最近では金とプラチナの価格が完全に逆転し、プラチナが大きく値を下げるという局面になっています。これは、ユーロ債務危機、米景気の失速の影響で、ユーロやドルなど通貨の代替物である金に根強い人気があるからだと考えています。しかし、8月に入ってから、異なる様相を呈してきました。特に8月の中頃当たりからプラチナの価格が急上昇、ニューヨークダウ平均も比較的堅調であることから、景気に本格的な回復の兆候があり、これを受けてプラチナの価格が特に急騰し始めたと思っていました。
 しかし、実際は違っていました。プラチナ価格の上昇は、最大の供給国である南アフリカでの鉱山ストに端を発するものでした。プラチナ鉱山のストライキに関する記事が2012年8月27日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『揺れる資源国・南ア。プラチナ・金が上昇、雇用問題の難しさ露呈』です。以下引用文。
 『【ロンドン=上杉素直】世界屈指の資源国、南アフリカ共和国が揺れている。今月中旬に起きたプラチナ(白金)鉱山の労働争議に端を発した警官発砲事件がきっかけ。国際商品市場では、労使の対立が南アのほかの鉱山にも広がり、生産が滞る懸念からプラチナや金の相場が上昇した。有力新興国の一角としてもグローバル企業の注目を集めるが、今回の事件で雇用情勢の難しさが改めて意識されそうだ。(中略)
 プラチナは自動車の排ガス触媒などに使われるレアメタル(希少金属)で南アが世界生産の7割以上を占める。商品市場では南ア全体の鉱業活動への懸念が台頭。プラチナ相場は発砲事件の16日から1割上昇し、5月上旬以来3カ月半ぶりの高い水準に達した。南アが世界生産の7%を担う金も価格が上がった』
 右図は、2009年におけるプラチナの供給を示したものです。このデータでは、6割強を南アフリカが占めています。プラチナで面白いのが、触媒回収が2割近くを占めていることです。触媒回収とは、貴重な資源であるプラチナを有効活用するため、自動車触媒を中心に、プラチナの回収がビジネスとして成立しているようです。プラチナは、金以上に希少であるとされており、今後は燃料電池の触媒等でも活用が期待されているレアメタルです。もっとも、燃料電池にはプラチナが必要であり、これが燃料電池の値段が下がらないという原因でもあります。このほか、パラジウム、マンガンなどの南アフリカ共和国の生産シェアは高く、今後、資源確保に向けた動きが活発化することが予想されます。しばらくの間は、金、プラチナの価格に目が離せないでしょう。

2012年8月26日日曜日

根本的な経済格差に起因する欧州債務危機の根深さ

 欧州債務危機が長引いているものの、政策当局の積極的な関与からひと段落つき、やや落ち着いた感はあります。ここのところ、ユーロ相場はやや持ち直していることからも、そのことが伺えます。この債務危機の背景にあるとされているのが、政府の財政赤字や債務残高であるとことがよく指摘されており、ヨーロッパ諸国は財政規律の回復に向けた施策を打っています。確かに、ギリシャの総選挙で財政緊縮派が勝利したのに加え、イタリアはプライマーバランスがプラスへと転じました。そして、財政再建に目処がついたアイルランド政府は市中での国債発行を再開するなど財政規律に関していえば、当局の懸命な対応もあり、総じて信頼できる水準になってきました。
 それでは、欧州債務危機は回避できたのかといえば、決して楽観できないと私は思っています。それは、ユーロ導入国での間で経済格差が依然として大きく、その格差の縮小がない限りは、根本的な解決できないと考えているからです。そもそも、ユーロ導入を契機に、当初は人、モノ、資本(又はカネ)が域内を自由に行き交い、人、モノ、資本の価格が一定の水準に収斂すると予想されました。現実は、ドイツなど勝ち組と言われる国々に、人、モノ、カネの全てが吸い込まれていき、豊かな国がさらに豊かになり、貧しい国がさらに貧しくなるという格差拡大の方向へと動いています。
 右図は、OECD加盟のユーロ導入国の1人当たり名目GDPの比較を示しています。マルタ、キプロスはOECDに加盟していないこと、ルクセンブルクは他の国々と比べて圧倒的に高い水準であることからデータに加えていません。ユーロ導入17カ国の平均は、3万5,371ドルであるのに対して、域内最大の経済力を誇るドイツは、3万9,186ドルに達しています。一方で、ポルトガル(2万5,351ドル)、ギリシャ(2万6,934ドル)、スペイン(3万2,500ドル)、イタリア(3万2,938ドル)は、いずれもユーロ導入17カ国の平均値を下回っていることが分かります。通常ならば、安い賃金を求めて、これら諸国へと工場を移す動きがあって、経済的に貧しい国々で新しい雇用を産み出すことが考えられます。しかし、現実は、高い賃金を求めて、経済的に貧しい国々の労働者、特に若い人々がドイツへと流入しようとしています。ギリシャやスペインでは、ドイツ語の語学教室がはやっており、労働者が職を求めてドイツへと向かおうとする動きがあります。この流れが本格化すれば、南欧諸国の経済はさらに疲弊し、さらに経済格差が拡大することになるでしょう。
 もう一つの格差は、物価水準です。同じ通貨を使用し、モノが自由に移動できるのならば、ユーロ導入国の物価水準も一定になるばずです。しかし、OECDが発表している購買力平価に基づく為替相場から物価水準に依然として開きがあることが読み取れます。OECD発表の購買力平価について、説明文が少しですが掲載されていました紹介します。以下引用文(注)
 『OECDはEUと共同で「GDPを構成する商品・サービス」を対象とした価格調査を3年ごとに実施し、これに基づいて購買力平価を算定している。直近の2008年を基準年とするOECD購買力平価の算定プロジェクトでは、約3,000の商品・サービスが比較対象となった』
 上図は、直感的に理解しにくいのですが、OECDのホームページ掲載のデータから作成した、主なユーロ導入国の購買力平価から示したユーロ相場の推移を示したものです。通常、ユーロ相場は、1ユーロ=1.23ドル(2012年8月20日21:00現在)といった具合に外国通貨建て表記します。このOECDのデータは、1米ドルに対して何ユーロという表示になっていますので注意が必要です。上図の見方ですが、実際のユーロ相場よりも高いところに位置する国々は、国内物価が相対的に高く、下に位置する国ほど相対的に低いことを意味します。このことは、急速な経済悪化を背景に、アイルランドが、大幅な下落傾向を示していることから大まかにイメージと合致すると思います。ここで示す購買力平価から算出された為替レートがほぼ合致する時こそが、各国における物価水準に格差がなくなったことになります。ドイツ、フランス、イタリアが、実際のユーロ相場に近づいている一方で、ポトルガル、ギリシャ、スペインなどはほとんど変動なく、依然として開きは大きいとことが分かります。最近の成長率から考えて、南欧諸国では物価が下落傾向を示し、乖離幅が大きくなっていることが予想されます。
 確かに、国家間の経済統合には、財政規律が守られていることが大切であると思います。これは、違う言葉を話し、違う文化を持つ国家間での信頼へとつながるはずです。しかし、忘れてはならないのは、経済統合には経済格差があってはダメです。所得や物価水準は、経済統合にとって財政規律よりもさらに重要な要素であるといえます。
(注)総務省統計局『世界の統計』、p74、財団法人日本統計協会発行、2012年。

2012年8月25日土曜日

アップルの勝利、サムスンの敗北

 泥沼の様相を呈していたアップルとサムソン電子の訴訟に判決が出ました。結果は、アップルの勝利で、サムスン電子の敗北となり、サムスン電子はアップルに対して約10億5千万ドルの賠償金を支払うことを命じられました。アップルとグーグルの代理戦争といわれた、一連の訴訟合戦はアップル側に有利になったともいえますが、世界各国で行われた判決が異なること、仮に販売差し止めとなった場合でも既に販売されている旧型モデルに限定されることから、影響は限られるものと考えています。日本でも31日にも評決され、日本での結果が待ち望まれるところです。因みに、韓国の裁判所は、アップルとサムスン電子双方が相互の特許は侵害し、一部製品の販売差し止めという評決となりました。同様の裁判は、世界10カ国で約50件も行われており、「特許をめぐる史上最大の裁判」ともいわれています。
 一連の裁判で最も注目されるのは、やはり米国での結果です。この裁判の評決に関する記事が2012年8月25日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『サムスンが特許侵害、地裁陪審評決、830億円賠償命令。アップル米訴訟』です。以下引用文。

 『【シリコンバレー=岡田信行】米アップルと韓国サムスン電子がスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)「iPhone(アイフォーン)」などの特許やデザインを巡って争っている訴訟で、米カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所(サンノゼ市)の陪審は24日、サムスンがアップルの一部特許を侵害したとの評決を言い渡した。アップルの損害を約10億5千万ドル(約830億円)と認定、サムスン電子に支払いを命じた。

 今回の陪審評決を踏まえ、判事が製品販売の差し止めも含めた最終的な命令(判決)を出す。特許を侵害した製品の米国内での販売が差し止められる可能性が高い。(中略)
 アップルは2011年4月、サムスンが自社の特許を侵害したと米連邦地裁に訴え、その後、サムスンが逆提訴。両社は世界各地で訴訟合戦を繰り広げている。アップルは、サムスンが採用している米グーグルの携帯端末用OS「アンドロイド」を「アップルの技術を盗んだ」(故スティーブ・ジョブス前会長)ものと主張している。
 今回の訴訟は7月末に審理が始まった。大市場の米国での裁判というだけでなく、アップルとグーグルが本社を置くシリコンバレーの裁判所での審理ということもあり、アップルの主要幹部も出廷、審理で飛び出す証言や証拠、両社の主張も大きな注目を集めた』
 アップルのiPhone用の次期OSの発表が間近です。iOS6では、今まではプリインストールされていたグーグルの地図アプリが外され、アップルが独自開発した地図アプリが導入されます。アップルの脱グーグルは進んでいるものの、現在のグーグルの地図アプリには非常に満足しているところもあり、アップルは同様の機能のアプリを準備できるか注目されています。同様に、YouTubeも外されるとのことですが、グーグルは、iOS用の地図及びYouTubeのアプリを準備するといわれており、影響はさほどないと思われます。
 2012年4〜6月のスマートフォンの世界シェア(注)は、サムスン電子が32.6%であるのに対して、アップルは16.9%にとどまっています。これは、サムスン電子のGalaxyの方が人気があるというよりは、9月12日にiPhone5の発表を控え、やや買い控えが起こっていることが背景にあると考えています。iPhoneを使用している私にとって、この判決には複雑な印象を受けます。それは、消費者の選択肢が減るという事態は是が非とも避けたいということからきています。もっとも、シェアからみれば、アップルよりもサムスン電子が市場を席巻、さらなるシェア拡大に歯止めがかかるという見方もできます。
 販売店などに圧力をかけるなど、アップルは過去にも独占禁止法違反などで罰さられています。判決に勝訴したアップルが、(現状では考えられませんが)スマホの分野でガリバー的な存在になれば、この市場の発展は歪んだものとなりかねません。アップル、グーグル、そしてマイクロソフトなどの様々な企業が参入し、激しい競争を展開する中で技術進歩が起こり、消費者はメリットを享受することができます。米企業、韓国企業ばかりが目立つスマホ市場です。先進性では決して負けていない日本企業も国内の過当な競争市場から脱し、今後は世界市場へとチャレンジすることが期待されています。
(注)米IDCの統計によるもの。

2012年8月24日金曜日

クロマグロの総量規制と衰退する日本の漁業

 私の家では、魚料理といえば、サバ、サンマ、シャケが中心です。また、たまに行く回転寿しでは、タイ、ハマチ、イカなどを主に食べるため、マグロ、特にクロマグロの総量規制については、あまりピンとこないところがあります。海外では、資源量が少ない魚種についてはラベルなどを貼り、購入時に消費者に注意を喚起する試みがされているようです。一方、私が住んでいる岡山県は、サワラを食すことで有名です。因に、このサワラは近年、岡山県内ではほとんど獲れず、もっぱら県外での漁獲に頼っています。近くの食料品スーパーの刺身のコーナーには、毎日といっていいぐらいサワラが置かれています。サワラの希少性については、常々考えています。もっとも、サワラの県以外での漁獲量や資源量については全く知らないというのが実情です。サワラの資源量が減少しているのならば、漁獲制限をする必要があり、スーパーや飲食店などの業者は、そのことを消費者である我々に積極的に伝える義務があると思います。
 私の食生活に全く影響がないのですが、クロマグロには漁獲制限があります。一方で、クロマグロの養殖に対しては規制が緩かったため、漁獲された未成魚が養殖業者に出回っていたそうです。この養殖の総量規制に関する記事が2012年8月19日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『クロマグロ養殖、総量規制。新規・規模拡大受け入れず。水産庁、未成魚の乱獲防止』です。以下引用文。
 『水産庁はクロマグロの資源保護を強化するため、養殖用の未成魚の漁獲を規制する。2013年から国内漁場の新規開設やいけすの規模拡大を制限する。未成魚の乱獲で成魚の数が減る懸念が強まっているため、最大の消費国として、未成魚の漁獲量が現状以下に収まる総量規制を導入する。
 太平洋クロマグロの沖合での「巻き網」については、国際的な取り決めで、未成魚の総漁獲量を02〜04年の平均実績未満に制限している。ただ、沿岸での養殖は規制の対象に含まれていない。このため、出荷できる大きさまで育っていない未成魚を養殖場に持ち込むケースが急増している。
 このため水産庁は沖合での漁だけでなく、未成魚の受け皿となっている養殖についても規制をかける。来年9月に全国一斉に実施される漁業権の免許更新時に、新たな漁場の設定や養殖用のいけすの規模を拡大する申請は受け付けないように都道府県知事に要請する』
 今年の夏は、土用の丑の日が、ウナギの供給不足から値上げが相次いだという報道がありました。私は結局、アナゴを購入し、うな丼ではなく、アナゴ丼を満喫したばかりです。魚の養殖業で卵から孵化させて、養殖するという一連のサイクルが確立していない魚種に対しては、ある程度の規制はやむを得ないと思います。しかし、クロマグロの規制に対する抜け穴があることには驚きました。これは、養殖業者等漁業関係者のモラルハザードです。私は、クロマグロばかりでなく、マグロそのものを食することを、今後は自粛するつもりでいます。
 ところで、クロマグロに関連して、わが国の漁業の現状について少しばかり調べてみました。右図は、農林水産省のホームページ掲載のデータから作成した部門別の漁獲量の推移を示したものです。この図から、日本の漁獲量が大きく減少、80年中頃との比較では、半分以下の水準にまでに落ち込んでいることが分かります。この間の漁法の技術進歩を考慮すれば、この減少は、漁業従事者の減少を反映したものではなく、漁業資源そのものの減少であると推測されます。
 健康ブームから世界的に日本食が注目されています。その中心にあるのは、魚料理であるといっても過言ではありません。世界の人々が肉類から魚中心の食生活へとシフトした場合、漁業資源の枯渇は目に見えています。クロマグロに問わず、あらゆる魚種について資源量の調査は常に必要であり、そのことを消費者へ積極的に伝える姿勢が行政側に求められるとろこです。右図はデータが古いのですが、主な国の魚介類の消費量の比較を示したものです。2003〜2005年の平均ですので、中国はさらに増加していることが推測されます。因に、期近の魚介漁の生産量は、世界1億6,284万トン、中国6,047万トンですので、消費量でもかなり増加していることが伺えます。一度失われた資源は回復することはないです。北海道では、かつてニシン漁で沸いきましたが、資源の枯渇により、最近では余り注目されることはありません。最近では、鳥取県の境港でマイワシの漁獲量が激減、水産加工業者への影響が懸念されました。漁業資源の回復で成功したのは、秋田名物のハタハタくらいです。これは、漁業資源の管理の難しさを物語っています。

2012年8月23日木曜日

疑問視される隣国ロシアのWTO加盟

 ロシアは近くて遠い国であるという印象があります。明白な領土問題はあるものの、サハリンなどにある豊富な石油・天然ガスなどのエネルギー資源は、安定したエネルギー供給先の確保と中東依存からの脱却を目指す上で、わが国にとって重要な存在となっています。一方で、輸出市場としての魅力はどうでしょうか。国内産業保護を目的に、ロシアでは日本からの中古車輸入を抑制する露骨な関税の引き上げをしました。極東の中古の日本車ディーラーが困り果てる姿がテレビ画面に映したされ、今でも印象に残っています。この露骨さに辟易します。
 しかし、2012年8月22日に、このロシアがについにWTO(世界貿易機構)に加盟しました。この加盟により関税の引き下げや投資環境の整備などが期待され、日本、ロシア間の貿易の一層の拡大が期待されています。2012年8月23日読売新聞朝刊にロシアのWTO加盟に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『WTOに加盟、露「近代化」に追い風。日本、自動車輸出など期待』です。ロシアは危機的な経済状況は脱し、エネルギー価格の高騰を背景に、2012年推計でGDPは2兆ドルに達します。経済規模からみる限りでは先進国への仲間入りですが、内容が伴っていくかは、今後のプーチン政権の出方次第であると思います。以下引用文。

 『ロシアがWTOに加盟し、関税率の引き下げや投資環境の整備などを通じて貿易の拡大が期待される。ただ、ロシアがWTOルールを順守するかどうかは不透明で、日露間の経済交流がどの程度拡大するかは見通せない。
 日本からの最大の輸出品は自動車だ。ロシア市場を重視する三菱自動車は月内に、新型SUV(スポーツ用多目的車)を日本から輸出して先行販売する予定で、関税率の引き下げは「大きな追い風」(幹部)と受け止める。トヨタ自動車が2011年にロシアで販売した新車13万4000台のうち、日本などからの輸出が約12万台を占める。WTO加盟を受け、トヨタ幹部は「新車市場がさらに拡大する」と期待する』

 電子機器の平均関税率が8.4%から6.2%へと引き下げられ、自動車以外の分野での輸出拡大も期待されています。もっとも、ロシアへの輸出の6割超は自動車など輸送用機器であり、これらに対する関税引き下げが効果が大きいものと考えられます。

 そして、やっぱりロシア、ロシアであることを印象づける報道がJETROのインターネット放送局でされました。放送の内容は、ロシアにおける自動車リサイクル税の導入に関するものです。この税は、乗用車に関していえば、使用年数と排気量に応じて、新車で2万6,800ルーブル〜11万ルーブル(1ルーブル=2.4で約6万円〜26万円)、中古車で16万5,200ルーブル〜70万200ルーブル(同約40万円〜168万円)課されます。中古車に対する税率が高いことに特徴があり、関税の引き下げに伴って、中古車の過剰な流入を抑制し、明らかに自国の自動車産業を保護することを目的としています。

 さらに、この税の導入に加え、ロシア通貨ルーブルの下落により自動車メーカーの収益が圧迫されているようです。ルーブル安に関する記事が2012年8月23日付日本経済新聞朝刊に掲載されていました。記事の題目は『新興国の通貨安、収益圧迫』です。記事によると、日産は米ドルを含めた円高により、合計で260億円の利益を押し下げるとしており、うちルーブル安による影響は94億円と全ての通貨の中で最大であるそうです。同社はロシアでの新車販売が2割伸びたものの、ルーブル安で円換算した売上高が目減り、事業の採算性が悪化したとのことです。
 リサイクル税、ルーブル安により自動車の輸出が減るという事態に陥れば、ロシアとの貿易額は伸び悩む恐れがあります。貿易の拡大は、相互に利益があります。そして、中国、韓国との関係がぎくしゃくしている中、隣国であるロシアとの関係強化は、日本の国益にとって重要となっています。

2012年8月22日水曜日

用途が広がるネオジム磁石と代替品の開発に向けた試み

 レアアースのほとんどを生産する中国が輸出規制をかけたことから、近年、日本の製造業に暗雲が立ち込めていす。特に、その中で、私が非常に興味を持っているのが、ネオジム磁石であり、磁石の用途が自動車、風力発電、MRIなどに広がる中で、この代替品の開発が注視されているところです。ネオジム磁石は、鉄、ネオジムを主成分として作られる磁石で、ジスプロシウムを添加することで耐熱性を高めることができます。
 ネオジム磁石の組成は、右図(注1)の通りです。約60%を鉄で占めることが特徴であり、ネオジムは約30%、ジスプロシウムは3%ですが、耐熱用途の場合はジスプロシウムの6〜8%に高めるそうです。このジスプロシウムが、中国の輸出規制により影響を受けているのです。このため、ネオジム磁石に替わる大体製品の開発が求められているのです。もっとも、ネオジム磁石には鉄が主成分であるという優位性があり、この点が代替品の開発が進まない原因となっているといえます。
 2012年8月17日付日本経済新聞朝刊に東芝が中国産レアアースを使わない産業用の磁石を開発したことについての記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『東芝、産業用の強力磁石、中国産レアアース使わず。モーター向け』です。以下引用文。

 『東芝は16日、中国に偏在するレアアース(希土類)であるジスプロシウムを使わないモーター用磁石を開発したと発表した。豪州や米国に豊富にあるサマリウムを主体としており、一般的に利用されている強力なネオジム磁石と同等の磁力を実現した。電気自動車や産業機器向けの用途として、2012年度末までに販売を始める計画だ。(中略)
 東芝はジスプロシウムを必要としないサマリウム・コバルト磁石の磁力をネオジム磁石と同等まで高める技術を開発した。磁力を高める鉄の配合量を15%から20〜25%まで増やしたうえで、焼結時の温度、時間、圧力などの熱処理条件を工夫し、磁力の阻害要因となっていた酸化物を低減した』


 従来のサマリウム・コバルト磁石の組成は、上図です(注)。コバルト、サマリウム、鉄、銅を主成分として、東芝の試みは、この鉄の比率を高めることにあるといえます。一方で、この磁石の問題点はコバルトの組成比率が高いことにあります。コバルトはやや高価であると知られていますが、やや問題があるのは、レアメタルには該当しないものの、埋蔵量の半分近くがコンゴ民主共和国が占めていることです。この地域は政治的にも不安定であり、別のレアメタルの採掘で児童労働など違法行為が横行、NHKのBSドキュメントでも報じられました。その金属と、コバルトの採掘方法は異なると思われますが、倫理的に反するようならば、サマリウム・コバルト磁石には未来がないといえます。東芝には、この点に注意した資源確保に努めていただきたいと思っています。


 ところで、ネオジム磁石は用途は広がっているそうです。実際の使用について詳しく調べたのが右表です。コンピューターに使われているハードティスクでは、読み取り装置のヘッドにあるボイス・コイル・モーターでネオジム磁石が使われています。私は、この分野ではSSDに移行することで、需要が少なくなると考えていました。しかし、クラウドコンピュータの核になるのは、まさしくハードティスクですので、クラウドの普及が一般化すれば、逆に幾何級数的にハードティスクの需要の拡大が見込まれると予想されます。思った以上にネオジム磁石の用途は広がっており、自動車分野では、今後需要が拡大するHV、EV車のモーターは当然として、車載搭載のエアコンのモーター、パワーステアリングのモーター(従来は油圧式)などにも使われていることには驚きました。このほか、産業用ロボットの関節部分に多様されているモーターから、医療用のMRI、風力発電にも広がっています。これを見る限り、ネオジムやジスプロシウムの供給不足という根本的な問題ではなく、用途拡大による需要そのものが急速に増加、需給逼迫の主因であると考えられます。東芝以外にも、三菱電機が電磁石の原理を応用した車載用モーターを、日立製作所がアモルファス金属を使う独自開発の産業用モーターを開発しています。ネオジム、ジスプロシウムの価格が高い間は、これら代替物の研究開発が飛躍期に進むのは皮肉なことです。

(注)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構『希土類磁石から見たレアメタルと磁石応用の今後』。

2012年8月21日火曜日

安全な鉄道での移動と省エネルギー

 2005年4月25日に起こったJR西日本の福知山線における痛ましい列車事故は、私も同じJR西日本を利用する立場から人ごとではないと思っています。経営幹部への裁判が続いていますが、事故後、同社の営業姿勢に対する疑問を持つとともに、駅員の利用者に対する応対などを注意してみてきました。最近では改善はみられるものの、列車の遅延理由、遅延時間の連絡の遅さ、岡山駅から姫路駅まで不便さなど様々な点で不満を感じています。そもそも、私は鉄道好きですので、JR西日本を嫌う理由はないのですが、5年ほど前に「青春18きっぷ」を使って全国を列車で旅行し、JR東日本、東海、北海道、九州、四国を利用してからは、JR西日本のサービスが、他の会社のものと比べて列後していることを実体験しました。昨年当たりからは、山陽本線の車両の色を、品なのない「黄色」に塗りたくり、私みたいな「乗り鉄」だけでなく、「撮り鉄」の人々のひんしゅくを買っています。もっとも、JR西日本の改善努力は認めるところはあり、最近では利用者への対応も良くなっており、九州新幹線の大阪までの乗り入れは経済効果を生んでいます。
 事故は残念なことですが、鉄道による移動は安全であるとともに、環境負荷も最も低い移動手段です。鉄道による輸送は、燃料や原料の輸送手段としてメジャーな船舶をも上回るレベルであり、鉄道を中心に添えた国土開発は、引き続き進めていくべきであると思います。幸い、わが国は世界に誇る鉄道大国です。JR東日本を筆頭に、日本国内には規模の大きい鉄道会社が多く存在します。10年以上も前の記憶ですが、売上高の規模でみた場合、日本の鉄道会社が世界のトップ3に入るとのことでした。また、JRばかりではなく、JR以外の私鉄の規模そのものが大きく、日本の省エネルギーに貢献しているのです。現在、電気の使用制限があることから、本来、エコである鉄道会社に省エネを求めるという事態になっており、電力会社にはしっかりしてもらいたいと感じています。上図は、『週刊ダイヤモンド』2012年8月4日号に掲載されていたデータを元に作成したグラフです。確かに、JR東日本が他を圧倒しているものの、JR以外にもこれだけの私鉄が営業していることが分かります。

 ならば、交通手段は鉄道へとシフトしているのかといえば、決してそうではありません。特に、地方では鉄道路線の相次ぐ閉鎖に伴い、移動の中心は自動車へと移っており、エコを標榜する日本にとって逆行する事態となっています。データがやや古いのですが、右図は国土交通省『国土交通白書』(平成21年版)に掲載されたデータから作成した、地方における移動手段別の輸送人員を示したものです。自家用自動車が鉄道・バスなどを圧倒し、伸びていることが読み取れます。麻生政権による高速道路1,000円の政策が実施される前のデータですので、期近では自動車の比率はさらに高まっていることが推測されます。

 地方経済にとって、鉄道・バスなどの交通インフレは立ち後れているどころか、衰退しているのが実情であり、燃料価格が高騰し続ける中、今後、地方に住むものにとって、移動するという行為に対する経済的負担は大きくなると考えられます。こうした中で、関越自動車道での高速ツアーバスの事故を受けて、運賃の引き上げがや便数の削減が実施・検討されているようです。2012年8月4日付日本経済新聞Web版に高速バスに関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『高速ツアーバス規制強化、安全コストは利用者に。旅行会社、4割が値上げや減便を検討』です。以下引用文。
『高速バスツアー旅行を企画する旅行会社の4割が値上げや運行便数の削減を実施・検討していることがわかった。関越自動車の死亡事故を受けて安全規制が強化され、運行費用が上昇しているためだ。安全性が高まるが、そのためのコストは消費者へ転嫁されるわけで、今後の利用動向に影響が出そうだ』
 地方に住んでいるものにとって、高速バスはコスト的に魅力のある移動手段です。もっとも、鉄道と比べて燃料効率が悪いこと、リスクが高いことから、長距離の移動にバスを利用することはいかなるものかと思います。しかし、自家用自動車による移動は論外であり、民主党政権は、国家目標として環境を挙げています。ならば、鉄道会社の支援に当たり、鉄道料金そのものの引き下げを実施するとともに、地方路線の復活へ向けた施策が期待されるとろこです。鉄道会社にも、航空会社が主に担っている長距離の輸送や私鉄との競争が激しい都市部への投資ではなく、地方での鉄道利用を促進する経営姿勢が求められているのです。

2012年8月20日月曜日

消費税率引き上げと潜在成長率の低下

 消費税率の引き上げが国会で採決され、2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へと引き上げられることが決定しました。引き上げに伴い、住宅や自動車など金額額が大きいものへの需要増加が期待される一方で、需要の先食いという現象をもたらし、その後の経済が不安定化する恐れもあります。特に、2014年の引き上げ後、マイナス成長を予想する見方が広がっており、今回の法案には、経済の急変時には増税を見合わせるという「景気条項」も含まれていることから、2015年に10%への引き上げに踏み切ることができないことも十分に考えらます。

 先日のIMFの副総裁のコメントでは、財政の健全化のためには、軽減税率を導入しないという前提で15%が望ましいとしています。つまり、わが国は、10%への引き上げにつまずいた場合、プライマリーバランスの黒字化という政府が掲げる目標は到底達成できず、急速に財政が悪化することが予想されます。このためにも、駆け込み需要による景気回復ではなく、2014年までには潜在成長率そのものを引き上げる必要があるといえます。上図は、OECD発表の主要7カ国の潜在成長率の推移を表しています。わが国の潜在成長率は、1987-96年の平均で2.5%であったものが、2012年には0.7%にまで下がっています。米国の潜在成長率が依然として2%を上回っているのとは対照的に、日本経済は体力が弱まっているという現実があります。因に、主要7カ国で日本を下回っているのはイタリアだけで、日本とともに、GDPに対する政府の債務残高が大きいことに共通点があります。やはり、このデータをみる限りでは規律ある財政政策こそが、長期的な成長率を高めることにつながると痛感させてくれます。

 2014年4月までには、潜在成長率そのものを高めなければ、消費税率を10%、そして最終目標の15%へ引き上げることはできません。時間が限られていますが、人口減少が既に始まっていること、民間の資本ストックが増加から減少へと転じたことから、労働、資本の増加から成長率を高めることはやや困難であるといえます。ならば、労働人口の増加や資本ストックの蓄積ではなく、TFP(全要素生産性)を高めることにより潜在成長率を高めることが考えられます。TFPとは、労働や資本の増加では説明できない生産性の増加を示し、通常は「技術進歩の進捗率」のことを指します。つまり、技術進歩により、労働や資本の生産性そのものを引き上げることで成長率を高めることを目指すのです。このことは、今後は効率的な人材育成、そして無駄がなく、確実に利益を上げることに絞った投資判断が求められることを意味しており、日本企業の経営者の能力にかかっているともいえます。シャープやパナソニックにおける投資判断のミスは、今後は許されないのです。
 わが国では、投資の最終需要の面ばかりが注目されており、将来的に実施された投資が、どの程度の付加価値を産み出すのかがないがしろにされている面があります。右図は、OECD発表の主要7カ国の需給ギャップの推移を示してます。需給ギャップは、実際のGDPと潜在成長率の差で表されます。90年代後半から2000年前半までの突出した需給ギャップを埋めるべく、莫大な額の公共事業が実施されました。そして、今存在するインフラを考えれば、政府による一連の公共投資が闇雲に行われきたという事実を読み取れることができます。例えば、空港です。ほぼ各都道府県に1つの空港があります。長細いとはいえ、狭い国土の日本に必要とは思えないほどの空港が乱立しているのです。また、継続的な人材育成のためには、本四架橋は3本同時に建設するのではなく、一本目が完成すれば、次を建設するという姿勢が求められたのです。つまり、投資の需要の面が意識された結果であるといえます。これでは、社会インフラが過剰となり、資本の生産性は徐々に低下することとなります。確かに、上記時期に政府による公共事業がなければ、日本経済は底割れになっていた可能性も否定はできませんが、無意味な公共投資を続けることにはマイナス面が多いといえます。
 消費税率の8%への引き上げはほぼ決まっています。つまり、時間は限られているのです。そして、技術進歩を軸においた潜在成長率の引き上げしか選択肢がないのがわが国経済の実情です。知恵をしぼった政府による政策はともかく、民間部門の奮起に期待されところです。

2012年8月19日日曜日

海運大国、ギリシャの抱えるジレンマ

 ここ数年、世界経済は、ギリシャに引っ掻き回されている感が否めないという印象を受けています。しかし、先のギリシャ総選挙の再選の結果、債務問題について財政緊縮派が勝利、ギリシャのユーロ離脱の危機は一段落ついてた感があります。もっとも、今後、財政緊縮政策の実行により年金生活者や失業者、低所得者などが生活に困窮することが予想され、ギリシャ国民の大多数は生活費を切り詰めるなどの厳しい現実が待っています。一部メディアは、悲嘆して自殺に至った人などをクローズアップしたニュース報道を流すなど、やや同情するところもあります。ギリシャの公務員比率の高さなど構造的な問題ばかり指摘されている一方で、南欧諸国への輸出で儲けたドイツなどギリシャを支援する側のエゴも感じとられる面もあります。情報が少なく、ギリシャ国民の実態は一体どうなっているのか疑問が残るところです。
 ギリシャ国民の多数が苦しんでいる中での総選挙の結果ですので、今後はエールを送りたいと思っていますが、一方で、ギリシャは世界最大の海運国でもあり、かなりの富裕層も存在するのも事実です。これは、いわばギリシャにおける二重構造の問題であり、これら海運業に富を得た人々への課税できないことが、同国が財政再建できない原因の一つであるともいえます。『週刊エコノミスト』2012年8月7日号にギリシャの海運業についての記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『国家の危機も投資の好機、したてかなギリシャ海運業者』です。以下引用文。

 『ギリシャは世界最大の海運国だ。この国の「船主」と呼ばれる人々は、船舶を建造、または中古で購入して保有し、運行会社に貸し出すことで賃料(用船料)を得る商売を行っている。これに加えて、船舶の売買で利益を得る投資家としての側面も持つ。国内には、およそ800社の船主がいるといわれ、大半が非上場のファミリー企業だ。ギリシャ船主協会統計によれば、今年1月時点でギリシャ船主が実質的に保有している船は3325隻、2億2629万重量トン数では世界最大の15%のシェアを持つ。(中略)
 彼らの競争力の源泉は、この国独特の税制にある。ギリシャでは、海運によって得られる全ての事業収入は非課税。海運業は好不況が繰り返す典型的な市況産業で、用船料や船の価格が激しく変動するが、ギリシャ船主は好況期に稼いだ利益をそのまま留保できるので、その後の不況期をしのぎつつ、安く船を手に入れるタイミングを待つことができる。海運界には昔から、「ギリシャが買うときが底値」という相場の格言があるが、彼らはこの有利な税制とマーケットへの嗅覚を武器に、「安いときに船を買い、好況で稼ぐ」という必勝パターンで世界一の海運国の座に君臨している』
 ギリシャでは、産業といえば観光業です。そして、第2の産業がこの海運業で、2,000億ユーロのギリシャのGDPに対して、海運業による外貨収入は141億ユーロにのぼります。また、海運会社の船員や事務職員、関連企業の職員なども多く、海運業の雇用効果は20万人とされています。総選挙で破れた急進左派連合(SYRIZA)は、「船主も国民と同じ負担を」と主張、海運業への優遇税制を撤廃する考えを表明し、物議を醸しました。これに対して、船主は優遇税制撤廃ならば国を出ると主張、政府が慌てるという局面もあったそうです。国から出ることができない国民の負担が増大する中で、海外へ自由に出ることができる企業の法人税率だけは引き下げられる、もしくは非課税とするということはどの国にもある問題だと痛感しました。
 右図は、UNCTADの"Review of Maritime Transport 2011"に掲載されているデータから作成した、船舶の中古価格の推移を示したものです。2008年をピークに大きく下落、2010年までのデータしかありませんが、2010年にはやや持ち直している感があります。特に、Dry bulkという種類の船舶は2007年の8,300万ドルから2,500万ドルへと下落、上げ下げの激しい産業であることが分かります。そして、この相場変動では内部留保を蓄えたギリシャの海運業が有利であることも明白です。因に、Dry bulkとは、石炭、鉄鉱石、穀物などを輸送する船舶のことを指します。
 米国、欧州、日本など先進諸国での財政赤字が問題となっています。どの国も企業誘致をする目的で法人税は優遇さているのが実情です。しかし、これら一連の債務危機を回避するには、法人に対して積極的に課税する必要があります。しかし、企業が国外に出て行くという懸念があることから、各国協調で国際ルールを制定し、不公平がないシステムづくりが求められるところです。

2012年8月18日土曜日

スマートフォン市場で2強の激突、サムスン電子とアップル

 待ちに待ったiPhone5(仮称)の発表が、どうやら9月12日に決まったそうです。今回は、マイナーチェンジであったiPhone4Sとは異なり、メジャーバージョンアップの予感があり、楽しみにしています。これまでのところ、ウェブからの情報では、ディスプレイのサイズが4インチになること、ホームボタンが小さくなること、インセル型のタッチパネルが採用されること(薄型になること)などが取沙汰されています。私は、iPhoneよりも使用頻度が高いiPod touchのバージョンアップが気になるところで、同時に発表されればと思っています。
 そうした中で、サムスン電子とアップルの訴訟は泥沼状態に陥っています。この闘いは、アップルとグーグルの代理戦争とも言われていますが、結果として、パソコン、タブレット端末、スマートフォンの販売台数を伸ばしているアップル製品の部品受注が日本企業に舞い込んでくれば、プラスであると考えています。米国での裁判の結審までの時間は短いという印象があり、iPhone5が手元に入る頃には決着が着いているのではないかと期待しています。訴訟の具体的な内容は不明ですが、訴訟の手続きにおいてサムスン側に不手際があり、懲罰的な賠償をアップルが求めていること、逆にサムスンがアップルの特許侵害を主張しているなどの話も出てきています。私が使用しているMacBookAirには、サムスン電子製のSSDが入っています。両社の相互依存の時代は終焉したといえます。今後は、フォックスコンで知られる台湾の鴻海グループが中国でアップル製品の組み立てて、その部品の多くとはいいませんが、少なくない部分を日本企業からの供給により提供される可能性は十分にあるといえます。
 スマートフォン市場で激戦が続いている最中、2012年8月16日付日本経済新聞朝刊にスマートフォン市場での負け組についての記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『スマホ苦戦組、大型リストラ、ノキアやRIM、巻き返しは不透明』です。以下引用文。
 『【シリコンバレー=奥平和行】フィンランドのノキアなどスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の販売で苦戦する世界の通信機器大手が大規模な人員削減などリストラ策を相次いで打ち出している。経営の効率化と新製品投入で巻き返したい考え。ただ、韓国のサムスン電子と米アップルの「2強」が快走を続ける一方で、中国勢も台頭の兆しをみせており先行きは不透明だ。(中略)
 ノキアは6月、2013年末までに全社員の約1割に当たる1万人程度を削減する方針を示した。RIMも13年2月までに全社員の3割に相当する5000人を減らす。HTCは競争が厳しい韓国やブラジル市場からの撤退や、米ノースカロライナ州の研究開発拠点を閉鎖することを決めている』
 フィンランドのノキア、カナダのRIM、台湾のHTCが厳しい業況となっている一方で、低価格を武器に中国のZTEがシェアを拡大しており、2012年4〜6月期の世界シェアで、ブラックベリーのブランドで知られるRIMを上回り、初めて5位となりました。中国の市場規模を考えた場合、近い将来、アップル、サムスン電子、ZTEによる三つ巴の闘いとなっているかもしれません。上図は、上記記事掲載のデータから作成したグラフです。記事を読むまでカナダのRIMが入っていないことに気がつきませんでした。セキュリティが高く、現在の使用機種は不明ですが、少なくとも就任時にはオバマ大統領も愛用していたブラックベリーが姿を消すかもしれません。全面タッチパネルの機種しか使用したことがなく、フルキーボード付きのブラックベリーはかっこいいと思っていましたので、やや残念な感があります。しかし、気になるのは、日本のメーカーが上位に食い込んでいないことです。私の友人も、NECからサムスン電子のGalaxy S3に機種変更、私もiPhoneを愛用していることから、私の身近では外国製のスマートフォンがシェアの100%を占めています。ソニー、シャープ、NECなど、日本メーカーに奮起してもらいたいと思っています。

2012年8月17日金曜日

進まぬ国際化、日本での投資銀行業務の地位低下

 2012年8月8日ブログ『疑われるイランとの不正取引、不正が続く英金融機関の失墜』の中で不正の続く英金融機関について書きました。同ブログの中では、英国への金融制裁という記述もあり、やや感情的になった感はあります。一方で、外銀の撤退が進み、萎縮傾向のある東京市場は一体何なんだろうかという疑問もあります。金融の国際化は、いまや陳腐化した言葉です。不正は不正として適切に裁かれる必要があるものの、英国の金融街シティが凄く、国際市場から比して、東京市場はやはり落ち目であることは否めな事実があります。1996年に、橋本内閣により金融ビッグバンが提唱されました。それから15年程経った今、フリー(市場原理が機能する自由な市場)、フェアー(透明で公正な市場)、グローバル(国際的で時代を先取りする市場)の3つの原則はどの程度実現できたのでしょうか。
 フリーについては、垣根を超えた参入が相次ぎ、セブン&アイホールディングス傘下のセブン銀行の躍進、それに対抗するかのようにイオングループも銀行業務に参入するなど自由な市場形成はある程度実現できたような気がします。一方、透明で公正な市場の実現においては、先の3大証券会社によるインサイダー取引に対する違反などの不祥事が相次いでおり、実現にはほど遠いという気がします。それでは、グローバル化はどうなっているのでしょうか。これを説明した記事が、2012年8月13日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『投資銀、進まぬ外資参入。国内大手シェア65%。今年上半期』です。以下引用文。
 『企業の増資引き受けといった投資銀行業務で国内金融機関のシェアが高まっている。2012年上半期(1〜6月)は国内の銀行・証券大手5社が日本市場の約3分の2を握り、世界の主要市場の中で現地金融機関のシェアが最も高かった。日本では外資の参入はなかなか進まず、逆に日本事業を縮小する動きも出ている。(中略)
 日本での現地金融機関の寡占度はアジア市場でも際立つ。アジアの金融センターの座を争う香港、シンガポールとも上位5社は40%弱。外資に対する規制が厳しい参入規制がある中国でも、上位5社のシェアは26%にすぎず、5位にはスイスのUBSが顔を出している。(中略)
 外資の日本離れに伴う市場全体の縮小を懸念する声もある。日本市場の投資銀行手数料が世界に占めるシェアは1〜6月は5.03%。直近のピークだった09年の7.08%から約2ポイント下がった』
 そして、同記事では、かつては東京市場に真っ先に向かっていた幹部の向かう先が、香港、中国、シンガポールに替わっている旨示唆しています。株式市場が大きく低迷し、復活の兆しがない日本の株式市場は、資本市場としては機能不全に陥っており、海外の金融機関からみて魅力のないものになっていると思われます。つまり、金融ビックバンで叫ばれたグローバル化は完全に失敗しており、加えて寡占化が進んでいることから、少なくとも投資銀行業務に限っては「自由な市場」も確立していないことが伺えます。

 右図は、上記記事に掲載されていたデータに基づき作成した投資銀行業務の分野における英国と日本の金融機関別のシェアを示したものです。日本では、上位5社が全て日本の金融機関であり、それらで6割以上のシェアを占めています。一方、ウィンブルドン現象と揶揄されながらも、英国では上位5社のうち3社が外国籍になっている上、それらのシェアは3割弱の水準にとどまっています。外国籍の金融機関にとって、英国は魅力ある市場なのかもしれません。奇しくも、日本の金融ビックバンは、英国における金融ビックバンを参考にしたものです。不正行為に揺れているのは、英国も、日本も同じです。英国の金融市場は、国際化が進み、逆に影響力が大きいという意味で、LIBORにおける金利の不正操作が世界的に注目される問題となっているともいえます。事実、TIBORでも不正が行われているものの、世界が注目する問題とはなっていないことから分かります。

 ところで、LIBORに金利を申告する金融機関のリストが、2012年8月13日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。右表がそれです。英国の金融機関がバークレイズ、HSBC、ロイズ・バンキング・グループ、ロイヤル・バンク・オブスコットランドの4社に留まっているのに対して、英国にとっての外銀の数は、米、日本、仏がともに3社、ドイツ、スイスが2社、オランダ、カナダが1社となっています。英国の金融市場がいかに国際化が進んだ市場であることが象徴されるリストです。この表をみて、LIBOR問題で、米国の地銀に告発された金融機関に、三菱UFJと農林中央金庫が入っている理由がよく理解できました。邦銀の海外での活躍は、欧米の金融機関の経営体力が落ちている中を、やや目立っている感があります。しかし、日本の経済力の沈下もあり、東京市場自身の国際化は十分ではないのは明白です。英国は例外として、やはり経済力あっての金融市場ですので、日本の金融市場は、日本経済の持ち直し次第だといえます。

2012年8月16日木曜日

ジニ係数が上昇する米国、格差是正への対策

 米国の経済情勢がしっくりきていません。それは失業率に代表される雇用統計に現れています。米労働省発表の7月の米雇用統計で、非農業部門雇用者数が16万3千人増と過去5ヵ月でもっとも大きい伸びとなったものの、逆に失業率は8.2%と6月から0.1ポイント悪化しました。米国では、財政赤字が拡大し、米格付け会社による格付けが引き下げられたばかりです。従って、財政政策に頼った景気回復には限界が出てきており、財政赤字の拡大がむしろ大統領選の争点となっています。このため、どうしても金融政策に過度に依存した政策運営になっていまい、危険な状態であるといえます。特に、今年は、干ばつ被害により米国でトウモロコシ、大豆が歴史的な不作となっています。これを受けて穀物価格が急騰、金融緩和から発せられた過剰な流動性が商品市況へと流れ込んでいます。さらにこの事態に追い打ちをかけるように、ロシア、ウクライナ、インドで干ばつ深刻な被害、そして期待されたブラジルでは多雨による被害が拡大、今年の穀物相場は荒れそうな予感があります。
 この穀物相場の高騰に引っ張られる形で石油などの資源価格が上昇すれば、本格的なインフレが発生することとなります。インフレ懸念のため、金融を引き締めへと転じる可能性も十分にあります。しかし、市場はそれを察して、当局が引き締め政策を転換する前に、インフレ懸念から長期金利が先に上昇するのが米国です。そして、インフレ傾向が現実のものとなれば、食料品やガソリンなどの支出割合が大きい低所得者にとって負担の増加を意味します。格差拡大が米国で社会問題となっている現在、物価の上昇が顕著となれば、大統領選の争点となりかねません。今後、注意を要すると考えています。
 米国の財政問題は、富裕層への課税強化で解決すると言われています。そして、得られた税金で、低所得者層や中間所得者層に所得を再配分すれば、格差是正はある程度進むのではないかと期待されます。右図は、主要7カ国のジニ係数を示したものです。OECD発表のデータから作成したグラフで、もともと高かった米国のジニ係数が、この40年間でさらに上昇していることが分かります。特に、2位以下の国々が余り上昇していないことから、米国が突出するという形となっています。昨年、学生ローンに苦しんでいる若者が、全米各地でデモを決行するなど、格差是正の機運は高まっているといえます。
 また、米国の所得階層別の資産の保有状況を示した表が内閣府の『世界経済の潮流』(2012年Ⅰ)掲載されていましたので紹介します。第2章第3節のアメリカ経済に関するもので、『加速する所得格差の拡大』という題目の記述がありましたので引用します。以下引用文。
 『世帯所得について分配の不平等度を表すジニ係数をみると、1970年代半ば以降、上昇基調を辿っており、センサス局、OECDの推計のいずれでみても、ジニ係数は、60〜70年代の最も低かった時と比較して2割程度上昇している。
 また、平均所得と中位所得の動向をみると、2000年以降いずれの所得も伸びが横ばいになっている。一方、中位所得と平均所得のかい離をみると、90年代半ばから2000年代半ばにかけて特に拡大し、その後も縮小がみられない。こうしたことは、中位所得に比べて平均所得の増加率が高く、上位層の所得が不均衡に拡大したことを意味していると考えら、 格差が拡大していることがうかがわれる』
 資産を持っているものは、何かと有利です。上表は格差の拡大となっている所得階層別の資産・負債の保有率を示しています。上位10%の人々が金融資産の72%を、実物資産の61%を保有しており、加えて、これらから得られるであろう収入が莫大であることが推測されます。一方で、下位50%の人々は金融資産の3%、実物資産の8%しか持っておらず、何らかの資産に関する課税強化を進めなければ、米国における格差是正は不可能であるといえまます。オバマ大統領が推し進めた、医療改革は中間層にとってプラスであり格差是正につながったと思います。このような政策を打つには、税収が必要です。ならばとれるところから取るという施策が求められると思われます。
 今年11月は米大統領選です。米国民の6人に1人の所得が貧困ラインである2万ドル以下なっているという事実から目をそらせることはできません。オバマ大統領は「増税で富の再分配」「より公平な社会」を主張しているのに対して、共和党候補ロムニー氏は「規制撤廃と減税」「自由競争」を訴えています。今の米国社会の解決すべき最大の問題は格差是正です。一見、オバマ大統領の主張に好感が持てますが、無節操な財政支出の拡大はやり過ぎた感はあります。財政支出を削減しつつ、富裕層への増税と所得の再分配が求められる政策であり、オバマ大統領とロムニー氏の主張の中間に妥当と思われる施策があるような気がします。

2012年8月15日水曜日

ビール4社の業績予想、拮抗する3社と脱落気味のサッポロ

 私は、ビールをよく飲みます。行きつけの居酒屋が、日本酒のアンテナショップですので、ここぞという飲み会では日本酒を飲みますが、日本酒ですとついつい深い飲み会となります。日本酒は、翌日のダメージが大きいことを考えてしまい、平日一人で軽い飲み会をする時はほとんど場合、飲むのはビールだけです。因に、私が住む岡山県にはキリンビールの工場があるため、愛飲しているのはキリンビールの「一番搾り」です。一方で、家で飲む時は、缶の発泡酒ばかりですので、行きつけの居酒屋で飲む、樽に入った「一番搾り」は格別で、飲んだ瞬間に至福の喜びを感じる次第です。
 私のアルコールライフの中心にあるビールですが、ビール業界に関する情報は全く頭になく、キリンか、アサヒがトップで、サッポロビールでごたごたしているというイメージがあるだけです。そこで、2012年8月10日付日本経済新聞朝刊にビール4社の業績に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ビール4社の1〜6月、販促費膨らみ利益圧迫』です。以下引用文。
 『ビール大手4社の2012年1〜6月期連結決算が9日出そろい、全社で経常損益が悪化した。ビール類やノンアルコールビールのほか、清涼飲料でも新商品を積極的に投入したことで競争が激化し、販売促進費が膨らんだ。
 前年同期は東日本大震災の影響で新製品の発表を見送ったケースが多かった。今期は各社とも規模の拡大を狙い、販促活動を積極化したことで競争が激しくなり、小売店に支払う販売奨励金が増えた』
 キリンHD、アサヒ、サントリーHD、サッポロHDはビール4社といえども、様々な飲料品でお世話になっています。朝のコーヒーはサントリーの「SILKY BLACK」の400gです。そして、家でブログを書いていて頭の回転が回らず糖分が足りないと感じたら、家から一番近い自動販売機で清涼飲料水を買います。この自動販売機はアサヒですので、いつも三ツ矢サイダーかバヤリースオレンジをいつも購入します。とろこで、サッポロビールだけはなかなか利用する機会がありません。そういえば、北海道に旅行へ行き、旅行のルートの関係で札幌市内で宿泊した時は、大抵の場合、サッポロビール園でジンギスカンをあてに、ビールをとことん飲んでいます。

 右図は、ビール4社の売上高の推移を示しています。キリンHDがトップであること、サントリーHDがアサヒを上回っており、ビール以外での売上高が大きいことが伺えます。2008年ではアサヒと拮抗していた売上高が、2012年の予想では、サントリーHDの売上高が、20%ほどアサヒを上回るという結果となっています。そういえば、キリンHDとサントリーHDの経営統合が破談したという話がありました。これは、業界2強の経営統合ですので、実現すれば海外メーカーと対抗できるくらいの経営規模になることが期待されたのですが残念です。もっとも、国内で寡占化が進まなかったことから、消費者としては両社の経営統合の破談は歓迎するべきことかもしれません。


 ビールを居酒屋で飲む時は、キリンの「一番搾り」が圧倒的に多いのですが、普段は発泡酒を自動販売機で購入するケースが多いです。いつも余り考えず、見えやすい位置にある発泡酒を選んでいました。これを機に会社と商品名を調べてみると、ともにキリンビールが提供する「麒麟淡麗」と「のどこし<生>」であることが、今判明しました。岡山県に在住んでいると、キリンビールの工場があるせいなのか、意識しなければついついキリンビールの商品を選んでしまうのかもしれません。上図は、2012年半期と通期のビール4社のビール類の出荷数を示しています。私の市場シェアとは異なり、アサヒがトップを維持、それに続いてキリンHD、サントリーHD、サッポロHDの順となっています。メーカー別のビールの出荷数は地域により大きな差があるのではないかと思っています。気になるのは、売上高、ビール出荷数で完全に取り残されているサッポロHDの存在です。私が学生だった頃は、ビールのシェアは、キリン、サッポロ、アサヒ、サントリーの順でした。その後、アサヒの「スーパードライ」が大ヒット、ビール業界に激震が走りました。結局、一番割を食ったのはサッポロでした。この結果もたらされた業績低迷が、同社の最近のごたごたの背景にあるのでしょう。

2012年8月14日火曜日

鈍化するユーロッパの経済成長と問題のあるドイツの対応

 ユーロ統計局より、2012年第2四半期の経済成長率が発表されました。公表されたデータによると、前年同期比ベースで、EU加盟国27カ国は▲0.2%(以下、▲はマイナスを示す)、ユーロ加盟国17カ国は▲0.4%とともに成長率がマイナスへと転じました。詳細を追っていくと、財政問題が取りざたされている南欧諸国のマイナス幅が際立っており、ギリシャ▲6.2%、イタリア▲2.5%、ポルトガル▲3.3%、スペイン▲1.0%となっています。ならば南欧諸国以外の国々が好調なのかといえば、ドイツを例にとると、期近の四半期の成長率は2.7%→1.9%→1.2%→1.0%と鈍化傾向が鮮明になっており、総じてEU諸国全体の成長率が停滞しているようです。やはり、ヨーロッパ諸国は、財政規律を守るため、引き続き緊縮的な財政政策をとっていることもあり、今後、さらに成長率が減速する可能性が予想されています。
 
 上図は、発表されたデータをグラフ化したものです。ギリシャ、ポルトガルのマイナス幅が大きいことが一目で分かります。一方で、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドなどはプラス成長を維持していますが、いずれも鈍化しています。深化するユーロ債務危機は、成長が好調であった国々をも巻き込み、ヨーロッパ全体を深い谷底へと落として入れようとしているのです。
 やはり問題は、ドイツの姿勢にあると思います。ここで、ユーロ安の恩恵を受ける形で輸出が好調なドイツが、世界最大の経常黒字である旨の記事が、2012年8月14日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『独、経常黒字が世界最大。民間調べ、今年、欧州不均衡広がる』です。以下引用文。
 『【フランクフルト=時事】ドイツの有力シンクタンク、IFO経済研究所は、2012年の同国の経常黒字が昨年に続き、中国や産油国を上回り世界最大になると予想を示した。フィナンシャル・タイムズ・ドイツ(電子版)が13日、報じた。好調な輸出が背景だが、ギリシャなど南欧諸国の赤字が拡大する中、欧州諸国間の不均衡を拡大させているとの批判が高まる可能性がある。
 IFOによると、今年のドイツの経常黒字は2100億ドル(約16兆4000億円)と、昨年の2050億ドルから増加。中国の2030億ドルを上回る見通しという。国際通貨基金(IMF)の統計によれば、10年までは中国が最大だったが、同国の内需増加による黒字幅縮小で、ドイツが逆転した』
 一方で、過剰消費である南欧諸国は、慢性的な経常赤字に苦しんでいます。ドイツ人が努力して、南欧諸国の人々が努力していないというのがドイツ側に多い論調です。しかし、そうでしょうか。かつての日本ならば、黒字幅が拡大すれば、米国から内需活性化の努力が足りないとの外圧を受け、財政政策による不均衡是正の圧力がかかっているところです。ISバランスで考えれば、ドイツの貯蓄過剰こそが、不均衡の原因となっているとも捉えることができます。今のドイツは、財政支出の拡大はしないし、ECBを通じた資金還流もしないという態度をとっています。ヨーロッパ諸国のリーダーたる国が、このような責任のない経済政策をとれば、ユーロ加盟国だけでなく、ヨーロッパ全体の経済がおかしくなっても不思議ではありません。繰り返すようですが、ユーロ安の恩恵を受けているドイツは、相応の責任があります。ドイツには、拡張的な財政支出とるか、南欧諸国への速やかなる資金還流のどちらかを選択をしなければならないのです。

2012年8月13日月曜日

スペインの不動産バブルの崩壊と失業率

 最近では、スペインの不動産バブルが崩壊したという報道や新聞記事をよく目にします。この影響を受けて、スペインの銀行が多額の不良債権の抱えるに至りました。スペイン政府は、スペインの大手銀行であるBankiaに公的資金を注入、銀行部門の再建に窮しているとのことです。そして、この政府による銀行への資本注入は、さらなる同国の財政赤字の拡大を生み、結果としてスペイン国債を多く保有するスペインの銀行の資産が劣化、銀行経営をさらに悪化させるという悪循環に陥っています。この悪循環を断ち切るため、6月29日のユーロ圏17カ国首脳会議で、安全網であるESM(欧州安定メカニズム)を使って各国政府を経由せず、銀行へ直接資本注入することに合意しました。これを受けて、スペインの国債はやや持ち直したのですが、2012年8月4日時点で10年物の利回りが6.77%と危険水準である7%を少しばかり下回っています。しかし、一進一退という事態が続いており、根本的な問題解決には、ECB(欧州中央銀行)と協力するとともに、欧州各国政府の強い指導力の発揮が期待されるところです。
 こうした中で、スペインのバブル崩壊に関する記事が『ニューズウィーク日本版』2012年8月8日号に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『スペインに増殖する「死の町」』です。この記事には、多くの写真が同時に掲載されています。その中には、人の住んでいないカスティーリャ・ラ・マンチャ州の住宅開発地区、資金難で2009年に頓挫したサッカークラブ「バレンシアCF」のホームスタジアムの工事現場、建築途中の廃墟が立ち並ぶアンダルシア州マラガの写真があり、いずれも衝撃的なものです。スペインの不動産バブルが如何にすごかったのかを痛感させてくれる写真と思います。以下引用文。
 『2000年代前半、スペインの銀行は好景気と規制緩和の波に乗って誰にでも金を貸し、熱狂的な建設ラッシュを巻き起こした。郊外のプール付きの邸宅は「スパニッシュドリーム」ともてはやされ、地中海沿岸では巨大リゾート施設の建設計画がいくつも進行。スペイン国内の06年の住宅着工件数は、フランス、ドイツを合わせたより多い76万件に達した。
 だが08年の経済危機で住宅バブルがはじけると、すべてが一変する。ローンを払えない多くの人々が家を手放し、国内各地でゴーストタウンが出現。不動産価格の暴落で銀行は巨額の不良債権を抱え、救済の手を差し伸べざるを得ない政府の債務は膨れ上がる一方だ』
 スペインの不動産バブルの凄まじさは、同国内だけでの需要かどうかがやや疑問に残るところです。ニューズウィークの記事で記述されている年間76万戸は、日本とほぼ同水準の着工数です。日本の総人口が約1億2,800万人(2010年)であるのに対して、スペインの総人口は4,600万人(2008年)です。約3分の1の人口ですから、やや多すぎるとという感は否めないです。つまり、根拠となるデータはありませんが、ドイツ、フランス、イギリスなどスペイン以外の地域の人々がスペインの不動産を買い漁ったのではないかという疑念が生じています。これが事実ならば、欧州各国はスペインの救済に共同で対処する義務があると思います。
 これはともかく、この不動産バブルに伴い発生した建設ブームは、スペインの人々に多くの雇用の場を提供したことも事実です。建設部門における雇用者数のデータは、残念ながら2005〜2008年までのものしかありません。しかし、2006年、2007年と建設部門における雇用者数が増加するのに伴い、スペインの失業率は低下傾向を示しています。しかし、雇用者数が2008年に減少したのに伴い、2008年から失業率は明らかに上昇し、現在に至っていることが上図から分かります。現時点での雇用者数はさらに減少していることが推測され、これに伴い25歳未満の若年労働者の失業率が急上昇するという結果を招いたといえます。若い人々の失業は、国家としての損失です。日本にも言えることですが、若者が、将来に対する夢を持ってこそ初めて国家の運営が健全に保たれるのです。

2012年8月12日日曜日

消費税率引き上げと国債の利回りの推移

  私は、価格変動のあるリスク資産のポートフォリオに日本国債を一切組み込んでいません。理由は、利回りが低すぎて長期の国債を保有するには、リスクが大きすぎるからです。しかし、利回りが1.5%前後で推移している時に、一度組み込むかどうかを検討したことがありました。結果は、2%前後まで上昇してからの購入という姿勢を堅持、今までに一度も日本国債を購入せずにここまできました。後から考えれば、1.5%前後で10年物の国債を購入していれば、安定したインカムゲインを得ることができたという点でやや後悔しているところです。ところで、その時、私が国債を購入しなかった理由には、大学時代の経済学の勉強によるとろこがあります。それはマクロ経済学で学ぶ「流動性のわな」です。マクロ経済学の入門書(注)に「流動性のわな」について簡単に説明している部分がありますので紹介します。
 『利子率に対する貨幣需要の弾力性(利子率が1%上昇した場合に、貨幣需要が何%程度減少するかを示す割合)が無限に大きくなった場合、「流動性のわな(Liquidity Trap)」が存在するといいます。流動性のわなは、利子率が十分低く、すべての人が現在の利子率は下限に達している(したがって債券価格は天井を打っている)と確信している場合に発生します。このとき、人々は誰も債券を新たに買おうとしないため(買っても決して値上がりしないし、下手をするとキャピタル・ロスをこうむってしまうため)、たとえ実質マネーサプライが増加したとしても利子率はそれ以上に下がらなくなります』
 つまり、私は、10年物の国債の利回りは1.5%が底であり、これ以上の下落はないと判断した結果、購入を避けたのです。そして、もう一つの理由に、わが国の債務残高が余りに増大し、10年以内にそれが円安をもたらし、物価の高騰の時代を迎えると考えたからです。物価の高騰が起これば、名目利子率は必然的に上昇し、途中売却ならばキャピタル・ロスを、バイ・アンド・ホールドならば、物価上昇分、償還時の資産の実質額が目減りするからです。奇しくも、消費税率引き上げが参院で可決されました。これで実質的に資産が3%、もしくは5%目減りしたことになりますので、物価上昇と同じ結果となります。
 ところで、債券価格と債券利回りの関係はどうなっているのでしょうか。債券価格をP0、クーポンレートc、額面F、利回りR、残存期間nとすれば、以下の式で表すことができます。
 分子のc及びFは国債購入時には決定されており、c×Fは一定となります。一方で、利回りRは分母側にありますので、Rが大きくなれば、P0は小さくなり、逆がRが小さくなればP0は大きくなることが分かります。つまり、利回りの上昇は債券価格の下落、逆に利回りの低下は債券価格の上昇をそれぞれ意味します。特に、利回りの水準が低いほど、単位当たりの利回り変動率に対する債券価格の変動率は大きくなります。従って、低い利回りの債券で、かつ長期のものは価格変動の幅が大きく、リスクが大きいのです。これを回避する手段として購入する債券を短期のものに限定する投資方法があります。事実、外国の投資家は、短期国債に集中的に投資、結果として国債のデュレーションは短くなっているという現実があります。
 2012年8月9日付日本経済新聞朝刊に国債の利回りに関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『市場、政局警戒続く。金利の動き、不安定』です。以下引用文。
 『8日夜民主、自民、公明の3党が社会保障と税の一体改革法案の早期成立で一致したことを受け、市場の緊張はいったんは和らぐ見通しだ。だが、市場が抱いた財政再建への懸念を拭うのは容易はでない。
 3党が法案の早期成立で改めて一致する前の8日の取引時間中、国債が売られた。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時前日比0.035%高い0.810%に上昇。7月10日以来約1ヵ月ぶりに0.8%台に乗せた。自民党が3党合意を破棄する可能性が急浮上し、市場関係者は「想定外の事態」(国内証券)と慌てた』
 右図は、国債利回りの推移を示したものです。7月20日当たりに底である0.72%で推移していたところが、政局が不安定化する中で7月末に0.78%にまで利回りは上昇しました。その後、3党合意がなされ再び利回りが低下するものの、自民党が野田首相に解散の期限を明確にするよう迫り、法案の参院での可決が危ぶまれました。その結果、国債の利回りは急上昇し、一時的にせよ0.8%台を乗せたのです。今後、引き続き議員定数や赤字国債に関する法案も可決する必要があり、しばらくは政局がらみで国債利回りが大きく変動するという相場状況が続くと考えれます。
(注)中谷巌、『入門マクロ経済学』(第5版)、p143、日本評論社、2007年。

2012年8月11日土曜日

赤字が拡大、エルピーダの後を追うルネサス

 日本の半導体業界はがたがたになってきています。2012年2月27日に、エネピーダメモリーが会社更生法に基づき更正手続きの開始を東京地方裁判所に申請、これにより同社は倒産しました。2011年3月31日時点の負債総額は、約4,480億円に上り、製造業では過去最大の倒産になりました。日の丸半導体の一角が沈没、残るは半導体製造の大手といえば、システムLSIを得意とするルネサスエレクトロニクスとフラッシュメモリを得意とする東芝くらいになってきました。
 しかし、状況はさらに厳しくなっており、2012年8月2日の決算説明会を機にルネサスエレクトロニクスの業績が調べてみるとさっぱりであることを判明しました。赤字続きの同社は、今期は大規模なリストラを実施、1,550億円にも上る特別損失を計上することが発表されました。同社の決算に関する記事が2012年8月3日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ルネサス、赤字1500億円。今期最終、リストラ費用かさむ』です。以下引用文。
 『ルネサスエレクトロニクスは2日、2013年3月期の連結最終損益が1500億円の赤字(前期は626億円の赤字)になる見通しだと発表した。早期希望退職や半導体工場の売却・閉鎖などで特別損失が膨らむ。人件費の削減効果から本業のもうけを示す営業損益は210億円の黒字(前期は567億円の赤字)を確保する計画だ。
 ルネサスは7月に連結従業員の1割強に当たる5千数百人の早期希望退職を国内で実施する方針を決め、労働組合と交渉を進めている。割増退職金や工場・事業の再編にかかる特別損失は1550億円になる見通しだ』

 ルネサスは、3年以内に国内に18カ所ある半導体工場のうち10カ所を閉鎖・売却し、希望退職を軸に従業員を順次削減する方針です。希望退職への応募が計画に満たない場合は、一方的に雇用契約を解消する整理解雇にも踏み切ることが想定されているそうです。もっとも、円高が定着する中で、営業利益の黒字化を前提とした決算見通しは甘いのではないかという印象も受けました。上図は、同社の決算説明会資料に基づき作成した2013年3月期決算のイメージ図です。現在の円相場の水準で、決算見通しの基本となる営業利益が、売上増40億円、原価改善370億円、研究開発費削減365億円によりそれぞれ改善し、210億円の黒字を確保するという前提は危ういと考えてもいいです。従って、順調にリストラが進み1,550億円の特別損失を計上し、保守的にみて今期並の営業損益は出るとした場合(最悪の場合は今期以上に営業損益の赤字が拡大する恐れもあり)、2,000億円を上回る最終損失を抱える可能性もあるのではないでしょうか。調べられる限り、同社は少なくとも5期連続の赤字となります。分社の元であるNEC、三菱電機、日立製作所はさらなる資金の拠出が求められる可能性もあり、これら企業の決算にも影響することも予想されます。かといって、政府が関与したとしても、最悪、エルピーダメモリの後を追うという結果になりかねないのが、今の日本の半導体業界の実情ではないでしょうか。

2012年8月10日金曜日

インテル、次世代半導体露光装置の開発でニコンに資金協力

 ニコンは、カメラメーカーであるという印象が強いです。しかし、半導体製造装置、特に半導体露光装置の分野では蘭ASMLに次ぐ2位を維持しており、半導体製造装置製造も、同社の主力事業の一つとなっています。半導体露光装置は、レンズを通した光で半導体部材のウエハーに電子回路の原図を焼き付けるというもので、半導体製造の前工程の分野に該当します。インテルが製造するCPUの配線幅は、Sandy Bridgeの32nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)から最新のIvy Bridgeでは22nmにまで狭くなり、次は14nm、そして10nmへと順次精密さが高まるとことが予想されています。
 この精密さの向上とともに、コストの低下に直結する300mmサイズの半導体ウエハーから450mmサイズのものに対応する露光装置の開発を半導体製造の各社から求められています。この次世代の露光装置の開発費が莫大になることから、このたびインテルが、ニコンに資金の面で協力することになりました。右図はニコンのホームページ掲載の『アニュアルレポート』から作成したセグメント別の売上高です。半導体製造装置は精機事業に分類され、2010年を底に急回復していることが分かります。因に、インストルメンツとは、顕微鏡などの製造が該当、バイオサイエンス分野と産業機器分野に分けられ、半導体製造に関するものとしては半導体検査装置があります。半導体検査装置とは、半導体デバイスに電気を流し正常に動作するかテストする装置を指し、ニコンがどちらの製品を提供しているか不明ですが、ウェハーベースで行われる前工程とパッケージ後に行われる後工程のものがあるそうです。
 2012年8月8日付日本経済新聞朝刊にニコンに関する記事が掲載されていましたので紹介します。インテルは蘭ASMLに出資するとともに、ニコンに資金協力です。インテルは2つの企業を競争させる狙いがあり、半導体分野での競争の激しさを物語っています。記事の題目は『ニコン、インテルと共同開発。半導体・装置、連合作り進む』です。以下引用文。
 『ニコンが米インテルから資金協力を得る背景には、ウエハーの大型化や微細化に対応する装置開発に数千億円の巨額資金が必要となっており、単独での開発が難しいことがある。半導体メーカーと装置メーカーが連合を組み、次世代半導体の開発力を強化する動きが広がってきた。
 露光装置最大手のオランダASMLは半導体各社から合計で最大25%の出資を受け入れる方針を示しており、インテルなどが資金協力を表明した。8月には台湾積体電路製造(TSMC)も出資と開発費など合わせて約1080億円を支援すると発表。韓国サムスン電子も出資を検討中といわれている。
 ASMLを軸に巨大な企業連合が形成されつつあり、露光装置2位のニコンの対応が注目されていた』

 右図は、ニコンの売上高と営業利益の推移を示したものです。2013年度の見通しでやっと売上高が1兆円に達するものの、営業利益は900億円程度にとどまっています。この規模の企業に数千億円規模の設備投資を実行するのは不可能であり、インテルによる資金協力は、次世代露光装置の開発には不可欠であると思われます。気になるのは、蘭ASMLに出資する韓国サムスン電子の動きです。機械製造など川上の分野では日本企業は韓国企業を圧倒しており、日本は韓国に対して依然として貿易黒字となっています。サムスン電子による、同分野への進出は将来的には脅威であり、この分野でも韓国企業に破れるという事態は避けたいところです。

 ところで、ニコンが想定する為替レートは、2012年5月10日発表で、1米ドル=79円、1ユーロ=109円となっています。現時点では1ユーロは90円台後半で推移していること、スペインなどの債務問題がまだ決着せず、ユーロ相場の底割れ懸念があることから察して、2013年度の同社の売上高、営業利益は見通しを下回ることも十分あり得ると考えています。右図は、ニコンの地域別の売上高を示したものです。同社の欧州への依存は高く、これはユーロ安の影響が直撃することを意味しています。ユーロ相場次第では次世代の露光装置の設備投資どろこではないというのが実情でしょう。

2012年8月9日木曜日

日本航空の再上場と大型増資で対抗する全日空

 私は、岡山県出身であることから、日本航空ではなく、どうしても全日空びいきになってしまいます。何故なら、全日空の創業者である故美土路昌一氏が岡山県出身であるからです。設立に当たっては、色々な経緯があるようですが、日本航空が官により設立された航空会社であるのに対して、民間の力により設立されたのが全日空です。全日空の日本航空に対する対抗意識は強く、それは社名にも現れています。日本航空がJAL(Japan Air Lines)と"Japan"を冠しているのに対して、全日空がANA(All Nippon Airways)と"Nippon"を冠しています。社名に関しても、"Japan"ではなく、"Nippon"を使った全日空の方が、私にとって印象がいいです。
 官により設立された日本航空が、2010年1月に会社更生法を適用、経営破綻しました。結果、企業再生支援機構から公的資金約3,500億円の出資を受け、再建に向けて、皮肉にも再び官の手に委ねられることになりました。今は、2012年9月19日には再上場を果たすこととなり、離陸に向けた準備が進められています。再び墜落という事態は是が非でも避けたいのですが、全日空を含めて航空業界を取り巻く環境は非常に厳しいの現実です。それは、燃料高騰や格安航空会社LCCの存在です。
 燃料高騰に対しては、燃費効率の高いボーイング787などの最新鋭機の導入を進めており、日本航空、全日空とも燃費効率向上に向けた経営努力しています。そのため、両社とも資金が多額の必要としており、日本航空の再上場、全日空による大型増資は理解でき、同機の導入は、それぞれ45機、50機に上るとされます。因みに、世界で最初にボーイング787の導入を決定した航空会社は全日空です。一号機の就航が岡山〜羽田便に決定した時は感動しました。実は、2011年11月1日に同機が正式就航する直前の10月23日に、旅行目的で岡山空港へたまたま行きました。その時、偶然ですが岡山空港に駐機しているボーイング787の姿を目撃する機会を得ました。感激の一瞬でした。また、全日空は、三菱重工が製造するMRJの導入も決定しており、ボーイング787の製造にも関わる日本企業も多いことから、わが国の航空機製造の分野で全日空の貢献度は大きいといえます。
 また、LCCへの対抗は、自らがLCCを設立して対抗するという手段を選択しました。成田空港を拠点とし、日本航空などが出資するジェットスター・ジャパン、関西空港を拠点とし、全日空などが出資するピーチ・アビエーションのLCCが設立されました。8月1日には、マレーシアの大手LCCエアアジアと全日空が出資するエアアジア・ジャパンが福岡空港に向けて成田空港から離陸しました。これでLCC3社が出そろった形となり、日本の空は大競争時代へと突入しました。
 しかし、世界の航空会社に課されているのは、経営の効率性ばかりを追求するのではなく、安全性重視が最も重要な経営課題です。次に重大な航空事故を起こした航行会社は、市場からの撤退は必至です。日本航空、全日空には、この点を十分に考慮した上で、競争に励んで頂きたいと思っています。上表は、両社のホームページ及び2012年8月5日付毎日新聞朝刊掲載のデータから作成した日本航空と全日空の業績を比較したものです。経営破綻を経て、日本航空が経営規模を圧縮し、売上高が大きく減少していることが表から読み取れることができます。しかし、利用者数、旅キロでは、依然として日本航空が全日空を上回っていることには驚きです。企業間の競争がないよりは、ある方が望ましいと考える人は多いと思いますが、人の安全に関わる分野での過当競争はいかなるものかと感じているとろこです。