2012年2月29日水曜日

好調な発進、トヨタ自動車

今年に入ってからのトヨタ自動車の自動車生産台数が好調に推移しているようです。昨年は、東日本大震災、タイ大洪水の影響もあり、大幅な減産に追い込まれ、世界生産台数1位から3位へと順位を落とした同社でした。
トヨタ自動車の2012年1月の生産台数は、国内生産29万6千台(対前年同月比26.3%増)、海外生産41万9千台(同10.4%増)、総生産台数は71万5千台を記録、前年同月比で16.5%増加しています。系列であるダイハツ、富士重も好調に推移しており、トヨタ系列3社の合計では、前年同月比で17.8%も増加しています。一方、トヨタ系以外の5社の合計は前年とほぼ同水準の73万4千台にとどまり、トヨタ系の躍進が目立つという結果となっています。トヨタ系3社の合計は86万台であり、単純に年率換算すれば1,000万台超となります。もっとも、ダイハツなどの軽自動車を含まないのが、世界生産台数の順位になります。ダイハツなどが生産する軽自動車を除いた生産台数を年間で900万台超へと増加させることがトヨタ自動車の今年の目標であり、1月の自動車生産は、同社にとって目標に向けた順調な滑り出しとなりました。
 しかし、トヨタ自動車の業績にとって気がかりな要素もあります。HV車が国内で順調にシェアを伸ばす中で、HV車の海外でのシェアが米国でも2%にとどまっているということです。2012年2月26日付日本経済新聞朝刊に掲載された記事に、好調に業績を伸ばしている独フォルクスワーゲンに関するものがありました。記事によれば、同社はユーロ安を背景にしているのではなく、TSIと呼ばれるダウンサイズ技術をもって販売台数の伸ばしているとのことです。ここでTSIとは何かということになります。以下記事引用。
 『従来のエンジンを小型化し、ターボチャージャーという馬力を増す装置を組み合わせてハイブリッド車並の走りと燃費が実現できる仕組み。コストも格段に安くてすむ』
ハイブリッド車は確かに優れた技術です。車技術の集大成だともいえます。電気自動車はこれよりも単純ですし、TSIもハイブッリドほどの技術はないでしょう。しかし、結果として燃費が変わらないのならば、コストが安いTSIの方が優れているともいえます。ハイブリッド車もガラパゴスの可能性も出てきています。もっとも、本命は、電気自動車であることは変わらぬ事実であり、ハイブリッド車に搭載されているモーターの技術が電気自動車の製造に結びつけば、トヨタ自動車の努力も無駄にはならないでしょう。

2012年2月28日火曜日

わが国の危うい電力事情

2月20日に高浜原発3号機が、定期検査のため、発電を停止しました。これで、国内にある原発の54基のうち稼働しているのは、北海道電力の泊原発3号機(設備容量91.2万kW)と東京電力の柏崎刈羽原発6号機(同135.6万kW)の2基のみになりました。泊原発は2012年4月、柏崎刈羽原発は同年3月に定期検査に入ることから、日本の原発全ての稼働停止状態になるのは、時間の問題となっています。これを補完する形で、火力発電所の稼働率をアップ、特に天然ガスによる火力発電へと比重を高めています。
 図は、1990年からのわが国の液化天然ガスの輸入量の推移を示しています。クリーンなエネルギーという理由で、国内での使用量が増加、特に、2011年に限れば、前年比12.1%増、7,853万トンに達しています。1990年の3,457万トンの2倍以上にまで増加しており、図からも、わが国のエネルギー供給における天然ガスの比重が高まっていることがわかります。特に、2011年の貿易収支が31年ぶりの赤字になった一因には、天然ガスの輸入量の増加が一因にあるといわれています。因みに、2010年のデータですが、液化天然ガスの輸入額は3兆3,718億円で、輸入総額60兆7,650億円の5.5%にも及んでいます(財務省)。
 確かに、天然ガスへの依存は、従来型の天然ガスに加えて、近年の技術革新によりシェールガスが発掘が可能となり、両者を合わせた埋蔵量が膨大なこと、地理的に輸入先が分散していることなど、長期的な視点に立ったエネルギーの安定供給にはプラスであると考えれます。しかし、短期的には、中東という地理的リスクがあります。仮に、イランがホルムズ海峡封鎖を封鎖すれば、日本の液化天然ガスの輸入量のうちカタール(全輸入量に占める割合15%(注1))、UAE(同7%)から輸入がストップすることとなります。特に、怖いのが、液化天然ガスの備蓄量です。2012年2月22日日本経済新聞朝刊の記事(注2)によれば、原油の備蓄は官民で200日分確保されている一方で、液化天然ガスには備蓄義務がなく、電力各社の在庫は2〜3週間分しかないそうです。これは22%もの輸入を失えば、数週間中に天然ガスの在庫がなくなることを意味します。
 天然ガスは都市ガスにも使用されている部分もあります。そこで、電源別の電力供給の構成を調べてみました。わが国における天然ガスの電力供給に占める割合は26%であり、他国と比べて2010年時点でほぼ同水準であるといえます。逆に、2011年には、緊急避難的に天然ガスへの依存度を高めたことから、他国をかなり上回っていることが予想されます。特に、数字以上に日本の天然ガスの状況は厳しいといえます。米国は自国生産だけで国内需要を満たせるだけの天然ガスを生産しており、近年中には輸出国になるいわれています。欧州は、ロシアからのパイプラインを通じて供給されており、政治的なリスクはあるものの、ロシアからの供給で国内需要を賄うことができます。加えて、原子力発電は安定的に稼働していること、再生可能エネルギーの開発が順調であることなどもあり、中東からの供給が停止しても影響は軽微でしょう。これに対して、日本の場合、天然ガスの全量が輸入であり、緊急の輸入もあって割高な水準で輸入しているなどの問題を抱えています。今後、液化天然ガスを備蓄する施設を増設したとしてもかなりの時間を要すること、電力会社に資金的な余裕がないことなどから察し、天然ガスへの依存には限界があります。2008年時点で、わが国は、液化天然ガスの世界の輸入量の41%を占める天然ガス輸入大国です。過度の依存は、足下をみられることを意味しており、高い代金を要求される可能性は高いといえます。
 安定した電力供給は、経済活動には不可欠な要素です。中国では電力の供給が慢性的に不足していることを聞いたことがあります。日本企業が、円高という逆風の中でも、国内での生産にこだわった理由の一つに、品質が高く、安定した電力供給を受けられることがあったといえます。この点においてもイニシアチブが失われれば、国内の空洞は避けられません。官民一体となった電力供給のあり方を早急にまとめ上げる必要があるでしょう。
(注1)データは通関統計。
(注2)記事タイトルは、『「エネルギーを問う」、LNGの死角、発電、ガス頼みの危うさ』。

2012年2月27日月曜日

円相場と日米金利差

私は、いつも米国債への投資タイミングを考えています。もっとも、現在、米国債の利回りは10年物で2.0%、30年物で3.2%にとどまっており、一時と比べてかなり低い水準にとどまっています(データはBloombergの2012年2月20付)。現に、2007年6月には10年物の国債利回りは5.1%もあり、その時と比べてリターンはかなり小さく、私にとって魅力が乏しい投資対象に感じられます。ただ、リスク回避的な投資対象として、世界的に米国債が買われている側面もあり、その結果、低い利回りとなっているのです。一方で、米国債が投資対象として魅力は少なくなっているのに対して、米ドルの相場は、日本銀行のさらなる金融緩和策を受けてやや持ち直しているものの、依然として70円台にとどまっています(2012年2月20日現在)。ここに矛盾が発生しています。米ドルは低い水準にとどまっており、投資対象として魅力あるものの、米ドルからみた米国債の価格は、利回り水準から察して決して安いものではなく、インフレ懸念等から、今後下落する可能性は十分にあるからです。
 右図、日米国債10年物の金利差と円ドル相場の推移を表しています。①②③④のポイントで日米金利差が縮小し、ドル相場が下落する局面があります。つまり、国債の利回りとドル相場の間には、裁定が働いているのです。ドルが安いと債券価格が高くなり(利回りは低下)、逆にドルが高いと債券価格が安くなり(利回りは上昇)、利益が発生しないという構造がビルトインされているといえます。機関投資家とは異なり、一般の投資家にとって、安いコストで米ドルを調達し、高い利回りの米国債へ投資することは、非常に困難な作業であるのです。
米国債の魅力が低下している中、今、円を売って、ドルを買えば、後から振り返ってみてもまずまずの水準であったと、私は考えています。一部の専門家の間には、ドルはさらに減価し、1ドル=50円まで下落すると予想している方も結構いるのが現実です。投資とはタイミングです。そして、将来には不確実性があります。欧州債務危機が象徴するように、今後を予想することは非常に困難となっています。
こうした中で、私が日々行っているのは、とりあえず累投で米ドルのMMFを購入するという投資方法です。長期的な視点にたった投資スタンスでなければ、この方法はお勧めできないのですが、ドルコスト平均法は、相場が下げ続けている現在の米ドルにとっては有効な手段だったといえます。現に私の米ドルのMMFの簿価は、1ドル=80円前後で、現時点ではほとんど損失は出ていません。しかし、このまま、ドルのMMFで運用し続けたとしても利回りは0.3%前後と低く、リターンは限られることから、これ以上購入しても意味があるのかということです。
実は意味があるのです。不確実性が高まっている時は、流動性が選好されます。MMFは短期債などに運用を限定しており、収益性は低いものの、流動性及び安全性はかなり高い金融商品といえます(過去にデフォルトリスクにさらされたことはありますが)。まさしく、私のMMFへの投資は、流動性の選好の結果だといえます。
そして、長期的な視点に立てば、国債を投資するタイミングは必ず訪れるからです。今みたいに、FRBが金融緩和を継続すれば、米国の場合、必ず石油、穀物などの商品市況に影響を与え、金融市場にインフレ懸念をもたらすからです。その結果、米国債の価格は下落し、利回りは上昇することになります。そして、私が言いたいのは、米国債の利回りが上昇する段になって、米ドルを調達すれば、時既に遅しだからです。つまり、上記のように日米金利差が拡大し、米ドルが上昇局面へと転じていることが予想されるからです。
ならば、今、米国の長期国債を購入するという方法もあります。これもよくないです。国債価格の下落リスクと低いリターンの結果、購入したドルで得をし、債券で損失を出す可能性が高いからです。あくまで、ポートフォリオから突出するようなことがない範囲ですが、この円高時に、米ドル建て流動の高い資金をある程度調達し、利回りの高くなった時点で米国債などの長期の金融商品へと振り替えるという投資方法が、今の米ドルに対するベストな投資スタイルではないか考えています。

2012年2月26日日曜日

iTunesのクラウド化

2月22日にアップルからiTunesに関するメールが送信されました。最初は何のメールか分かりませんでした。家に帰ってから『週刊アスキー』のネット版を読んでいるとiTunesのクラウドサービスが開始されたことを知りました。そして、このメールがiTunesの規約の変更を通知するものであったことが理解できました。日本では著作権や著作権の周辺に関する権利が複雑であり、一時は日本での同サービス開始は不可能ではないかと考えていました。米国にかなり遅れることにはなりましたが、iTunesのクラウド化により、アップルから購入した有料のコンテンツの一元管理がパソコンを介せずに利用可能となりました。これで、iTunesを管理しているパソコンが、万が一故障、紛失してもデータの復旧ができるようになったのです。ユーザー側にとって極めて利便性が高いサービスの開始だといえます。また、パソコンの普及率が低い途上国へiPhoneなどを販売する切り札にもなるでしょう。
 加えて、今年の後半からは、iTunes Matchもサービスの開始となるそうです。同サービスは、年会費を支払えば、CDなどからインストールした音楽データをアップルクラウドにアップロードすることができるサービスです。アップロードした音楽コンテンツがiTunesに含まれるものだった場合、同じアップルIDで登録されている複数のデバイスにネットからコンテンツをダウンロードできるいうものです。これらの事業展開に伴い、巨大なデータセンターを米国西海岸と東海岸に建設したそうです。高い利益率を背景に巨額の設備投資をしているアップルの独走はしばらく止まらなくなってきています。
一方、アップルと比較されるのが、ソニーです。ソニーとアップルの業績を示したのが右図です。アップルの売上高は、iPhoneの発売以降急増したのに対して、ソニーは逆に減少傾向にあったため、売上高ベースでもアップルがソニーを大幅に上回るという結果となりました。利益率でいえば、アップルは世界屈指の優良企業ですので、ソニーとは比較になりません。しかし、売上高に関しては、総合AV機器メーカーであるソニーは、パソコンと携帯電話が主力製品であるアップルを上回ってほしいかったと思っています。
 私は、ソニーのウォークマンも、アップルのiPodも持っています。一般的には音質がいいのがウォークマンで、使い勝手がいいのがiPodだという評価です。使っていて私もそのような印象を受けますが、iPodがiPod Touchとなった段階で、両者のカテゴリー分類は全く異なってきたというのがユーザーとしての意見です。ウォークマンが携帯音楽プレーヤーであり続けた一方で、iPod Touchは持ち出し可能な小型コンピューター(特にモバイルWi-Fiなどを利用した場合)へと進化しました。そして、iPod TouchがiPhoneとほぼ同化する中で、日本における携帯音楽プレーヤーのシェアは、2011年にソニーが逆転したようです。このシェア逆転は、カテゴリー分類の問題であり、iPhoneのシェアを考慮すれば、やはり日本での携帯音楽プレーヤーのシェアの逆転はなかったと考えてもいいでしょう。
 ソニーとアップルのコンテンツの配信事業で決定的に差があるのは、アップルがiTunesを核に全てのユーザーIDの一元化しているのに対して、ソニーは、音楽、ビデオ、電子書籍、アプリケーション、ゲームの配信をしているものの、全てを統合するIDは存在しないことです。これら全てのコンテンツを利用するには、ソニーの場合、4つものIDを使用しなければならないそうです(注)。アップルのiTunesの方が使い勝手がいいのです。これは、実際にアップルのiTunesとソニーのMoraの両方を使っていて感じることです。
 携帯音楽プレーヤーに限ってのことですが、ソニーとアップルは置かれている立場が決定的に違います。ソニー自身が、ソニーミュージックやソニーピクチャーズのようなコンテンツ事業を手掛けていることです。つまり、音楽や映像を主たる事業としている他の企業と競合関係にあることです。その点、アップルは中立的な立場であることができます。ソニーのシェア低下は、手掛けているコンテンツ事業がネックなっている可能性も否定できないです。
 しかし、コンテンツを持っているということは強みでもあります。ソニーといえば、いまや多岐の分野産業へと進出しているコングロマリットな企業形態です。企業規模の割に進出する分野が多く、結果としてどの事業も中途半端になった結果が、連続する赤字決算です。コンテンツ事業へと特化することも可能ですが、一方で、コンテンツ事業から撤退することで、資源を集中することも可能です。ソニーは、これから何をするのかという具体的なビジョンを描かずに、ひたすら事業の拡大してきたことは否定できないです。もっとも、コンテンツ事業、映像機器、パソコン、携帯音楽プレーヤーなど全ての事業が有機的に結びついた時は、最強の企業になる可能性もあります。目先するべきことは、ユーザーにとって使い勝手の良いインターフェイスをつくることです。
(注)『週刊ダイヤモンド』2012.2.4号、特集『さよなら!伝説のソニー、なぜアップルになれなかったのか』。

2012年2月25日土曜日

欧州の失業率

私は、25年ほど前に欧州を列車で旅行をしたことがあります。当時は、東西冷戦のまっただ中で、いわゆる東側諸国へ行くには、入国審査及びビザの取得などやっかいなものがありました。それでも、興味があったため、他の東欧諸国と比べて比較的自由化が進んでいたハンガリーへ入国し、3週間もブダペストに滞在しました。ハンガリーに入国した理由は、もう一つありました。実は手持ちのお金が少なくなったからで、滞在費をケチるというのが最大の目的でした。当時、ハンガリーでは自由化が進み、実勢の為替レートと外国人向けの為替レートの間に大きな差がなく、いわゆる西側の旅行者にとって物価が非常に安く感じられる国でした。因に隣国のチェコスロバキア(現チェコとスロバキア)では、実勢のレートと外国人を対象としたレートに5倍の開きがあったそうです。
3週間もの時間を費やして何かしたかとえば、何もせず、明るいうちはマーケットへ行き食事をとったり、散策をするという日々を送っていました。最近、ハンガリーを特集する報道番組がありました。その番組によれば、ハンガリーはヨーロッパの中でも指折りのグルメ大国でそうです。ハンガリーでの滞在時間を無駄に費やしたことを考えれば、とても残念でなりません。次に、ヨーロッパへ行く機会があれば、是非ともハンガリーに行ってみたいと思っています。
列車で旅行をした時のヨーロッパの印象は、国によって文化が全く異なるということです。国境を越えるとしばらくは同じ景色が続くものの、少したったら別の景色へと移り変わっていき、国境を越えて最初の駅に着くと乗降客の言葉が別の言葉になっています。これこそがヨーロッパ旅行の醍醐味でしょう。日本では船や航空機を利用し、国境を越えるというイメージが強いですが、ヨーロッパの場合、簡単な入国審査(EU加盟国間の越境ではないと思われます)を受けるだけで他国への入国が可能なのです。
 ヨーロッパは、経済統合に向け、チャレンジしている最中です。今現在、最大の試練を迎えているところで、それに対処するため様々な会議や話合いが連日行われています。経済統合をスムーズにする前提には、経済的な格差が余りないことがあります。一般的に、格差が大きいと、物価の安い地域へと工場などが移転、物価の高い地域の雇用問題が発生することになります。
図は、ヨーロッパの国別の失業率を示したものです。経済統合へ向けた努力は、ベネルクス関税同盟が調印された1948年から始まっています。失業率のデータをみるがきりでは、60年以上経過した現在でも、経済格差は縮まっていないようです。全ての国でデータが揃っている2011年9月時点で、失業率が最も高かったのがスペインの22.4%であるのに対して、最も低かったのがノルウェーの3.3%で、その開きは19.1%もあります。因に、ヨーロッパの4大国は、ドイツ5.8%、フランス9.7%、イタリア8.6%、イギリス8.3%となっており、ドイツの一人勝ちという印象が強いです。また、スペインの他にも失業率が著しく高い国には、ポルトガル12.8%、ギリシャ18.8%、リトアニア15.3%、ラトビア14.8%、アイルランド14.4%があります。スペインを含めた6カ国に共通しているのは、債務残高が大きく、債務危機の対処に追われていると思われがちですが、リトアニアとラトビアの名目GDPに対する債務残高の比率は、それぞれ37.6%、44.6%(2011年第3四半期)とどまっています。エストニアの失業率も11.3%とユーロエリアの10.3%を上回っていることから、バルト3国の失業率の高さは債務危機とは別の問題に起因しています。リトアニア、エストニア、ラトビア3国に共通しているのは、ロシアへの依存度が高いことで、同国からの脱却の過程でとてつもない構造改革を迫られていることが、失業率が高止まりしている理由だと考えています。
経済統合に向け、ヨーロッパ諸国は、乗り越えなければならない壁は、冷戦終結までは物理的な「壁」でした。今は、失業率や債務残高など経済格差こそが最大の「壁」となっています。

2012年2月24日金曜日

国債の金利低下ボーナス

1998年はロシア経済が混沌していた時期でした。ロシア政府の財政状況は悪化の一途をたどっており、市場はリスクに対して過度に反応する局面となっていたました。そして、同年の8月17日にロシア政府、ロシア中央銀行により対外債務の90日間の支払い停止が宣言されました。この結果、ルーブルが暴落するとともに、大規模な資本逃避が発生、欧米諸国の債権者の中でも莫大な損失を出すなど世界経済の混乱へと波及しました。この時、LTCMというヘッジファンドが破綻したことは今でも語り継がれています。特に、同ファンドの取締役会のメンバーに、ノーベル経済学賞をとったマイロン・ショールズ氏、ロバート・マートン氏が加わっていたことから今でも逸話として残っています。「ショールズ」というば、ブラック・ショールズモデルの「ショールズ」で、このモデルを使ってヨーロピアン・オプション(注1)の価格を算出することができます。
 ロシア債務危機の背景でよく指摘されているのが、国債債務の短期化という問題です。国債は様々な期間ものが毎年発行されます。郵便局に行くと2年物、5年物、10年物利付国債など国債販売のパンフレットを目にすることがあります。わが国では、これ以外にも40年といった超長期物から期間6ヵ月の短期の割引国債などが発行されています。右の表は財務省発表の国債発行の予定を示したものです(注2)。この表を作成して、日本にも30年、40年といった超長期国債が発行されていることを初めて知りました。流動性供給入札というのはよくわかりませんでしたでしたので、6ヵ月の短期割引債から40年物の超長期国債までの期間を加重平均をしたものを算出してみました。23年度4次補正後の平均期間が7.26年であったの対して、24年度当初は7.31年となっており、新規発行国債の平均期間は、幸いなことに前年と比べて0.05年ほど長くなっているようです。これは、20年物、10年物の国債発行額が、5年物、2年物と比べて多くなったことが原因です。もっとも、この2年の比較では分かりませんでしたが、長期のトレンドとしては、わが国の国債は短期化しているそうです。
右図は23年3月末時点の普通国債残高の残存期間別の内訳を示しています。本来は、時系列のデータを提示できればよかったのですが、現時点でデータがしか入手できませんでした。図からは1年以下、つまり今年度中に償還された、もしくは償還される予定の国債が120兆円近くにものぼることがことがわかります。これに、23年度の新発の建設国債(8兆4千億円)や赤字国債(35兆9千億)、復興債(11兆6千億円)、財投債(16兆5千億円)を加えて、借り換えられず償還された国債残高を差し引くと、23年度の新規国債発行残高181兆5千億円という数字が算出されることになります。家計の金融資産残高の約1,500兆円(内閣府発表)の約12%にも及ぶ国債が毎年発行されていることになります。いったん資金ショートすれば大変なことになる水準だと考えられます。
2012年2月10日付日本経済新聞朝刊に『消える「金利低下ボーナス」』という見出しの記事がありました。20年間にわたる低金利の恩恵を受け、高いクーポンの国債から低いクーポンの国債へと順次借り換えが行われたことで財政への負担が軽減されたという事実があり、このことを国債利払い費の「ボーナス」と呼んでいるそうです。この記事の中で、長期金利が仮に2.5%まで上昇すれば、平成32年度には利払い費は23兆円を超え、22年度の7.9兆円を大幅に上回ることが予測されています(ニッセイ基礎研究所調査)。上図は、普通国債の利率加重平均を示したものです。確かに、ここ数年の利回りの推移は、財政負担軽減に結びついたようです。しかし、逆に、低い金利水準は、節操のない国債発行の誘因ともなっており、単純に喜べる事態ではありません。国内の金融機関等が国債投資でかなりの利益を出しているようです。つまり、国債利回りの低下は、国、日本銀行、国内金融機関のトライアングルによってなされたことであり、将来世代に大きなツケを回す結果となるでしょう。
(注1)ヨーロピアン・オプションとは、期間のオプション行使日が当初から定まっているタイプのものを指し、逆に定まっていないものをアメリカン・オプションと呼ぶ。
(注2)カレンダー市中発行額とは、あらかじめ額を定めた入札により定期的に発行する国債の4月から翌年3月末までの発行予定額の総額をいう。

2012年2月23日木曜日

ユーロ相場の本格的回復になるか

21日に、ギリシャの追加支援策がやっと合意されました。それを受けてか、円に対するユーロ相場がやや持ち直しています。22日には一時的かもしれませんが、1ユーロは106円台へと突入しています。このユーロ高は、追加の金融緩和を決めた円の独歩安ではなく、ドルに対してもユーロは上昇しています。
 右図は、今年に入ってからのユーロの対円、対ドル相場を示したものです。東京市場の終値ベースですが、1月16日に記録した対円では97.22円、対ドルでは1.2661ドルを底に大幅反転しています。一時は、悲観的な観測が強く、1ユーロ=90円程度まで下落する可能性も示唆されたのですが、ようやく落ち着きを取り戻したようです。
 今回の合意は、EU(欧州連合)とIMF(国際通貨基金)の間で取り交わされたもので、これで昨年10月に続く2度目のギリシャへの金融支援となります。これで、各国政府や民間の債権者は、前回の合意内容よりも、大きな負担を強いられることとなります。この合意には、ギリシャの債務危機の抜本的な解決はできないという判断が背景にあります。合意形成の過程で、ギリシャの政府債務の名目GDP比率は、2020年時点で129%にとどまるとの推計があり、さらなる負担増を求め、交渉が難航したことが伺えます。
 右表が、ギリシャ向け第2次金融支援の主な内容です。名目GDPに対する比率は、現時点で160%とされており、それを120%するための労力が如何に大きいかがよくわかります。これだけのことをしたとしても、依然として120%です。イタリアの同比率119.6%を上回っていることに驚きを感じます。ギリシャの債務残高は、2011年第3四半期時点で3,472億ユーロ(ユーロ統計局発表)で、1ユーロ=106円として日本円換算すると36兆8千億円です。この規模の債務の処理で、これだけの問題が発生しているのですから、1,000兆円にものぼる日本の債務残高は処理不可能な水準であるといえます。幸い、日本の場合、現時点では国際的なスキームを組む必要はなく、債権者である国内の投資家に負担してもらうだけですから、国際問題へと発展することは極力回避できます。わが国政府によるすみやかな対応が求められるとろこですね。
 因みに、2012年2月22日付日本経済新聞の記事には、私が知らなかったデータがありました。それは、民間債権者が保有しているギリシャ国債の額面ベースでの保有額です。記事によれば、保有額は約2,000億ユーロにも達し、実にギリシャの政府債務の6割弱にも及ぶことです。債務危機が発生してから、中央銀行によるギリシャ国債の購入があったことから、当初の割合はもっと大きかったことが推測されます。今回の合意により、50%から53.5%へと負担率がアップされたことにより、民間の負担は1,000億ユーロから1,070億ユーロへと拡大したことになります。要は、ギリシャの債務危機は、そもそもは民間の問題であって、それに巻き込まれる形で、EU、ECBなどが対応に迫られているのが実情なのでしょう。ギリシャ政府による不正な会計処理があったという事実はありますが、リスクを考えず、ギリシャのような国に無節操に投資を続けた民間債権者のモラルハザードこそが、ギリシャ債務危機の根本的な問題だったといえます。
 この合意で、3月20日に145億ユーロの国債償還を控えるギリシャの債務不履行(デフォルト)は避けられると予想されています。しかし、第3次の支援はないというのが、ドイツの本音です。第3次支援が必要という話となれば、ギリシャのユーロ離脱、そしてギリシャのデフォルトが現実味を帯びてきます。

2012年2月22日水曜日

国別製品別の価格差

私は、内外価格差こそが為替レートに最も影響を与える要因であると考えています。もっとも、短期的には金利差の影響が大きく、私も高い金利水準に魅力を感じ、外国政府発行の外貨建て国債をこづかい程度に持っています。私の投資スタンスを混乱させる2つの記事・特集が、同じ週に出版された経済誌に掲載されていましたので、そのことについて少しばかり書かせていただきます。
一つ目は『週刊ダイヤモンド』2012.2.18号掲載の『困ったことに円は最強通貨、世界景気悪化でさらに上昇』という題目の記事です。同記事は、2010年初からの上昇率で、日本円と豪ドルが突出していることを指摘しています。しかし、円と豪ドルの決定的な違いは、日本が経常収支の黒字国で、債権国であるのに対して、オーストラリアは経常収支の赤字国で、債務国であるとしています。この結果、世界経済が少しでも回復の兆しがあれば、資源高に結びつきやすく、豪ドル相場は上昇しやすい。一方、債権国である日本は、ドル、ユーロが下落するなか、分散投資対象として選好されるようになっている。このため、世界経済が失速すれば、逆に円が買われるという局面があり、やはり円相場は上昇しやすいということです。これは、時々介入はするものの、日本円は基本的には為替管理がされていない数少ない通貨であることが背景にあるとしています。原油価格、金価格は依然として高水準ですし、資源高というトレンドに変化ありません。同時に、欧州、米国の景気の先行きは不透明感があり、2つの矛盾する流れが混在するのが今の世界経済です。
二つ目は、『週間エコノミスト』2012.2.21号の『不都合な経常赤字』(国債暴落、インフレを呼ぶ)という特集です。この特集を読んでいると、日本経済はもう駄目で、金融資産を全て外貨建て資産か「金」へと振り替えなければならないような気持ちになります。こちらの方は、国内貯蓄が減少し、海外からのファイナンスを受ける、つまり2010年代半ばにも経常収支が赤字化する可能性が出ていることを指摘しています。確かに、2011年の貿易収支が31年ぶりの赤字になったことには驚いています。これに加え、この特集では、今後、利回りの低下から海外投資から得られる所得収支も減少、2015年にも経常収支が赤字へと転じると予測しています。そして、経常収支が赤字となった段階で、国債先物市場にて外国人投資家が国債の売りをしかけることで、円が暴落、金利上昇へと結びつき、超インフレなど国内経済が混乱する恐れがあるとしています。通貨安、インフレ、高金利の三重苦に苦しんだ、戦後のイギリスそのものです。貯蓄率が低下傾向にある中、経常収支の赤字は現実味が帯びてきています。また、特集記事記載のデータで、外国人投資家が、既に28.3兆円、比率で16.5%もの短期国債を保有しており、プレゼンスが以前よりも増しているという事実を知りました。国債は売られやすい状況にあるといえます。
同じ週に、全く反対の意見の記事を読んでいると混乱します。私は、内外価格差こそが最終的に為替相場を決めるという考えでいます。投資スタンスが5年や10年などの短期・中期的な動きで左右されることはありません。しかし、不安がありましたので、内外価格差を少しばかり調べてみました。ここで、リストアップされている製品(又は商品)の特徴は、品質において差がないことです。そして、この価格を提供している企業も同一である点で比較しやすいと考えました。しかし、この表を作成していて気がつきました。私がいう内外価格差とは、所得水準に比して、当該の製品が高いかどうかです。上記リストの製品は、典型的な貿易財です。価格差がなくて当たり前です。私が分析するべき内外価格差は、非貿易財です。従って、残念なことです、せっかく作った表ではありますが、長期的な為替相場を説明する上では、あまり意味がないかもしれません。
一応、上記表の説明をします。アップル製品は、各国のアップルのホームページにて提示された価格を元に算出しています。それ以外の製品は、アマゾンのホームページで提示されている価格を元に算出しています。それぞれの国で提示された価格を、2012年2月14日時点の為替レートで円に換算し、日本での提示価格を1として、各国で提示されている金額を指数化したのが上記の表です。総じて、ユーロ圏での価格がやや高めであるのに対して、米国、カナダでの価格は安いという結果になっています。付加価値税の取り扱いが不明です。税率が高いことが原因ではないでしょうか。

2012年2月21日火曜日

国別論文ランキング

私もいくつか論文を書いたことがあります。それらは修士論文や懸賞論文などで、公式の場に認められている論文は過去に8本ほどありますが、残念ながらそれらが引用されたという経験は一度もありません。引用されてこそ、論文作成の意義があるもので、自己満足のような論文ばかり書いているとこと自体、決して望ましいとはいえないでしょう。私も、引用されるような論文を一度書いてみたいと思います。
2012年2月6日付日本経済新聞朝刊に『国際研究、中国が存在感、米国との共同論文10年で5倍超』の見出しの記事が掲載されていました。早々、引用元論文である『科学研究のベンチマーキング2011』を文部科学賞のホームページからダウンロード、内容をチェックしてみました。論文を読むと、内容はともかく、その労力は賞賛に値します。
この対象となっている論文には、残念ながら私が専門とする経済学が入っていません。対象の分野は、化学、材料化学、物理学、計算機・数学、工学、環境・地球科学、臨床医学、基礎生命科学で、いわゆる理系の分野カテゴリー(注)が該当、経済学、経営学、社会科学、一般を除く19分野だそうです。国の経済力があってこそ、論文作成のバックボーンができるわけで、経済学が対象に入っていないのは残念なことだと思います。中国が経済力をつけた結果、研究分野に人材を回す余裕ができたからこそ、科学分野の論文における米国との共著のランキングで英国に次ぐ、2位の地位に登りつめたのです。
 もっとも、中国の躍進もさることながら、日本もまんざらではないです。そこで、(阪彩香、桑原輝隆)に掲載されている表を加工してみました。加工したのが右表です。論文数では、1998-2000年平均で、わが国は米国、英国に次ぐ、第3位だったのですが、2008-2010年平均では第5位へとランクダウンしています。しかし、人口が減少へと転じ、20年間という長期にわたるデフレを経験している最中、他国とはやや見劣りするものの、13.9%増加していることは褒められるべき論文数ではないでしょうか。ノーベル賞受賞者数は着実に増加していることを踏まえれば、逆に質は上がっており、悲観することはないと思います。確かに、現在の論文数が将来のノーベル賞受賞につながることは否定できませんが、働き盛りの人口が減少しているからこそ、闇雲に論文を書くのではなく、質の高い論文を生涯に一本書けたらというぐらいの気持ちで研究活動を進めるべきではないでしょうか。
この論文には、米国との共同研究で、中国の勢いを示している部分があります。特に、日本経済新聞の見出しや記事の冒頭部分は、そのような印象を与えています。しかし、記事の最後の当たりに日本の本質的な問題を記述している部分がありましたので引用します。以下引用文。
『科技政策研の桑原輝隆所長は「世界の研究は単独の国から複数国にまたがるスタイルに変わっている。日本は研究の国際化が遅れている」と指摘する。(中略)
日米の関係が稀薄になるなかで米国にこだわりすぎることが、他の先進国に比べて優れた成果を発信できない一因となっている可能性がある』
わが国は、直接的、間接的なものも含め、経済そのもののが米国依存度を低めることができない状況にあります。政治の場合、米国依存はさらに増します。科学の研究分野でも同様の傾向があることに、日本の本質的な問題があるといえます。この点において素晴らしいのがスペインの論文数です。失業者数が20%超にも達している国とは思えません。スペイン語という国際的な言語を使用できることが、背景にあるとあるととらえることができます。記事でも指摘していますが、言語の壁はあるかもしれませんが、研究分野でもアジア諸国などとの連携強化が求めらます。
(参考文献)阪彩香、桑原輝隆『科学研究のベンチマーキング2011』、文部科学省、2011年。
(注)「分野カテゴリー」という言葉は、本文で使われている用語をそのまま使用したもの。

2012年2月20日月曜日

中国経済に失速の懸念

中国人民銀行は、預金準備率を引き下げたようです。2011年12月に引き続いて0.5%引き下げ、具体的な数値の発表はないそうですが、大手行の標準で20.5%とみられるとのことです(2012年2月19日付日本経済新聞朝刊)。1月の消費者物価指数が4.5%と、前月の4.1%を上回り、予想外の伸びを示している中での引き下げであり、中国政府が景気の下振れリスクを警戒した対応であると考えられます。欧州債務危機が最悪の事態を迎えた場合、実質GDPの成長率が4%台まで低下するとの予想が国際通貨基金(IMF)から発表されています。このため、中国政府は、慎重であった欧州への追加支援についても、前向きの姿勢をみせているようです。ここへきて、欧州債務危機により、順調に推移してきた中国経済の足がすくわれる可能性も出てきており、しばらくは注意する要する状況が続くでしょう。
右図は、2007年以降の中国の実質経済成長率と消費者物価指数の推移を示しています。リーマンショックの影響もあり、2009年第1四半期には、6.5%にまで経済成長率が鈍化したのですが、中国政府による積極的な財政支出など内需刺激策を功を奏し、2010年第2四半期には11.2%にまで回復しました。その後、引き締め政策もあり、徐々に鈍化、期近の2011年第4四半期には9.2%となっています。一方、物価水準は、実態とはかけ離れている印象か強いです。統計上では、2009年にはマイナスへとなっていますが、好調な経済を持続している中国で物価上昇がマイナスとなるということが、はたしてあるかどうか疑問が残る統計データです。期近では4%をやや上回る程度に収まっており、どちらかとえば不動産バブルを押さえ込む目的で、高い預金準備率を維持していると思われます。
もっとも、20%もの高い準備率に維持していも、大幅な所得水準の引き上げが続いており、所得の増加が預金の増加をもたらしいるという状況に変化はなく、融資残高は決して減少しないのが、今の中国経済であるといえます。戦後の日本経済も同様です。旺盛な投資需要があっても、それに対応できる国内貯蓄の増加があり、それが所得増加によりもたらされたものでした。つまり、高成長が貿易収支の赤字へとは結びつかなかったことが、日本経済の持続力であったといえます。今の中国も同じことがいえます。つまり、高い経済成長率と大幅な貿易黒字の共存です。東南アジアや韓国などで通貨危機があったのは、旺盛な国内需要を国内貯蓄だけで賄いきれなかったという事実があり、中国経済の持続力は戦後の日本経済と本質的には同様のものだといえます。
 しかし、そんな日本経済もドルショック、オイルショックという2つの外的ショック以降経済成長率が徐々に鈍化し、安定成長へと移行しました。中国経済も、これで2つめの外的ショックを受けたことになります。欧州経済次第ですが、中国も安定成長へと向けた動きがみられるかもしれません。

2012年2月19日日曜日

サイゼリヤに興味あり

私は、毎週、朝食、昼食の全てを、そして夕食の4〜5食を外食にてとっています。必然的に外食産業に興味があり、ついつい外食産業に関する記事を読んでしまいます。しかし、記事を読むだけではなく、外食に関して語るには実体験が一番大切なことだということは言うまでもありません。
 私の偏った食生活の中で、最近ヒットしているのは「サイゼリヤ」です。店舗の横を車で横切ったこと限りない多さです。しかし、人間の目というものは不思議なもので、関心がないことには一切目が入らず、全くもって素通りでした。しかし、知人から「サイゼリヤ」の「ミックスグリル」は凄いという話を聞きました。その知人が言うには、ワイドショーで観ていてそれを知ったとのことで、プロの料理人いわく、この価格で、この品質の料理を提供することは不可能であるというのが「サイゼリヤ」の「ミックスグリル」だそうです。そこで、早々と「サイゼリヤ」の「ミックスグリル」を食しに行きました。「ミックスグリル」は559円で、お得な3点セット(ライス、スープ、サラダ)390円を付けてオーダーしました。「ガスト」などが提供するハンバーグセットとほぼ同じスタイルのものですが、体験するといくつかの点で驚きました。余談ですが、今でも「ガスト」のモーニングは大好きです。
 最初に驚いたのはみたこともない厚切りのベーコンがハンバーグの横に添えられていたことです。次に驚いたのは、ハンバーグの味でした。赤身肉の味がしっかりしていて美味いという印象です。日頃から私は、肉の旨味は脂ではなく、赤身だと言っており、まさしくこの「ミックスグリル」は私のニーズにそったものでした。次にソーセージを食してみると、肉汁がしたたるという感じて実に美味しいと思いました。やや難があるとすれば、700Kcal超と所要のカロリー量を大幅に上回っている点です。それ以外は素晴らしいの一言です。
 ここで、外食産業について調べてみました。売上高でみた、外食産業トップはゼンショーHDです。同社の主な店舗には「すき家」「なか卯」「ビッグボーイ」「モリバコーヒー」「フラカッソ」「Jolly-Pasta」「COCO's」などがあります。良く出る話ですが、大手牛丼チェーン「すき家」と「なか卯」が同じ会社であるということは知らない人が多いようです。同社は合併等を繰り返して、トップに登りつめた会社です。こういう会社は無理な合併が仇となって失敗するケースが多いのですが、同社の場合は違うようです。それは、実際に「すき家」に行けば気付くことです。「この値段で、このようなもを食すことができるのか」という「サイゼリヤ」と同様の印象を受けるからです。2位が日本マクドナルドです。1位がマクドナルドと思っている人が結構いますが、ゼンショーがトップです。もっとも、図では分かりにくいのですが、営業利益はマクドナルドがトップとなっています。このグラフを作成し、順当な結果だという印象を受けたとろこです。
しかし、驚いたのは次のグラフです。引用元の『週刊ダイヤモンド』2011.11.26号の記事では表として掲載されていましたので、グラフにするまで全く気付きませんでした。実は外食業界トップ10の中で最も高い売上高対営業利益率を出しているのが、実は「サイゼリヤ」だったのです。それも前年比マイナス19.6%の減益を受けての数字ですので素晴らしいですね。料理の品質を高めるため、コスト高になっているのかと思いきや、コスト面、品質面ともに優れていることが「サイゼリヤ」の特徴だということです。物流システムや調達先などで工夫しているのだと思われますが、同社の業績は今のところ謎ですね。

2012年2月18日土曜日

金融機関の給与が高いの何故

2012年2月15日付けのブログ『散髪をして感じたこと』で、業種別の税込現金給与の水準を図示しました。この中で最も高い給与水準だったのが、金融・保険業でした。同じサービス業なのに、2010年の統計では、金融・保険業の税込現金給与が478千円であったのに対して、宿泊業、飲食サービス業にいたっては128千円にとどまっています。世間一般的にいっても金融業界の賃金水準が高く、飲食業などサービス業などはその逆であるという認識があり、データはそれを裏付けるものとなっています。
ここで、同じサービス業なのに、これだけの給与格差が発生するのは何故だろうという疑問が生じます。これは産業そのものの構造の差にあるというのが結論です。金融業は一般に参入障壁の高い産業です。特に銀行の場合、基幹となる支店網、ATM網を構築した上で、システムの開発、人員の育成、伝票やマニュアル等の作成が設立にあたっては不可欠です。これには膨大なコストがかかります。この上、日銀ネットに加入し、遅滞なく資金決済業務を行わなければならないのです。資本なし、ノウハウなしの裸一貫で起業することはほぼ不可能に近いといえるでしょう。最近、出現している新たな銀行というば、セブン銀行、イオン銀行、ソニー銀行など、本業から資本や店舗の提供があってこそ設立することができた銀行ばかりです。
一方、サービス業の典型である飲食業はどうでしょうか。飲食業の価値を決して低いとは私は思ってはいません。むしろ、ATMに並んで銀行取引をする無機質な作業は、楽しみとはいえず、やむを得なくやっているのに対して、食事は私の人生にとって幸せそのものです。しかし、飲食店の場合は、才能豊かな経営者が適切な場所に店舗を借りて、必要な人材を調達できれば、飲食店を立ち上げることは不可能なことではないでしょう。現に、参入障壁が低さは、同じ店舗でもテナントがひっきりなしに変わるという飲食業の姿にも現れていると思います。上の2つの図のうち(a)に該当するのが飲食店で、(b)に該当するのが銀行など金融業だと考えています。ここで、(a)に従って、記号と図の説明をします。Pは価格、MCは限界費用、ACは平均費用、Xは生産量です。MC=Pで利益が最大化できるため、仮に価格がP'ならば、最適な生産量はX'となります。しかし、平均費用ACを上回っているこの価格P'水準では、他の企業の参入を許すこととなり、結局価格はP''へと下落し、最適な生産量もX''へと減少することとなります。
一方、創業時の投資が莫大な産業である銀行の場合、どのような費用曲線を描くのでしょうか。金融業、特に銀行は、ひたすら限界費用と平均費用が低下していくという費用曲線を描く図(b)のケースに該当すると考えられます。つまり、生産量が増大すればするほど費用は減少し、逆に利益は増大することを意味します。この状況で、新たに市場参入しようとすれば、規模が小さい場合、コスト面で先行する銀行に歯が立たず、一部の例外を除き、結局撤退するはめになります。
 そして、金融業の税込現金給与が高いのは、大規模な資本投入することで、生産量を拡大させることのできる唯一のサービス業だからです。結果、単位労働者数に対して、相対的に規模の大きい資本投入が可能となり、高い労働生産性をもたらします。これこそが、高い給与の源泉となっているのです。つまり、1兆、10兆円、100兆円へと預金が増加したとしても、それを取り扱う人員は1000人、1万人、10万人へと比例的に増加させる必要はないのです。加えて、規模が拡大したからといっても、銀行システムの基本的に大差はないでしょう。システムにかかる費用は、規模の大小にかかわらず、ある程度の額が必要であり、ここにも規模の経済性が成り立つ環境があります。マニュアルや伝票もしかりです。規模が多くなればなるほど、売上高(銀行の場合は業務純益に該当する)は増加するものの、決して費用は、売上高ほどに増加しないこととなります。銀行業には規模の経済が働いているのです。
上図は、わが国の三大金融グループである、三菱UFJ、みずほ、三井住友フィナンシャルグループの合併の経緯を図示したものです。1980年代中頃では、都市銀行は13行、信託銀行は7行、長期銀行は3行ありました。現在は、上記の3つの巨大金融グループと、りそな、住友三井信託グループがあるくらいです。バブル崩壊後、多額の不良債権を抱えたことが合併の最大の要因であるといえます。しかし、システムの統合、重複店舗の統廃合をすることで、国内の銀行は一斉に規模の経済性を生かした経営戦略へと向かったのです。これこそが銀行の合併の根拠です。そして、これを後押ししたのが、金融ビッグバンなど銀行を含む金融業全体の規制緩和があったといえます。
(参考文献)奥野正寛『ミクロ経済学』、第2章、東京大学出版会、2008年。

2012年2月17日金曜日

コールオプションの売買高急増

大学時代、授業の課題でオプションの理論価格に関するレジメをまとめ、発表するという機会がありました。オプションの理論価格(プレミアム)を算出する公式で、有名なのはブラックショールズモデルです。しかし、私が発表したのは、このモデルを使用しない方法を用いてオプションのプレミアムを算出するものでした。その授業で使用された文献は、私の記憶違いがなければ、野口悠紀夫、藤井眞理子共著『金融工学-ポートフォリオ選択と派生資産の経済分析』(ダイヤモンド社、2000年)だったと思います。結果は、散々たるもので、2週間もかけて勉強し、30ページくらいのカラー刷りのプレゼンを準備したものの、内容を間違って理解し、人前でとんでもない恥をかくという結末でした。今でも、時々、金融工学の書籍を購入していますが、やはり私にとってはハードルが高い分野だと感じています。
2012年2月16日付日本経済新聞朝刊にオプション市場の近況に関する記事が掲載されていました。『「買う権利」売買高急増、日経平均オプション、日本株の先高観映す』という題目の記事で、日経平均の急上昇を受けて、日経平均オプションのコール(買う権利)の売買高が急増しているという内容です。先日、日銀によるさらなる金融緩和の決定が発表されました。この影響もあり、これは日経平均に対するヘッジが遅れていることに対応しているもので、特にコールオプションの売りを建てていた外国人投資家が、逆に買いを建てていることで売買高が増加しているとのことです。
コールオプションの買い建て、売り建てと言われてもよくわかりませんね。簡単ではありますが、図を用いて説明しましょう。下図は、コールオプションを買った場合と売った場合の損益を表しています。

まず、コールオプション買いです。コールオプション買いとは、ある行使価格にて日経平均を買う権利を購入することを意味します。その代わりに、権利に対する手数料、つまりプレミアムを、コールオプションを売ってくれた人に支払わなければなりません。結果、コールオプションの購入者は、日経平均が(行使価格+プレミアム)以上となった場合に上限のない利益を得ることになります。逆に、コールオプションの売りとは、コールオプションの購入者からプレミアム分の手数料を得る代わりに、コールオプションが行使された場合、その購入者に対して、(日経平均−行使価格)分の支払いが発生することを意味します。結果、コールオプションを売却した者は、日経平均が(行使価格+プレミアム)以上になった場合、上限のない損失が被ることになります。
実際に、2012年2月に入ってからのコールオプションの3月限月の行使価格別の終値(プレミアム)、売買高、建玉の推移をみてみます。右表は、それを示したものです。日経平均が9,000円を上回った2月8日以降、プレミアムが上昇するとともに、売買高、建玉が顕著に増加していることが読み取ることができます。特に、日経平均が208円27銭の大幅な上昇したを記録した日のプレミアムの上昇、売買高及び建玉の増加は目を見張るところがあります。
オプション価格には、株式の分析をする上で、重要な要素を包含しているという論文を読んだことがあります。長期間にわたり、詳しく分析すれば、市場参加者のポジションなどのデータがより正確に把握できるかもしれません。オプションは投機的なイメージが強いという反面、実需で購入している市場参加者にとってもリスクヘッジをする有力な手段となっているのが現実です。今の経済活動では、オプション等デリバティブの市場は必要不可欠な存在にまで成長しています。そして、その規模は、オプションでの価格が、逆に現物の株式市場を動かすまでになっています。

2012年2月16日木曜日

日本銀行のバランスシート

日本銀行が「脱デフレ」に向けた新たな追加緩和策を決定しました。これは、昨日の日本経済新聞朝刊のトップニュースでした。資産買い入れ基金を10兆円増やし、65兆円とすることが決まり、日銀による長期国債の買い入れ額は、これで年間で40兆円の規模まで拡大するとのことです。これを好感してか、昨日は、円ドル相場は円安へと向かい、日経平均株価は久しぶりに大幅に上昇しました。
 しかし、日本銀行による節操のないともいえる国債の買い取りがこのまま増加すれば、国民の共通資産である日本円の発行元である日本銀行の資産が毀損すると思い、早々日本銀行のバランスシートをチェックしてみました。ホームページには平成23年9月期の財務諸表等が掲載されていました。同じページに平成17 年9月期のものがありましたので、資産の部に着目し、2つの期のバランスシートを比較してみました。
 日銀のバランスシートをみて最初に驚いたのは、2つの期の勘定科目がやや異なっていることでした。直接比べることができませんので、それぞれを表にまとめてみました。右の表がホームページ掲載の資料をもとに作成した日本銀行の貸借対照表の資産の部です。この表で着目すべきは、資産の部合計が平成17年の148兆円から平成23年の137兆円へと減少していることです。日本銀行が積極的に金融緩和をしているのだから、資産の部合計は当然のごとく積み上がっていると思っていましたが、むしろ減少していることに驚きました。これは、日本銀行の主な負債勘定が発行銀行券79兆円、預金35兆円、売現先勘定17兆円(平成23年)などに限られており、日本銀行が意図するように増加させることができない勘定が大部分を占めているからです。特に、国債に関しては、今回初めて知ったのですが、日本銀行による買い入れは、日本銀行券の発行残高以内に収めなければないないという規定が定められているそうです。バランスシート上、国債の買い入れ不可能な額にまで達しており、これ以上の日銀による国債買い入れを通じた金融緩和できないのが実情です。
 そこで、さらなる買い入れ額の増加を狙って設立されたのが、資産買い入れ基金です。日銀による国債の買い入れを日銀のバランスシート外、つまり日銀の簿外で行えるようにし、発行銀行券残高以上の国債買い入れを可能にするという方法です。日本銀行にせよ、政府にせよ、かなり追い詰められているような気がします。ここで気になるのが、資産買い入れ基金の原資は一体何であるかということです。短期国債ではないかと思ったのですが、特定できませんでした。より詳細な資料等を入手する必要があります。

2012年2月15日水曜日

散髪をして感じたこと

私は、月に一度同じ理髪店で散髪をします。以前は会社の近くで散髪をしており、市中心部にあったことから一度の散髪代は3,200円でした。しかし、最近は、人口密度が低く、土地代の安い家の近所の理髪店で散髪をしています。一回の散髪代は2,500円で、クーポン券(前回の支払時に必ずもらえる)を利用すれば、2,300円まで値引いてくれます。2つの理髪店を比べた場合、髭剃りが家の近所の方がやや雑であるものの、所要時間が30分程度と短い上、待っている人が多い時は、いったん家に帰ってから、時間又は日を改めて、また理髪店へと赴くことができるなどのメリットがあります(家から歩いて1分もかかりません)。一方、会社の近所の理髪店は、待っている人が多い時は余りないのですが、待っている人がいれば、また後日ということになります。確かに、会社の近所の方の理髪店は髭剃りがとても気持ちいいです。丁寧に扱ってくれて、いつも寝てしまうくらいで、月に一度の楽しみと思っていたくらいです。
 散髪をしながら考えていることがあります。理髪店の従業員の労働生産性のことです。彼らにとって労働生産性の向上とは、散髪代を引き上げないとすれば、1人当たりの所要時間を減らし、単位時間当たりでより多くの人たちの散髪をすることを意味します。しかし、カリスマ理髪師がいない限り、拘束される時間すべてが埋まるには、訪れる顧客が少なく、空き時間が多くなるばかりであるのが理髪店の実情でしょう。従って、彼らにとって労働生産性を引き上げる手段は、散髪代の引き上げという選択肢しかないことになります(トニックやシャンプーのコストの削減も考えられますが、余り効果がなく、限界がある)。
 ならば、引き上げの代償として、利用者として得たいのはより多くの便益です。しかし、よっぱどのことがない限りは、散髪をした結果は結局同じです。髪の毛が短くなり、髭を剃ってくれて気持ちよかった点で、3,200円の理髪店も、2,300円の理髪店も大差はないと思います。結果、私は、2,300円の理髪店へいくことを選択しました。厳しい世の中ですね。
ここで一つの仮定を考えましょう。2,300円で散髪をしてくれていた家の近所の理髪店が、髭剃りを丁寧にしてくれるという条件で、値段を3,000円へと引き上げをしたとします。この値段の引き上げは、統計上、どのように現れてくるのでしょうか。いくら髭剃りを丁寧にしたからといっても、残念ながら散髪は散髪に過ぎません。つまり、労働生産性を高めようと思って散髪代を引き上げたとしても、それは労働生産性の向上ではなく、物価の上昇としか捉えることができないのです。ここにサービス産業に悲哀があります。そして、散髪代の引き上げは、利用者数の減少へとつながり、理髪店の収入は逆に減少する可能性もあります。事実、家から5分程度歩いたところには、1,000円で散髪をしてくれる理髪店があります。この価格帯を提示する理髪店は洗髪をしないケースが多いですが、価格差を考えれば1,000円の方を選択する可能性が十分にあるでしょう。
 上図は、産業別の税込現金給与の比較を示したものです。グラフからは、建設業以外の業種で2005年から2010年にかけて給与が減少していること、金融・保険業を除き、サービス産業は製造業と比べて給与水準が総じて低いことなどが読み取れます。脱工業化と叫ばれ、わが国では第三次産業へと労働のシフトが進んで久しい。国内産業のサービス化という非可逆的な流れの中で、これらサービス業の雇用を維持した上で、労働生産性をいかに高めるかが、デフレから脱却するための課題だと思います。

2012年2月14日火曜日

ファナックの近況

2012年1月31日付ブログ『EMS、ODMとは』にて、ファナックに関して少しばかり記述しました。大手EMSであるフォックスコンが、フッナックに信じられないロットで工作機械を発注しているというものです。ファナックの近況がわかる記事が、2012年2月12日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので、早速引用します。題目は『ファナック、国内新工場、スマートフォン用、工作機械を倍増』です。以下引用文。
 『ファナックは国内で工作機械の大幅増産に乗り出す。茨城県筑西市の拠点に新工場を建設、年内生産能力を現在の2倍の月5千台に増強する。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)市場の拡大を受け、主要部品を造る工作機械の需要が急増しているのに対応する。出荷先の大半は海外だが、円高下でも国内集中で量産効果を追求する方が価格競争力を高められると判断した』
この記事は、増産する対象の工作機械が「ロボドリル」であり、金属の塊からスマホのフレームなどを削り出すのに使用すること、同社は数値制御(NC)装置を内製している強みもあり、ライバルの韓国、台湾企業よりも高い競争力を有していることなどを記述しています。そして、主要な顧客である中国や東南アジアのEMS(電子機器の受託製造サービス)の仕様変更などの要請にも対応できるのは、研究開発部門との連携を強化、国内への集中立地が逆に強みとなっているからだと説明しています。
 工作機械を製造するメーカーは、ここのところの円高のマイナス面を吹き飛ばし、国際競争力を依然として維持していることが伺えます。タイ洪水の特需もあって、総じて工作機械メーカーの業績はいいようです。右図は、鉱工業生産指数と一般機械の生産指数の推移を表したものです。2008年9月のリーマンショック以降の一般機械の生産の落ち込みが、鉱工業生産指数を大きく上回る水準であったことがわかります。逆に2009年4月の52.8ポイント(2005年=100)を底に急回復していることも図から読み取ることができます。これは、一般機械そのもののが輸出依存度が高く、リーマンショックという外需減少による影響が大きいことを示しています。円高という逆風が続く中、国際競争力を維持できている業種が徐々に減ってきていますが、この逆境の中でも、着実に業績を伸ばしているファナックなどの企業が日本にはまだまだあることに勇気付けられますね。

2012年2月13日月曜日

レアアースとは何

金属には色々な種類があります。最も身近な存在は「鉄」でしょう。ですが、歴史上でもっとも早くから普及した金属は、銅を主成分とし、錫を混ぜた合金である「青銅」でした。青銅の後に鉄が現れ、文明の発展には不可欠な金属となりました。私の記憶では確か、鉄器を持ったヒッタイトがエジプトを征服したということを、歴史の教科書で学んだ気がします。鉄が文明の中心となり、今でも鉄なくして現代の工業社会は考えらないでしょう。こうした中で、最近気になる新たな金属、レアアースという言葉が新聞、雑誌のみならずニュース番組でも特集が組まれています。ここで、レアアースとは何かという疑問が生じましたので、ちょっと調べてみました。
 まず、金属は大まかにコモンメタル(ベースメタル)とレアメタルに分かれるそうです。コモンメタルには、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、水銀、鉛、アルミニウムの9種類があり、資源量が豊富であり、採掘・精錬が容易で産業のベースをなす金属です。一方、レアメタルには47種類(文献によれば48種類)の金属が該当し、以下の3つの特徴のうち一つでも合致すればレアメタルに該当するとのことです。

  1. 地殻中での存在量が少ない。
  2. 産出箇所が特定の地域に集中している。
  3. 分離・精錬が困難である。

 代表的なレアメタルには、マンガン、クロム、タングステン、モリブデン、アンチモン、コバルト、バナジウムなどの金属があります。以下は、上記レアメタルの生産量、埋蔵量のシェアと用途を表した表です。
中国と南アフリカ共和国が多いのと、政情不安定なコンゴ民主共和国が生産量、埋蔵量で大きなシェアを占めているのが特徴で、少なくとも上記の2.の条件を満たしているといえるでしょう。これ以外のレアメタルで、3族元素(注1)のうち最下部のアクチノイド元素を除いたもの、17種類の金属をレアアース又は希土類金属と呼びます。レアアースの一覧と用途は以下の表の通りです。
この表にある金属の中で、ネオジム、ジスプロシウムなどが磁石、磁性材料の材料に使用され、ハイブッリドカーや電気自動車のモーターやハードディスクドライブ(注2)などの重要な部品に使用されています。特に、最近では磁力が強いということでネオジム磁石(注3)がよく知られるようになってきました。レアアースは、世界各地に存在するものの、中国のレアアースが最も生産に適している状態で存在することから、価格競争力を背景に、、米国、オーストラリアなどの鉱山が相次ぎ閉山に追い込まれ、中国がほぼ独占する事態となっています。つまり、レアメタルの条件である2.と3.に該当する金属こそレアアースなのです。
右図はレアアース生産量の国別シェアを表したものです。中国のシェアが96.7%にも達しています。この状況で、環境破壊を理由(注4)に、中国はレアアースの輸出を制限、日本の製造業が慌てているのです。
2012年1月24日付日本経済新聞朝刊にレアアースに関する記事がありましたので引用します。タイトルは『信越化学、ベトナムに拠点、レアアース加工、初の海外工場』です。以下引用文。
『信越化学工業はハイブリッド車(HV)のモーターなどに使うレアアース(希土類)の加工拠点をベトナムに新設する。2013年2月に稼働し、使用済み磁石や鉱石からレアアースを分離・精錬する。レアアース磁石で世界シェア2位の同社は原料となるレアアースの大半を中国に依存しているが、自前の加工拠点を増やして調達リスクの軽減や磁石の安定供給を目指す』
以上の通り、レアアース磁石の生産をする企業が中国の輸出制限に対応する努力を進めているようです。一方で、レアアースを使用しないモーターの開発も進んでいます。2012年1月11日付日本経済新聞朝刊に『レアアース不要の車モーター、日本電産が量産へ』という記事が掲載されていました。以下引用文。
『日本電産は10日、レアアース(希土類)を使わない次世代モーター「SRモーター」を、電気自動車(EV)やハイブリッド車の駆動用として量産する方針を明らかにした。2013年にも国内外の自動車メーカーに供給する。レアアースの価格高騰に対応し、代替技術の投入で自動車市場の開拓を加速する。(中略)
SRモーターはレアアースを使った永久磁石を使わず、軸の周囲の電気の流れを切り替えて回転させる仕組み。構造が単純で発熱が少ないうえ、低コストで量産できるのが特徴。ただ電流の制御が難しく、振動や騒音が大きい欠点があり、自動車向けの実用化が難しかった』
トヨタ自動車でも、レアアースを使用しないハイブッリドカーもしくは電気自動車の開発をしているようです。自動車の国内生産が低迷する中で、今こそ日本の自動車メーカーの技術力が試されるところです。この技術が開発されれば、バイブリッド車のみならず、電気自動車の分野でも主導権を握ることができるでしょう。
(参考文献)齋藤勝裕『レアメタルのふしぎ』、SoftBank Creative、2009年。
(注1)元素の周期表の左から3列目にある元素。
(注2)ハードディスクの記録メディアを回転するためのスピンドルモーター、磁気ヘッド駆動用VCM(ボイスコイルモーター)などに希土類磁石が使用されている。
(注3)ネオジム磁石とは、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする希土類(レアアース)磁石で、ジスプロシウムを添加すると保磁力が向上する。
(注4)レアアースの副産物として放射性物質であるトリウムが産出されるためなど。

2012年2月12日日曜日

トランス脂肪酸に課税

わが国でも、やっと消費税率に引き上げに関する積極的な議論が国会等でされるようになりました。しかし、税率引き上げには、国民の支持を不可欠です。そのためには無駄な支出を徹底的に洗い直し、これ以上の無理だという水準にまで経費・人件費の削減を進めることがどうしても必要です。今日は、消費税率が高いとして知られているデンマークの消費税(注1)に関して、面白い記事がありましたので引用します。引用もとは『週刊エコノミスト』2012.1.31号で、記事のタイトルは『デンマーク、相次ぐ増税も反対なく、信用喪失に危機感共有』です。以下引用文。
『デンマークで昨年10月、バターや牛乳など飽和脂肪酸を含む食品に課す世界で初の「脂肪税」が導入された。また、今年1月からはチョコレートやアイスクリーム、ビールやワインなど砂糖やアルコールを含む食品も税率を引き上げだ。高福祉・高負担の国として知られるデンマークは、消費税率が25%と欧州各国のなかで最も高く、食料品への軽減税率もない。欧州経済が悪化するなかで相次いださらなる増税。しかし、反対運動はほとんど起きていないのが特徴だ。
その理由の1つは、「国民健康増進」という大義名分。飽和脂肪酸は過剰接種すれば動脈硬化などを引き起こすといわれ、医療費の抑制も狙いとする。また、増税が小幅なのも国民の負担感を少なくしている。脂肪税では飽和脂肪酸1キロ当たり16デンマーククローネ(約210円)で、例えばバター(250g)の価格は15.5クローネ(約205円)から18.1クローネ(約240円)に引き上げられる計算だ。
そして、何より財政赤字解消への理解が広がっていることが大きい。デンマークは人口約550万人の小国で、欧州共通通貨ユーロにも加盟していない。一方、昨年の財政赤字は対国内総生産比3.8%の670億クローネ(8,840億円)で、12年は950億クローネへ拡大すると見込まれる。国の信用を失うことの危機感を共有し、工夫して税収増への努力を重ねるデンマーク。他国が学ぶべき点は多そうだ(岩本達弘・JETROコペンハーゲン事務所長)』
右のグラフは、各国の付加価値税率(又は消費税率)を比較したものです。デンマークとスウェーデンの税率は25%と最も高い水準にありますが、ギリシャやイタリアなど財政問題が危機化している国々の税率も高いことが特徴的です。やはりデンマークという国は凄いですね。風力発電の導入にいち早く取り組み、エコの先進国ともいわれる同国。以前は日本がその地位にいたのですが、完全に抜かれてしまいました。消費税のあり方、財政のあり方、そしてエネルギーのあり方を議論するに当たってはデンマークから学ぶべき点は多そうです。
また、最近問題となっているトランス脂肪酸に関してもデンマークは先進国です。日本は特段の規制はありませんが、デンマークでは2003年に食品中のトランス脂肪酸の量を全脂質の2%までとする罰則規定のある行政命令を制定し、2004年より施行されています。ここで、トランス脂肪酸に関する記述がありましたので引用します。ポーラン(2009)(注2)は、著書の中でトランス脂肪酸の危険性を指摘している。以下引用文。
 『コーン油は料理用のサラダ油のオイルとして利用されるか、あるいは水素添加されたマーガリンや加工食品に使われる。水素添加とは、脂肪を室温で個体に保てるよう、水素原子の脂肪分子に付加することだ(もともとは動物脂肪の健康的な代用品としてつくられたが、現在、医療研究者は、このトランス脂肪酸はバターより動脈に悪影響を及ぼすと考えている)』
この文章を読んでから、わが家ではトランス脂肪酸の含まれていないマーガリンを使用するようになりました(注3)。健康と思って、マーガリンを使用していましたが、バターの方が健康に悪くないというのは本当に驚きでした。
(注1)日本では消費税と呼ばれるが、海外では付加価値税がそれに当たる。税の負担が付加価値ベースでなされることで相違するものの、最終的には消費者が負担するという意味でほぼ同様な税。
(注2)マイケル・ポーラン『雑食動物のジレンマ』第5章、ラッセン秀子訳、東洋経済新報社、2009年。
(注3)小岩井農場のホームページにトランス脂肪酸に関する記述あり。それによるとそもそも日本人は、欧米人と比べてトランス脂肪酸の摂取量が少ないとのことです。

2012年2月11日土曜日

EU圏の財政事情

EU統計局が四半期別の債務データの公表を始めました。今回公表されたのは2011年9月末(第3四半期)のもので、早速、ユーロ統計局のホームページにアクセス、データをチェックしてみました。
 右表は、EU加盟主要8ヵ国のGDPに対する債務残高の比率を示したものです。第1四半期との比較では、表中の8ヵ国全ての国で上昇しているのに対して、第2四半期との比較では国によって差が出ています。ドイツ、フランス、イタリアの3ヵ国で低下がみられる一方で、スペインが変わらなかったものの、ギリシャ、ポルトガル、アイルランド、イギリスが上昇していることがわかります。特にギリシャが4.4%、ポルトガルが3.6%、アイルランドが2.6%それぞれ上昇するなど、既に債務残高の比率が100%を上回っている国々において、財政状況のさらなる悪化が確認される結果となっています。しかし、幸いなのは、EU加盟国の中で第4 位(2009年時点)、ユーロ加盟国の中で3位の経済規模を有するイタリアに改善傾向がみられるのは明るいニュースです。
今後、発表される第4四半期のデータでは、ギリシャの債務削減交渉の結果が反映されること、ポルトガル等などで債務削減を積極的に進める方向で動いていることを勘案すれば、さらに低下する可能性があり、ユーロ債務危機は山を越したのように思われます。それを反映しているかどうからわかりませんが、株式相場はここのところ堅調に推移しており、ユーロ相場も上昇傾向にあります。
 ユーロ圏の失業率が2011年12月の失業率が10.4%と高止まりしているなど、しばらくの間は予断は許さないものの、同年12月の米国の失業率が8.3%と前月比0.2%低下したこと、NYダウ平均がリーマンショック以前の水準にまで回復したことなど米国経済に明るい兆しがみてえてきています。旺盛な新興国の経済成長も引き続き期待できることから、ユーロ債務危機はやや底がみえた感はあります。

2012年2月10日金曜日

米国の賃金は高いのか

2011年12月24日付けのブログ『外貨建て資産の投資タイミング』で中で、米国の物価水準について簡単に記述しました。そのブログでは、時給8ドルで働いている労働者のことついて書きましたが、余りに低すぎるため、これはパートタイムなど非正規労働の賃金水準であると考えています。
 そこで、米国における労働者の賃金はどの程度の水準なのかを調べてみました。米国労働省労働統計局発表の資料では、2011年9月時点における週平均賃金(民間非農業)は654.86ドルだそうです。これを現在の円ドル相場1ドル=77円で日本円換算すると、米国の労働者は週に50,424円の賃金をもらっていることとなります。日本の労働条件とは異なるため直接比べることはできませんが、仮に週40時間労働(注1)として時給を計算すると時給1,260円に相当します。米国におけるボーナス制度はケースバイケースとのことで、中間層以上で業績のいい人々のみ分厚く支給されるという話も聞いたことがあります。これが事実ならば、米国人の一般的な労働者は、時給1,260円、週給50,424円、月収218,335円(1月を4.33週にて計算)のみ受け取ることになります。
 一方、厚生労働省発表の税込み現金給与は、わが国の所定現金内給与が244,688円で、所定外(注2)、特別給与(注3)を含めて317,160円となります。残業手当、ボーナスを含めず、所定内給与だけでも米国の水準を上回っていることがわかります。浜(2011)は『筆者は以前から、「円ドル関係は1ドル50円が妥当」と考えていたが、震災後も、その思いはは変わらない。日本がどうあれ、ドルをとりまく状況がまったく変化していないからだ』と述べている。仮に1ドル=50円となり、上記の条件で算出するれば、米国の労働者の月収は141,800円となります。米国はインフレ傾向にあることを踏まえても1ドル=50円は高すぎるのではないでしょうか。
 上図は、2002年〜2011年の米国の週平均賃金を推移を表したものです。米国のインフレ傾向の賃金、つまり右肩上がりの賃金が米ドルベースでははっきりと現れています。一方、円相場で換算した賃金は、2007年をピークに急落しています。これは円高が、米国の賃金上昇を上回るペースで進んだことを意味します。ここで、2012年1月26日付日本経済新聞朝刊のオバマ米大統領の一般教書演説に関する記事を引用します。記事の題目は『一般教書演説、米製造業復活へ税優遇』です。以下引用文。
 『【ニューヨーク=小川義也】オバマ米大統領は24日の一般教書演説で米製造業の復活を目指す姿勢を鮮明にした。雇用拡大やハイテク企業の国内回帰を促す優遇税制導入などが柱。米製造業に人件費やエネルギーコストの低下といった追い風が吹く中、強力な支援策となる可能性がある。(中略)
 製造拠点として米国が見直されている理由の一つは、人件費の低下だ。米ボストンコンサルティング・グループは、賃金上昇が続く中国のコストと、金融危機を経て賃金水準が切り下がった米南部のコストは、15年に生産性などを含めた実質的な値で並ぶとみる』
これは、日本との比較ではありません。世界の工場である中国の労働コストと米国の労働コストがほぼ同水準になることを示しています。円相場が高すぎるのか、日本の賃金が高すぎるのか分かりませんが、賃金の切り下げ又は円安へと向かわない限り日本の製造業はコスト面から国際競争力を失う可能性があります。
(参考文献)浜矩子『「通貨」を知れば世界が読める』、p5、PHPビジネス新書、2011年。
(注1)週40時間で計算したのは、日本の労働基準法に基づくもの。『使用者は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません』に従ったもの。
(注2)いわゆる残業手当。
(注3)年末等に支給されるボーナスは特別給与に含まれる。

2012年2月9日木曜日

トヨタの業績予想

貿易黒字国の特徴に、石油など天然資源に恵まれているほかに、国内に強力な自動車産業を有するケースが多い。ドイツ、韓国、それに日本などが該当します。家電製品が既に輸入超過になっていることを考えれば、わが国が引き続き貿易黒字や経常収支の黒字を維持するためには、自動車産業の国際競争力の維持は不可欠でしょう。これからは、電力危機のさなか、海外から天然ガスを中心とした化石燃料の輸入増加が予想されることから、自動車メーカーの復権が期待されるところです。
 右図は日本の品目別輸出額を示したものです。自動車の輸出額は、2007年の14兆3000億円をピークに、2009年には6兆7000億円まで減少、輸出総額に占める割合も17.1%から12.4%にまで低下しています。これはリーマンショックを受け世界需要の減少に起因するものです。翌年の2010年には本格的な回復が期待されたのですが、9兆1000億円まで増加したしたものの、サプライチェーンの混乱もあり、メーカーが当初予想したよりも低い水準にとどまりました。こうしてグラフをみていると、日本の輸出の中心は一般機械や電機機械であることがわかります。2012年1月31日付のブログで書きましたフォックスコンは、米アップル社から委託された製品を製造するため、ファナックから信じられないロットで高級な製造用機械を注文したとのことです。まだまだ競争力のある企業が日本にはあると思いました。
こうした中で、トヨタ自動車は、来年の世界販売台数を過去最高の958万台(ダイハツ工業、日野自動車を含む)とする計画を発表しました。これは、09年に記録した937万台を上回る水準であり、成長が続く新興国などでの販売拡大を見込んでいるようです(2012年2月4日付日本経済新聞社朝刊)。トヨタ自動車の意欲的な計画に勇気づけられます。
 右図は、2010年、2011年の世界の大手自動車メーカーの新車販売台数の推移を示したものです。日産自動車・ルノーの日仏連合以外のトヨタ自動車、ホンダ、ススギなどの日系メーカーが軒並み販売台数を前年の2010年より減少させていることがわかります。これは、震災ショック、タイの大洪水という2つの災害の打撃が大きいといえます。日系の自動車メーカーが低迷する中で、大幅に販売台数を伸ばしているのが、フォルクスワーゲン(独)と現代自動車(韓国)です。両社ともに15%前後の伸び率を記録しています。日本メーカーの生産が滞ったこと、通貨安の恩恵があったことなどが要因として考えられます。
今年は、タイの工場が復旧すること、米国経済がやや持ち直していること、円相場がこれ以上の円高方向へと向かいにくいことから、日系の自動車メーカーの持ち直しが予想されます。

2012年2月8日水曜日

拡大するM&A

円高を背景に大型のM&Aが相次いでいる。2012年12月29日付日本経済新聞朝刊に、2011年の日本企業による海外企業の買収が相次いでいる旨の記事がありました。規模順に抜粋するだけでも、武田薬品工業によるナイコメッド(スイス製薬、金額1兆1086億円)、三菱商事によるアングロ・アメリカン・スチール(チリ銅山、同2050億円)、キリンHDによるスキンカリオール(ブラジル・ビール、同3038億円)などの海外企業の買収があったとのことです。円高の中、海外企業は割安となっていますので、今こそがチャンスだと思っていますので、この流れは歓迎すべきでしょう。そして、この国内企業の買収劇により円高が抑制されているのではないかとのこと別の記事で指摘されていました。
 ならば、この国内企業による海外企業の買収は、国際収支統計の中でどの部分に現れてくるのかが気になるところです。財務省のホームページに「国際収支Q&A」がありましたので、その部分を引用します。以下引用文。
(1)「投資収支」とはなんなんですか。
投資収支は居住者と非居住者との間で行われた金融資産負債の取引を計上する項目であり、「直接投資」「証券投資」「金融派生商品」「その他投資」から構成されます』
以上の記述から、直接投資は国際収支統計の投資収支に現れていることとなります。そして、直接投資に関するものもありましたので、引き続き引用します。以下引用文。
(a)「直接投資」とはなんなんですか。
直接投資とは、ある国の投資家が、他の国にある企業に対して永続的な経済関係を樹立することを目的に投資するもので、直接投資関係(出資割合10%以上)を設立する当初の取引(株式等の取得)及び、その後の直接投資家と直接投資先の企業間で行われる全ての取引(増資、資金の貸借)が計上されます。
また、直接投資における「資産」と「負債」の区分は、直接投資家の居住性によってなされており、直接投資家が居住者である場合は、「対外直接投資(資産)」、非居住者である場合は、「対内直接投資(負債)」に計上されます。このように区分した上で、投下資本の形態により、「株式資本」(直接投資企業の株式や支店の出資持ち分の取得等を計上します。)、「再投資収益」(直接投資企業に留保された未配分収益のことをいい、一旦直接投資家に配分されたあとに、その直接投資家によって再び資本投下されたものとして計上します。)、「その他資本」(「株式資本」と「再投資収益」以外を指します。居住者(非居住者)による海外(国内)不動産の取得・処分などが含まれます。)に区分しています』
以上の記述で、直接投資というものの定義がよくわかりますね。投資収支には、「直接投資」以外に「証券投資」「金融派生商品」「その他投資」がありますが、データを見つけることができませんでしたので、直接投資と大きな乖離はなく、トレンドは概ね一致していると思われる投資収支と経常収支の推移を表したグラフを作成してみました。
図表(注1)から、2003年、2004年の例外を除き、経常収支と投資収支を一致した動きを示しています。企業が直接投資を行ったことにより、円高を抑制することができたという論調が同日の日本経済新聞朝刊のコラムにありました。しかし、投資収支が資産・負債の貸借取引であることから、為替に対してはニュートラルではないかという疑問が残ります(私はやはり経常収支の黒字こそが円高の要因であると思っていますので)。私の勉強不足もありますので、これ以上の言及は避けます。もっとも、グラフを作成して初めて分かったのですが、2003年と2004年の投資収支の黒字化(グラフではマイナス)(注2)の原因が気になりますね。特別な要因があったと考えられますが、資料不足でわかりません。趨勢的に円高が進んでいることから直接投資のトレンドに大きい変動がないとすれば、証券投資等で何か大きな出来事があったのかもしれません。
(注1)わが国の場合、通常、投資収支は赤字であり、経常収支との比較を考慮し、投資収支の赤字を黒字に置き換えてグラフ上表記しています。
(注2)このデータについては、『経済財政白書2011年版』、『日本経済2011-2012』(ミニ白書)の両方にてチェックしました。

2012年2月7日火曜日

2012年の日経平均株価

株価は、企業収益の連動する形で市場に形成するだろう。特別の要因がなければ、業績の良い企業の株式は高くなるだろうし、逆に業績の悪い企業株価は安くなるであろう。企業の業績を示す統計として代表的な統計に法人企業統計調査があります。この統計の対象となる企業の基準や概要について簡潔に説明した記述が財務省のホームページにありましたので引用します。以下引用文。
『法人企業統計調査は、わが国における営利法人等の企業活動の実態を把握するため、標本調査として実施されている統計法に基づく基幹統計調査です。
本調査には、営利法人等を調査対象としたその年度における確定決算の計数を調査する「年次別調査」(昭和23年調査開始)と、資本金、出資金又は基金1,000万円以上の営利法人等を調査対象とした四半期ごとに仮決算計数を調査する「四半期別調査」(昭和25年1月〜3月期調査開始)があり、全国の財務局及び財務事務所等を通じて調査票を郵送し、自計記入を依頼する方法により調査を行っています。平成15年度調査からはオンラインによる提出も可能となっています。
なお、平成20年度調査から「金融業、保険業」を調査対象に含めることになりました』
以上が法人企業統計調査の概要です。詳しくは財務省のホームページをみてください。そして、『週刊東洋経済』2012.1.14号に企業収益の増加を背景に日経平均が1万1,000円台となる予測をしている記事がありしまたので引用します。記事の題目は『12年は企業業績が回復し日経平均は1万1,000円へ』(注1)です。以下引用文。
『2011年の日経平均株価は東日本大震災後に8,000円台に急落。夏場に1万円台に回復したが、再び反落し、8,000円台の安値でもみ合う展開が続いた。
市場のコンセンサスでは、12年3月期の上場企業の業績見通しは前期比2ケタ減益と予想される。一方で13年3月期は同3割増益が見込まれる。こうした業績回復が下支え要因となり、12年の日経平均は8,000円を底値に、1万1,000円の上値を目指す展開となるとみている』
この背景には、①円高傾向の一服感、②米国景気の復調、③欧州債務危機の深刻化の回避の3つの要因があるとしている。①の円高については、QE2が実施された後、ドルが大量供給されたことで、市場でインフレ懸念を生じ、金利が上昇したという実情がある。米国金利の上昇は円ドル金利差の拡大を生むため、QE3が実施されたとしても円高を見込みにくいということです。②の米国経済の回復は、米国の2つのアキレス腱である雇用と住宅に改善がみられることです。雇用関連では新規の失業保険申請件数がリーマンショック前の水準にまで戻ったこと、住宅関連では低金利と住宅価格の下落が後押しして住宅着工件数、住宅価格指数などの指標も底を打ったとしている。③のユーロ債務危機では、ドイツのPMI(購買担当者指数)などが予想を上回るなど景況感が底堅いこと、イタリアのプライマリーバランスが黒字であり、財政危機に陥る可能性は低いこと、仮に債務危機が深刻化したとしても日本経済への影響は限定的であることを理由に上げている。①②③とも日本企業の収益にはプラスに寄与する要因です。もっとも、③についてはやや疑問を持っています。ユーロ高により企業収益の減少を指摘するものや、ユーロ危機が中国へと波及し、日本企業の輸出を減少させるという記事もあります。先日もユーロ加盟国の国債格付けの引き下げがあったばかりです。ユーロ債務危機はどちらに転ぶかわかりませんので、要注意だと考えています。
 株価の予想とは、あくまで予想ですので、はずれてる可能性も十分にあります。逆に日本の株価が底割れする可能性だってあります。もっとも、私自身は、楽観的にみています。下のグラフは、法人企業統計と日経平均株価の推移を表しています。確かに、企業の利益と株価は連動しているようにみえますし、今後増益が見込まれるのならば、年末にかけて株価は上昇するのではないでしょうか。震災ショックとタイの洪水に円高というトリプルパンチを受けたのが昨年です。これ以上のショックはないでしょう。残念ながら円高により企業の海外進出は拍車がかかり、国内の空洞化が進むかもしれませんが、海外へと進出し、さらなる国際競争を身に付けることができれば、企業収益は増加すると思います。とにかく、日本、日本国民、そして日本企業にとって昨年が厳しすぎましたね。

(注1)広木隆(マネックス証券、チーフ・ストラテジスト)。

2012年2月6日月曜日

欧州銀の負の影響

欧州の銀行が好調なアジア経済にマイナスのと影響を与えようとしています。日本の銀行は、主に調達した預金を元手に、融資や証券等に資金を融通し、利益を得ています。それに対して、欧州の銀行は、預金ではなく、債券、CPの発行や銀行間の取引ににより資金を調達している割合が高いことに特徴があります。Bloombergの資料(注)によれば、欧州の銀行の預金依存度で50%を下回っているのは、コメルツ銀行(独)、クレディ・アグリコル(仏)、バークレイズ(英)、ソシエテ・ジェネラル(仏)、BNPパリバ(仏)などがあり、日本でもその名が知られる銀行ばかりです。昨年、倒産したデクシア(ベルギー)に至っては30%を下回っていたようです。内閣府『世界経済の潮流2011年下半期世界経済報告』にデクシアに関する記述がありましたので引用します。以下引用文。
『こうした中、11年10月にフランス・ベルギー系の銀行デクシアが実質破綻に追い込まれた。デクシアは南欧諸国等向けの与信を多く抱えているが、11年7月に行われたEU金融機関に対するストレステストには合格していた。しかも、景気悪化シナリオ下でもTier1比率が10.4%と合格基準(5%)を大きく上回っていた。それにも関わらず破たんしたのは、資金調達環境が急速に厳しくなったからであるとみられる。デクシアの資金調達構造をみると、他行と比べて預金への依存度が低い。デクシアは短期で資金調達して長期貸出に回していた模様だが、インターバンク市場環境等の急激な悪化により資金調達が出来なくなったと考えられる』
日本の銀行でも経営破綻はあり得ない話ではありませんが、直前のストレステストを余裕でクリアしていた銀行がいきなり破綻ということはレアケースであると思います。どちらかといえば、悪い噂が一般市民の間にも流れており、他行と比べて定期預金等に高い金利を提示している銀行がつぶれたケースはあります。やはり預金の依存度が低い銀行は、いざという時の資金調達ができないため、市場に混乱がある時期はバランスシート以上のリスクを抱えていることを示しています。
ここで、小額ですが、私もユーロ建て外貨MMFを持っており、運用先が気になりましたので調べてみることにします。右表が某証券会社の目論書に掲載されているユーロMMFの投資先のリストです。上記の記述した預金比率の低い銀行であるバークレイズ、ソシエテ・ジェネラル、BNPパリバなどが登場していますので驚きました。投資比率は最大でEDF(フランス電力公社)の5%強ですが、ほかの運用先は4%前後となっています。以前、米国の電力関連企業であるエンロン社が倒産した際、比較的安全だとされているMMFが損失を抱え、元本割れの可能性が出たことがあります。この表をみると、いくらMMFといえどもリスク商品であることを痛感させてくれます。先日、2012年1月24日付日本経済新聞朝刊に欧州の銀行のリスクがアジア経済に与える記事が掲載されていましたので引用します。題目は『欧州銀リスク、アジアに影、融資や債券投資残高120兆円』です。以下引用文。
『欧州債務危機の余波が世界経済をけん引しているアジア経済を下押しする懸念が出ている。欧州銀行の融資や債券投資に占めるアジア新興国の比率は高いうえ、アジア新興国の輸出額に占める対欧輸出比率は1割を超える。年明けの市場では緊張が和らいでいるが、自己資本増強を迫られる欧州銀の資産圧縮などで再び危機が表面化すればカネとモノの両面でアジアに波及するリスクは残る。
国際決済銀行(BIS)のデータから、国際金融における欧州銀の存在感を計算してみた。世界全体の国境を越えた与信残高(融資と債券保有の合計、昨年6月末)は32兆ドル(約2,500兆円)を超え、6割にあたる19兆ドルは欧州銀だ。ほぼ欧州連合(EU)圏と重なる欧州先進国向けが10兆ドル弱を占める』
これは、欧州の銀行が自己資本比率を高めるため、資産圧縮を積極化すれば、欧州に依存しているアジアや南欧諸国は資金面でタイトとなることを示しています。結果、金利上昇などをもたらし、経済成長が抑制される懸念があります。右図は、国外・域外からの与信に占める欧州銀の割合を示したものです。アジア諸国ばかりでなく、ロシア、ブラジル、インドなどBRICs諸国も欧州銀に依存していることがわかります。同様に日本も欧州銀行から与信の割合は40%と決して低くはなく、わが国の株式市場が構造的に外国投資家の動向に左右されることを踏まえれば、日本への影響も否定できないでしょう。ここへきて米国経済がやや回復の兆しがでているものの、ドル安による輸出回復が成長要因に含まれています。つまり、今の米国には世界経済のけん引するまでの力は欠けているようです。従って、欧州銀の不安定化により比較的順調な推移していたアジアを中心とした新興国の経済が失速すれば、世界経済にかなりのダメージを与えることが予想されます。
(注)内閣府『世界経済の潮流2011年下半期世界経済報告』、pp106-109、2011年。

2012年2月5日日曜日

米国が天然ガス輸出国に

最近、在来型天然ガス、非在来型天然ガスなどという言葉をよく耳にします。在来型天然ガスとは中東やロシアに豊富な埋蔵量がある、いわゆる天然ガスのことで、地下に穴を開けた状態で自然に地上へと吹き出してくるタイプの天然ガスを指します。一方、非在来型天然ガスとは、シェールガスに代表される、昨今の技術な進歩で採掘が可能になった天然ガスのことを指し、シェールガスのほか、タイトガス、コールベットメタンなどがあります。在来型天然ガスが、石油採掘でいう「油井」に近い(注1)もので採掘されるのに対して、シェールガスの採掘には、『岩石内の流れやすさを改善するため、岩石中に沿って穴を通したり(「水平坑井」という技術)、人工的に割れ目を作ったり(「水圧破砕」という技術)しなければないない』(井原)など高い技術が求められます。この非在来型天然ガスが開発可能になったことで、米国におけるエネルギー資源の海外依存度が劇的に低下するなど、米国の世界戦略を左右するまでになっています。
 2012年1月25日付日本経済新聞朝刊に米国のエネルギー事情に関する記事が掲載されていましたので引用させていただきます。題名は『米、エネルギー自給進む。シェールガス増産、沖合油田開発』です。以下引用文。
 『【ワシントン=御調昌邦】米国のエネルギー対外依存度が低下している。新型天然ガス「シェールガス」やメキシコ湾の沖合油田開発が進み、消費エネルギーに占める輸入の割合は2010年の22%から35年には13%に低下する見通し。新たな技術の実用化などで、これまで採掘が難しかった鉱区での開発が可能になることが背景。オバマ政権は豊富な埋蔵量を背景にエネルギー安全保障を強めており、対イラン制裁などで強気の姿勢をとる原動力になっている
 米国は、自国の資源獲得のためには戦争までします。エネルギー政策は国家安全保障のキモであり、米国の世界戦略を強く反映します。米国では原油生産が、1986年から減り始めていたが、2008年から上向き、日量550万バレルの生産しているそうです。2020年には日量670万バレルまで増加、この背景にはメキシコ湾沖合での原油生産増加があるとしています。確かに、この沖合での原油生産は、ブラジルでも進んでおり、ブラジル経済の成長に寄与しており、他国でも生産が期待されている分野といえます。
 これに加えて、上述のシェールガスの生産が好調で、10年には国内生産量の23%を占めるに至っている。そして、35年には49%にまで上昇すると見込んでおり、21年には天然ガスの純輸出国になることが予想されているそうです。
 図はシェールガスの回収可能量の国別シェアを示したものです。シェールガスの技術的回収可能量は合計で6,622兆立方フィートで、2009年の在来型天然ガスの確認埋蔵量6,400兆立方フィートとほぼ同水準に達している。因に、2008年の世界の天然ガス消費量は106兆立方フィート(日本は3.3兆立方フィート)ですので、両者を合わせてざっと年間消費量の100年分以上の資源量あることになります(注2)。原子力政策が頓挫しており、今後、天然ガスの依存度を高める必要があるわが国にとって、これは朗報だといえます。確かに、米国でのシェールガス生産の拡大は、中東からの天然ガス輸入を減らし、結果としてその分がヨーロッパへと回ったという記事を読んだことがあります。この影響で天然ガスの価格が下がっているそうです。
 残念ながら、わが国にはシェールガスがないようです。でも太平洋側沖合に存在するメタンハイドレードの採掘技術の開発に力を入れており、近い将来、日本も天然ガスの純輸出国になるかもしれませんね。
(注1)天然ガス採掘に使われる機器の方が、石油採掘の油井よりも複雑であり、耐圧性なども求められる。
(注2)データは井原(2011)のもの。
(参考文献)井原賢『世界の天然ガス埋蔵量の急増』、石油天然ガス・金属鉱物資源機構、2011年。

2012年2月4日土曜日

建機の厳しい現状

以前、GPSを装着し、稼働状態をリアルタイムでチェックすることができる建機(建設機械、英語:construction equipment)を製造している日本企業が特集されている番組をみました。私は、その時、日本の建設機械メーカーの技術水準に感嘆、まだまだ競争力のある分野があるのだという印象を受けました。それからかなり時間が経過した現在、建設機械を製造する日本企業の実情を表す記事が掲載されていましたので引用します。引用元は、日本経済新聞2012年1月23日付朝刊で、記事の見出しは『油圧ショベル、中国シェア、コマツ首位陥落、三一重工が逆転、販売攻勢激しく』です。以下引用文。
『建設機械の代表格、油圧ショベルの世界最大市場である中国で、コマツが3年ぶりに首位から陥落した。首位に躍り出たのは前年6位から急浮上した地場大手で、「サニー」ブランドで知られる三一重工。今年1年を占う春節(旧正月)連休明けのかき入れ時を控え、台頭する中国メーカーを日本勢も無視できなくなりつつある』
中国市場ですので政治がらみでそもそも不利な立場にあるのは確かですが、日本の建設機械メーカーの置かれている状況は日増しに厳しくなっていることが伺える記事です。以前、日立製作所の連結ベースの利益のほとんどを子会社である日立建機がたたき出していることを聞いたことがあります。世界各地で活躍する日本の建設機械というイメージが強かったのでが、これもかという印象で、とても残念です。もっとも、この分野で技術的に圧倒している日本企業だですが、運用状況をリアルタイムで追跡できるほどのハイテク建機が求められる現場は限られているというのが中国市場の実情でしょう。つまり、中国の建設現場ではそこそこの技術の建設機械の需要が大きいのであって、そこにコマツの首位陥落の原因であったといえます。技術的な優位性は依然として維持している日本企業ですが、そこそこの機械では、当然のことながら価格面で中国地場企業に歯が立たないからです。しかし、上のグラフからみても、建設機械の代表格である油圧ショベルの2011年(見通し)における世界市場に占める中国のシェアは40%近くに達しており、建設機械メーカーにとって無視の出来ない市場にまで成長しています。加えて、中国内陸部はまだインフラ整備が進んでいないことから、今後、さらなる需要の拡大が見込まれており、中国市場を制することが、世界トップであることを意味することになるでしょう。
一方、建機の老舗である米キャタピラー社はどうなのでしょうか。『週刊ダイヤモンド』2012.1.14号に同社の記述(注)がありましたので引用します。以下引用文。
『連結売上高3兆5000億円の米キャタピラー社は、世界のどこでも48時間以内に部品を届けられるし、世界のどこでも修理できるサポート体制を構築している。だからこそ、設立して90年近くたつ今も"巨人"でいられる。日本法人の竹内紀行社長は、「数十年前から、1つの図面と同じ部品を使って、三つの工場で同じ製品を造ることができる」と日本勢にない優位性を強調する』
つまり、競争に打ち勝つためには、サポート体制の充実が大切であるということです。アフターケアなどサービス分野で拡充を進めることで、製品そのものの付加価値を高めるという戦略で、これは、米IBMが行った「サービスカンパニー」への脱却に近いものではないでしょうか。製品そのもののに競争力・技術力があってこそいえることなのですが、凋落する家電メーカーの後を追わぬよう、日本の建設機械メーカーも過度なハード依存・神話から脱却する必要があると思います。
(注)記事の題目は『日本発の世界製品で市場を席巻、建機業界が担う次世代付加価値』。

2012年2月3日金曜日

投資信託への投資

資産(財産)三分法というものがあります。偏った資産配分をしていると、リスク(又は不確実性)の顕在化により思わぬ損失を被ることがあることから、「株」「土地」「現金」などに分散して資産を保有していることが望ましいということです。もっとも、わが国の場合、バブル崩壊以降、この三分法が適切であったかどうかは何ともいえません。土地価格は20年前から下落し続けているし、株価も暴落です。そして、物価が下落しているデフレの中で、債券投資は別として、最もパフォーマンスが高かったのが、悲しいかな現金・預金による資産の保有(運用でないため「保有」という言葉を使用しました)ではなかったでしょうか。低金利であっても物価が下がれば、その購買力が増すため、名目ベースでの増加は少ないものの、実質な価値は増加するからです。
家計の金融資産の保有が銀行預金の偏っている中で、その凋落傾向が顕著なのが投資信託です。その投資信託の中で代表的な存在なのが、国際証券が運用するグローバル・ソブリン(グロソブ)です。その純資産残高は、一時は6兆円もあったのですが、期近では2兆円を下回るまでなっています。グロソブに関する記事が『週刊エコノミスト』2011.12.27号に掲載されていましたので紹介します。タイトルは『グロソブから資金流出、国際投信"独立"に黄信号』です。以下引用文。
『国際投信投資顧問が運用する国内最大の投資信託グローバルソブリン(グロソブ)の資金流出が止まらない。リーマン・ショック前に約6兆円あった純資産残高が今年11月、遂に2兆円を切った。円高に加え、運用の柱であったユーロ圏の国債(ソブリン)が危機的状況に陥り、解約が相次いでいるためだ。
国債投信は11月下旬、投資している原資産の価格下落を避けるためイタリア、フランス、ベルギー、フランス、スペインの国債をすべて売却したと発表。昨年1月に42%あったユーロ圏の国債組み入れ比率を投げ売りにより15%まで低下させ、欧州リスクを和らげたものの「解約が止まる気配がない」(証券会社幹部)という。運用ポートフォリオが劇的に変わり、「グロソブの生命線である毎月分配への不安が高まっている」ためだ』
 あのグロソブさえも厳しい状況になっています。投資信託の運用は、これから投資をする人々にとってはかなり魅力的な投資対象ではないかと思います。しかし、売り抜けた人もいるかもしれませんが、既に保有していた人々は少なからず損失を出しているのが実情ではないでしょうか。右の表は、2012年1月29日付読売新聞朝刊に掲載されていたオープン投資純資産残高の上位20銘柄をリストにしたものです。残高が減少したといえどもグロソブは2位の大和住銀の短期豪ドル債オープン(毎月分配型)を大きく上回っており、依然として圧倒的なプレゼンスがあるといえるでしょう。
表を作成していた気がついたのですが、上位20位の中のうち17銘柄まで「毎月分配」「毎月決算」「毎月」という言葉がついています。つまり、これらは、何らかの形で毎月配当金が支払われる投資信託ではないかと思われます。ここで、私の経験を述べさせていただきます。リーマンショック以前から投資をしており、損失が少ない投資信託の運用タイプの何かということです。私が保有している投資信託には、以下の通り大まかに3つのタイプがあります。

  1. リーマンショック前に投資をして、その後追加投資せず、配当金を現金で受け取っているタイプ
  2. リーマンショック前に投資をして、その後追加投資せず、配当金を再投資しているタイプ
  3. リーマンショック前から投資をして、累投にて毎月追加投資をしている上、配当金を再投資するタイプ
この中で、1のタイプが最も損失を出しており、最もパフォーマンスが高いのが3のタイプです。3のタイプは、リーマンショック、震災ショック、欧州債務危機を乗り越えてプラスになっている投資信託もあります。毎月分配型の投資信託は累投ができないと聞いています。従って、上記リストにある投資信託をリーマンショック前から保有している場合、配当金を再投資したとしてもマイナスであるケースが十分に考えられます。やはり、銘柄の分散に加え、時間の分散も投資には不可欠な要素であると感じました。そして、この時間の分散をする最も手軽な方法は「累投」です。「累投」は、ドルコスト平均法(注)により下げ相場の中でも、損失を限定させることができる投資方法です。わが国を取り巻く環境は日増しに不確実性を増しています。今後どうなるかわかりません。従って、これから運用する人、既に運用をしている人に限らず、銘柄の分散、時間の分散に常に配慮し、長期的な視野に立った投資に心がける必要があると思います。
(注)『週刊エコノミスト』2012.1.24号にドルコスト平均法の説明があります。p113。

2012年2月2日木曜日

独走、米アップル

今、ブログを書いていると、NHKのニュース番組「ワールドWave トゥナイト」で、世界最大の交流サイトFacebookが上場を申請したことが報道されました。予想される時価総額1000億ドルで、日本企業の時価総額第2位のNTTを上回るとのことです。2012年1月25日ブログ「IT業界の4強」で綴ったように、Facebookの上場を機に、株式公開では先をいくApple、Google、Amazonと同社の競争条件が同じになることで、4社間での競争がいっそう激しくなることが予想されます。
せっかくですので、今日はIT業界4強の一角を占める米Apple社について少し書かせていただきます。今でも、故スティーブ・ジョブス氏の特集番組が時々報道されています。2012年1月29日にNHKで報道されたBS世界のドキュメンタリー『スティーブ・ジョブス〜カリスマの素顔〜』で、私は同社の社名の由来を初めて知りました。社名の由来は、アップルの信奉者にとっては当たり前なのかもしれませんが、若かりし頃、ジョブス氏がリンゴ農園で共同生活を営んでいたという事実を前置きをした上で、アイザック・ニュートンに敬意を表して社名を「Apple」としたとのことです。そういえば、事業的には失敗しましたが、過去の製品の中に「ニュートン」という名の携帯端末がありました。社名の由来にもなった人物の名を冠していることからも、発売当時の思い入れが感じられます。ジョブス氏自身が世に送り出した最後の製品が、iPadという同様の携帯端末であったことも因縁めいたものですね。因みに、同社のリンゴのロゴの右側が少しが欠けているのは、トマトと間違われないようにするためです。この番組で、特に面白かったのは、同社の創業に関する部分です。「アップルは自宅のガレージで始まった」と記述されている記事をよく目にしますが、正確にはジョブスの妹の部屋で始まり、後にガレージに移ったというのが事実だそうです。
2012年1月26日付日本経済新聞朝刊に『独走アップル、新分野攻勢』という記事が掲載されていましたので引用します。以下引用文。

『【シリコンバレー=岡田信行】米IT(情報技術)大手9社の2011年10月〜12月期決算が出そろった。景気後退やパソコン需要の伸び鈍化などで2社が減収、3社が減益だった。減速感が漂う中、独走状態となったのはスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」がヒットしたアップル。スティーブ・ジョブス前会長の死去後も手堅い経営を継続、テレビへの本格参入も探るなど新分野でも攻勢が続く』

引き続き、Apple社の独走が続いているようですね。グラフは記事の表をグラフ化したものですが、同社の売上高・純利益はさることながら、売上高対営業利益率が28%にも及んでいることが驚きです。これは、同社独特の生産システムに加え、ブランドの高さによるもので、同水準の売上高の日本企業にはあり得ない水準の純利益です。日本企業も見習う点が多そうです。米調査会社の調べによると、iPhone4S(32GB)、iPad2 3G(32GB)の販売価格に対する製造原価率は、それぞれ約27%、約46%です(注)。この製造原価の低さが同社の利益率の高さを物語っています。
そろそろ、次のiPadの製品発表の時期ですね。私は、このデバイスを購入する予定です。第一世代のiPadを購入しましたが、実は最近まで全く利用していなかったのが実情でした。しかし、ここへきて利用率が急にあがっています。理由はiPadで地デジ・BSが視聴できるようになったこと、映像配信サービスHuluのコンテンツを視るのには一番適したサイズであることなどです。しかし、一番魅力を感じているのは、ブログを書く際に利用する白書などをiPadに直接ダウンロードして、iPadを書籍代わりに使用するようになったことです。ダウンロード版ですので費用はかからないですし、なによりもエコです。第一世代のiPadは描画速度がやや遅く、目に負担がかかります。第三世代のiPadはクアッドコアのCPUを搭載している噂があり、この欠点が克服していると思われます。スペックの正式発表の日を楽しみにしています。
(注)「Mac Fan」2012/3号の特集記事『Appleの正体』、p43、マイナビ。

2012年2月1日水曜日

対内証券投資は円高の要因か

私は、各国の為替相場は、長期的にはそれぞれの国の物価水準に帰すると考えています。これは、物価上昇の高い国は通貨安になりやすく、逆に物価が安定している国は通貨高になることを意味します。デフレの日本と違って、米国では年間1〜3%程度、消費者物価が上昇しています。戦後、1米ドル=360円から始まった円ドル相場は、この物価上昇の差が主因であり、円高、ドル安のトレンドは続いてるといえます。これは、購買力平価説に基づく為替相場の考え方です(注)
 もっとも、短期・中期的には金利水準の差などが影響することになります。1981年に就任したレーガン大統領は、慢性的なインフレを退治するため、徹底した金融引き締めを実施、大幅なドル高をもたらしました。ドル高により国内産業の弱体化を招きましたが、インフレを収束させることには成功しました。これは長期的なトレンドとは異なり、内外の金利差による為替変動であり、短期・中期的にはよくあることだと認識しています。私自身も、外国の債券を保有しており、その保有動機は高い利回り水準にひかれたからです。同時に、米国は慢性的に経常収支の赤字を抱えており、国内貯蓄だけでは、政府の財政赤字や投資を維持することができず、海外からの資金流入を常に必要とします。結果として海外から資金を呼び込むためには、どうしても他国と比べて高い金利水準を維持しなければならないのは当然の帰結です。
 この短期・中期的な要因と長期的な要因が混ざり合ったのが、現在の円相場と考えると、1米ドル=76円台という戦後最高値圏で推移しているのは、物価上昇の差、金利の差で説明できるはずです。2011年12月24日付けのブログ(タイトル『外貨建て資産の投資タイミング』)で語ったように、米国と日本の物価を現在の為替レートで比較した場合、米国の物価の方が安いのではないかということを示唆しました。ならば、金利差を考えてみましょう。米国の長期国債の利回りは10年物で2%弱、一方、わが国は1%弱の水準でにとどまっています。単純に金利差を考えれば、米ドル高になっても不思議ではありません。しかし、実質金利(=名目金利-物価上昇率)を考えた場合、物価が引き続き上昇している米国とデフレの日本を比べた場合、金利差は逆転することとなります。
つまり、今の円高の水準は、長期的なトレンドである両国の物価水準の差に加えて、実質金利の差が逆転もしくは縮小したことによる要因が重なり、円相場のオーバーシュートをもたらしていることが推測されます。
上記のことを踏まえて、2012年1月13日付日本経済新聞朝刊に『短期債の買越額最大、海外投資家、日本に資金逃避、昨年16.7兆円』の見出しの記事を引用します。以下引用文。
『財務省が12日発表した2011年の対内・対外証券投資によると、外国人投資家の短期債買越額が前年の2.5倍の16兆7395億円に上り、比較可能な05年以降で最大となった。中長期債の買越額も7.4倍に増えた。欧州債務危機や米国の景気低迷への懸念が高まり、海外の投資マネーが日本へ逃避したためだ。海外勢の円建て債への需要の強さは、外国為替市場で円高圧力がくすぶる一因との指摘もある』
私個人としては、わが国の政府の債務残高の推移を考慮した場合、日本国債への投資は敬遠したくなります。特に、今のように利回りが極端に低い場合、国債の価格変動リスクが大きくなるからです。そして、詳しく調べた訳ではありませんが、この円相場のオーバーシュートの原因は、円キャリートレードの巻き戻しの過程で発生していると考えていました。しかし、データが示しているように、確かに対内証券投資は短期債を中心に大きく増加しています。でも、安全資産として円が買われているという表現は不適切だと思います。世界の債務残高に占める日本国債の割合は非常に大きいものになっています。世界の金融資産の中で日本国債のプレゼンスは大きく、投資対象として円建ての日本国債は避けて通れないから、外国人投資家はやむを得ず購入しているのだという表現が適切ではないでしょうか。
(注)中谷巌『入門マクロ経済学(第5版)』、pp200-201、日本評論社、2007年。